月刊競輪WEB|KEIRIN.JP
 誰もいない整備場。整然と並ぶ自転車が穏やかな光を浴び、まもなくウォーミングアップに訪れる選手を心待ちにしている。
 ここは競輪場。20代前半から50代の選手がファンの期待を背負い勝利を目指す舞台だ。醍醐味の一つは、ベテラン選手の老練の走りと若手選手の気鋭の走りが織りなす勝負の行方。さまざまな思いが交錯する舞台裏を写真で紡ぎます。
2019年7月 京王閣競輪場
「ベストを出すことに集中して」
中武 克雄
大阪  57期
55歳  A級3班
GIを走っていた頃もチャレンジ戦の今も思いは変わらない。
「プロだから。特別競輪も一番下のクラスも一票は100円。
お客様に賭けてもらっているのだから気持ちは一緒です」
若手相手にまともに闘うのは厳しいが、負けてもいいと思った
ことは一度もない。三着までに入ってお客様に還元できるかど
うか、そのために全力を尽くす。
「いつまでたっても、練習などを工夫して走る感じが良くなっ
たり、ちょっとタイムが上がったりすると楽しい。あかんかっ
たらまた研究する。それ以上でもそれ以下でもない」
現状を受け止めつつ、ただ自分のベストを出すことに集中して
スタートラインに立つ。
「基礎から徹底して練習」
阿部 架惟都
宮城  115期
20歳  A級3班
スノーボードのオフシーズンにトレーニングの一環として
取り組んでいたのが自転車だった。出場した大会で好成績を
上げ、自転車が楽しくなり競輪選手へ。今年7月デビュー。
「競輪は上下関係や人間関係が大事ですね。絆というか、
ラインの大切さを感じています」
目標は師匠・櫻井正孝選手のような臨機応変に何でもできる
選手。
「櫻井さんは横の動きがとてもうまくて追走技術がすごい。
持久力もある。僕もそういうところを強化したい」
目下、師匠に一緒に考えてもらいながら、徹底して基礎から
練習に励む日々である。
「後輩やアマチュアを育てたい」
飯田 威文
埼玉  67期
47歳  A級2班
「30歳になる頃、結婚した妻が自転車競技の日本代表だった
ので、A級でいる自分が恥ずかしくて、S級目指してがむしゃ
らにやりました」
辛いことも多かったが上位戦での戦いは楽しかった。
「力、技術、気持ち、それぞれの持ち味がある。上に行けば行
くほど技の見せ合いというか、職人率が高くなってくる」
そこでの戦いを経て、40歳過ぎてからは後輩やアマチュアを
育てたいと思うようになった。
「今だからこそ見えるようになった事がいろいろある。それを
教えていきたい。自分の復習にもなるんです」
ガールズを目指す娘にも父の経験は財産になるだろう。
写真・文 中村 拓人