月刊競輪WEB|KEIRIN.JP
 誰もいない整備場。整然と並ぶ自転車が穏やかな光を浴び、まもなくウォーミングアップに訪れる選手を心待ちにしている。
 ここは競輪場。20代前半から50代の選手がファンの期待を背負い勝利を目指す舞台だ。醍醐味の一つは、ベテラン選手の老練の走りと若手選手の気鋭の走りが織りなす勝負の行方。さまざまな思いが交錯する舞台裏を写真で紡ぎます。
2019年8月 取手競輪場
「こんなに面白い仕事はないけん」
後藤 浩二
徳島  61期
50歳  A級3班
「全部自分に返ってくるし、あかんかったらあかんかったなりに落ち目になる。まぁ一生懸命頑張ったところで見返りがないところもある。そこが面白いところですよね」
去年の今頃はクビになるかもしれないと思った。
「苦しかったですね。家族会議もしました」
怪我をしないようにと言っていた矢先に落車で肩鎖関節を折ってしまったが、そのあと踏みとどまれた。
当初の目標は55歳まで選手を続けること。
「こんなに面白い仕事はないけん、ちょっとでも長くこの世界におりたいですね」
徳島弁で話しながらおだやかな笑顔を見せた。
「あきらめないように頑張る」
山本 隼人
大阪  111期
21歳  A級3班
デビュー3年目。思うような結果に繋がらない。
「理想はもっと上。足踏みが続いている感じです」
高校時代に自転車競技を始めたがプロのレースは難しい。
「ラインでの競走、それが一番大きな違いちゃうかな。全然慣れないですね」
今年2月に落車してしまい怪我の影響も響いたが、徐々に調子は戻りつつある。先の大きな目標よりも、まずはひとつ上のクラスに上がるという目標を確実に達成すること。
「デビュー当時の熱意のまま、それが一番大事かなと。あきらめないように頑張るのが一番」
言葉を選びながら、今の思いを話してくれた。
「ウエイトを始めたんですよ」
丹波 福道
岡山  74期
47歳  A級3班
デビュー26年目に突入した。ここまでやれたという思いと上位戦で走れなかったという悔しさが混在する。
「骨折などの怪我の繰り返しだったこともあるし、努力不足もあると思う」
かつては科学的トレーニングなどを取り入れていなかったが、最近になってウエイトトレーニングを始めた。
「今の新人選手は強いから、自分もこれまでとは違うことをやろうと思ってウエイトを始めたんですよ」
パフォーマンスが上がってきたと感じている。
「1着の喜びとかレースの緊張感とか、他の仕事では味わえない。一年でも長く頑張りたいです」
写真・文 中村 拓人