月刊競輪WEB|KEIRIN.JP
 誰もいない整備場。整然と並ぶ自転車が穏やかな光を浴び、まもなくウォーミングアップに訪れる選手を心待ちにしている。
 ここは競輪場。20代前半から50代の選手がファンの期待を背負い勝利を目指す舞台だ。醍醐味の一つは、ベテラン選手の老練の走りと若手選手の気鋭の走りが織りなす勝負の行方。さまざまな思いが交錯する舞台裏を写真で紡ぎます。
2019年10月 宇都宮競輪場
「シンプルなくせに奥が深い」
鶴良生
福岡  111期
24歳  A級1班
高校で自転車部に入ると決めた時に家族で話し合った。
「やるんだったらとことんやって選手をめざそうと」
その後、競技を通して自転車がどんどん好きになった。
「全部好きなんです。シンプルなくせに奥が深いんで」
同期にはすでにS級で活躍している選手も多いが、怪我もあり、やや出遅れてしまった。
「早くS級に上がりたいです。」
さらにスピードが速くなるS級のレースが楽しみだ。今年2月以降優勝がなかったが、取材直後に二度の優勝。
「子どもが生まれたばっかりなんでがんばらないと」
新しい家族の存在が追い風になる。
「完全燃焼するまで」
山根泰道
岡山  64期
50歳  A級2班
同期達に遅れまいと懸命に努力してS級になれたが、30歳を過ぎてA級に。もう一度上を目指し一人で練習を始めた。
「すべて自己責任で、新たな心境で頑張ろうと」
その後、45歳までS級のパンツを履くことができた。
「多分まだやりたい事、やり残している事があるんでしょうね。それを完全燃焼するまでやるんじゃないかと思います」
去年の落車から一年、やっと調子が上がってきた。
「体調が上がればもうちょっと上の競走ができるのではと思う。そうするとまた違うものが見えてくるんじゃないかと」
心の中にはっきりとしたビジョンがある。
「今は話せません。それは僕が辞めた時です」
「印がつけば頑張れる」
北沢勝弘
栃木  54期
57歳  A級2班
「ここまでやってこれたのは常に練習仲間がいたから」
そう話す57歳のベテランに競輪の魅力を聞いた。
「一番はファンに魅せる事だけど年齢とともに難しくなる。でも悩んで試行錯誤する事も面白いんじゃないかと」
自分の着を気にしてくれる人に声を掛けられたりすると、それが励みになる。
「印がつかないとモチベーションが下がるんですよ。ジャンが鳴った時に力が発揮できない。力がなくても印がつけば頑張れるところがある」
見る側の期待が選手に力を与える。目標は60歳現役。
「競輪場に行くと練習仲間がいますから」
「まずはしっかりS級に上がること」
佐山寛明
奈良  113期
32歳  A級2班
大学までは野球選手として活躍。甲子園も経験した。大学卒業後、四年間営業職に就いたがスポーツの道を模索した。
「高校の野球部の後輩、白上翔選手の話を聞いたのがきっかけでした。学校の練習はついていくのに精一杯でした」
と振り返るが、いまさらに競輪の難しさを痛感している。
「タイムだけではなく展開作ったりしなくてはならないから」
師匠・黒川茂高から今はしっかり先行してラインを連れて行くことが大事だと教えられ、しっかり最終バックをとるレースを心がけている。
「まずはしっかりS級に上がることが目標です」
自ら切り拓いた競輪選手としての道を一歩一歩進んでいく。
写真・文 中村 拓人