月刊競輪WEB|KEIRIN.JP
 誰もいない整備場。整然と並ぶ自転車が穏やかな光を浴び、まもなくウォーミングアップに訪れる選手を心待ちにしている。
 ここは競輪場。20代前半から50代の選手がファンの期待を背負い勝利を目指す舞台だ。醍醐味の一つは、ベテラン選手の老練の走りと若手選手の気鋭の走りが織りなす勝負の行方。さまざまな思いが交錯する舞台裏を写真で紡ぎます。
2019年6月 西武園競輪場
「お客さんにドキドキして欲しい」
近藤 幸徳
愛知  52期
56歳  A級3班
初めてのバンク走行で、1000mを19秒で走った。
「それからタイムを更新するたびに喜ぶ父の姿が印象的で、
この人のために頑張ろうと、厳しい練習に耐えてきました」
人の気持ちに応えたい思いが戦法にも表れた。
「主導権を握って、2番手の先輩を引き出せた時、
"幸徳ありがとう"って言ってもらえることが気持ちよくて。
そのうち逃げ切れるようになり、益々自力が面白くなった」
その思いは、今も変わらない。
「僕の車券を持っているお客さんにドキドキして欲しい。
今の目標は、本当に最後のレースで、
最終周回のバックストレッチ線を先頭で通過することです」
「次はA級2班戦だって感じでした」
伊藤 歩登
兵庫  113期
20歳  A級3班
実業団でレースを走る父のロードバイクで楽しさを知った。
「中学時代ハンドボールをやる傍ら、勝手に乗って、
明石から神戸に行ったり、明石海峡大橋を往復したりした。
体力が付き練習にもなって楽しいなぁと」
好きで選んだプロ道、デビュー1年を早かったと振り返る。
「中何日、何日とやってきて、もう12月。
そうしたら、次はA級2班戦だって感じでした」
自らの感触を大切に、見えてきた課題と向き合う。
「感覚がもっと敏感になって、
調子の好不調がコントロールできたら、
パワー不足を技術面でカバーできるのではと思っています」
「どこまでいけるか、自分との闘い」
塩満 賢治
鹿児島  58期
53歳  A級3班
闘病生活の2年があったから迷いなく走れる。
「大腸ガンになり半年後肝臓に転移、3回手術したんです。
復帰の半年ほど前から自転車に乗り始めました。
無理かなと思ったけど、復帰後もうすぐ8年になります。
あとはどこまでいけるか、自分との闘いです」
競輪との出会いは新聞だった。
「中野浩一さんが世界選7連覇、賞金1億円獲得を知り、
予備校に通っていたんですけどチャレンジしたいと思って。
中野さんと青森記念競輪で対戦した時、緊張しましたね」
印象的な闘いを胸に、ありがとうの気持ちで走り続ける。
写真・文 中村 拓人