シューティング・スター・プレス 稲垣裕之

   高松宮記念杯、初日第10R。大津びわこ競輪場は大きな歓声に包まれた。稲垣裕之が主導権を握り、その番手を村上義弘が死守。迫りくる捲りも巧み に牽制して、村上が1着。ライン3番手を固めた山口幸二が2着、逃げた稲垣も3着に粘った。両手を高々と挙げた村上に、地元ファンの声援がことさ らに高まった。稲垣もこの光景を感動の眼差しで見つめていた。
 「レース前は、本当に緊張しましたね。決勝戦くらいの気持ちで臨みましたし、先行日本一といわれた人が僕の後ろに付いてもらえるというのは光栄なことですからね。仮に村上さんは先頭で走っても十分勝てる人ですし、それでも僕の後ろを回ってくれるのですから、僕はそれ以上の走りをしないといけない。あれが村上さんとは5回目の連係になったんですけど、今までラインで決められてなかったんです。
  今度こそはという気持ちで臨んだし、ましてや最初から競り。村上さんの位置次第で駆け方も変わってくるけど、そこは気にせず自分の仕掛けられるところから、仕掛けようと決めてました。山口さんも3番手で内を締めてくれましたし、先頭、番手、3番手の役割分担が明確に出たレースだと思います。あまり競輪を知らない僕の知り合いも、あのレースを見て、『あれが競輪なんやな』と言ってくれて。僕もあれが競輪の本来の姿なんだなと思いましたし、走り終わって、すごく感動しました。ラインの力で先行選手は活きてくるんだなって思いました」
   稲垣はずっと村上義弘の背中を追い続けてきた。いつしか「大舞台で連係したい」という夢は「大舞台で2人でライン決着をしたい」に変わっていた。その変化は稲垣の成長の証でもあった。改めて「ラインの大切さ」を感じた稲垣は、準決勝で再び村上と連係。だが、今度は平原康多の捲りに屈して、両者とも決勝進出の夢は絶たれた。
 「やはりメインは準決勝だと思って臨みました。ここで、どうしても結果を出したかった。作戦的には先行に変わ りはなかったんですけど、平原君の力をもっと出させないように仕掛けないといけなかったですね。
  自分も脚力をロスしてしまったし、すんなり駆けすぎてしまったし、緊張しすぎた部分があって落ち着きがなかった。僕にもう少し流れを見極める力が足りなかったですね。後ろに3車も付いてくれたから、主導権取りだけは失敗してはいけないというプレッシャーがあった分、最終4コーナーまで残るような先行をあのメンバーでするのは、難しかった。悔しいですけど、収穫は多かったとも思いますね」 
準決勝の壁を突破するには作戦力を磨くことが必要

 目標としていた高松宮記念杯は準決勝敗退も稲垣の目には、はっきりと次の目標がうつっている。それが初のGTタイトルだ。
 「GTはまだ決勝に1回しか乗っていないんですよね。準決勝が壁になっているんですけど、それは山崎(芳仁)、小嶋(敬二)さん、平原、武田(豊樹)さんと対戦する時の対策を考えた時に、いままでの準決勝はいつも単調な走りになっていたのかなと。もっと相手に力を出させなくするべきですし、かつ自分の力を100%以上出さないといけない相手。そういう展開に持っていくための作戦力が劣っていたのかな。ただ、最近では普段の練習も調子が良くなってきて、自信も付いてきましたし、昨年GIIを獲れた自信もあります。だから今年はそれ以上を狙えるかなと思って走っているんですよ。
5月の全プロで1qTTを
力走する稲垣。見事、大会初優勝を飾る。
5月の全プロで1qTTを力走する稲垣。見事、大会初優勝を飾る。
やっぱりGTは欲しいタイトルだし、同期の井上(昌己)君も頑張っているんでね。同期が活躍してくれると励みになるし、すごいタイトルが身近に感じるんですよね。夢のようなイメージが今や明確な目標の一つ。すごい意識しやすくなりましたね」
 そんな稲垣に絶好のチャンスがやってくる。5月の全プロ競技大会で1qTTで大会初優勝。7月の寛仁親王牌で日本競輪選手会理事長杯にシードされたのだ。
「全プロ優勝は目標でしたし、それが競輪に繋がるというのは大きいことだと思います。メンバーを見たら、どうやら単騎みたいですけど(苦笑)、な んとかうまいこと走りたいですね。1qTTの優勝を自信に繋げて、この有利な勝ち上がりを活かして優勝を目指したいです。これからも先行にしろ捲 りにしろ、4コーナーまでラインを連れて来る『ラインの競走』を心がけて頑張りたいと思うので、応援よろしくお願いします!」


(月刊競輪 2008年7月号)


稲垣 Photo PROFILE
稲垣 裕之(いながき・ひろゆき)
1977年7月28日生。身長178cm、体重81kg。 在校順位は23勝で14位。師匠は八倉伊佐夫(42期)。高松宮記念杯の最終日に4倍のギアを使ったが「一度、実戦で使ってみたかったんです。弱点は分かりましたが、今の64で今後も勝負します。 一発勝負の武器としてならあれば強みかも。勉強になりましたね」
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