月刊競輪WEB|KEIRIN.JP
 誰もいない整備場。整然と並ぶ自転車が穏やかな光を浴び、まもなくウォーミングアップに訪れる選手を心待ちにしている。
 ここは競輪場。20代前半から50代の選手がファンの期待を背負い勝利を目指す舞台だ。醍醐味の一つは、ベテラン選手の老練の走りと若手選手の気鋭の走りが織りなす勝負の行方。さまざまな思いが交錯する舞台裏を写真で紡ぎます。
2019年12月 川崎競輪場
「一人じゃないのが強み」
倉岡 慎太郎
熊本 59期
52歳 A級2班
「早いっすよ、早い!自分の歳が分からなくなりますよ」
若手を教えるようになってから、時間の流れが早い。
「人に教えることは難しいけど、それによって選手としてだけではなく人としても成長できると思うんです」
デビューしてから長い間「先行」で戦ってきた。
「先輩はいっぱいるし、必然的に先行せんといかんかった。 力があるうちに追い込みになっても良かったかなとも思うけど、魅せるレースができるうちは頑張ろうと思っていた」
競輪の魅力は他の公営競技やスポーツにはない人間臭さ。
「義理人情を大事にして走っているつもり。幾つになっても勉強することがある」
一緒に練習している若手たちに、歳をとってもやれるのだというところを見せたい。
「仲間がいる。一人じゃないのが強みです」

「競輪選手、楽しいです!」
磯川 勝裕
東京 113期
24歳 A級2班
競輪学校では成績が振るわず不安を感じていたが、デビュー後は楽しめていると話す。
「もともと我慢強いんです。それが競輪のレースに合っている感じがしました。先輩にも競輪向きだと言われます。 力を出し切ってぶっ倒れそうな時が一番楽しいです」
そのためにナショナルチームの練習を真似た苦しい練習を自分に課している。それなのに何故か脚より腹が太くなった。
「食べることが大好きなんです。ストレス発散。レースの終わりは必ず限界まで食べます」
デビュー戦の函館で優勝し、先輩に連れて行ってもらったジンギスカンの美味しさが忘れられない。
「競輪選手、楽しいです!」

「50歳でもS級に」
近藤 修康
岡山 67期
48歳 A級1班
いつでも静かな佇まいは、にぎやかな検車場の中でかえって印象に残る。
「優勝した時などは感情を出すこともありますけど、寡黙な方が格好いいというか、周りを不快にさせたくないんです」
4月でデビュー29年。思った以上に順調だったと振り返る。
コツコツ積み重ねた努力の裏には42年間競輪を続けた父親の存在がある。
「長く頑張ってきた父の姿を見てきた。自分もあきらめたくないという気持ちがあります」
腰痛の治療を兼ねて体幹トレーニングを取り入れている。
今年S級に復帰した。
「今48歳。目標は50歳でもS級にいることです」


写真・文 中村 拓人