月刊競輪WEB|KEIRIN.JP
 誰もいない整備場。整然と並ぶ自転車が穏やかな光を浴び、まもなくウォーミングアップに訪れる選手を心待ちにしている。
 ここは競輪場。20代前半から50代の選手がファンの期待を背負い勝利を目指す舞台だ。醍醐味の一つは、ベテラン選手の老練の走りと若手選手の気鋭の走りが織りなす勝負の行方。さまざまな思いが交錯する舞台裏を写真で紡ぎます。
2020年1月 川崎競輪場
「悔いを残さないように」
高尾 剛文
福岡  66期
50歳  A級3班
競輪選手は小学生の頃からの夢。身体が細く、両親には無理
だと言われていたが、4度目の受験で合格し、夢を叶えた。
「この30年で印象に残っているのは事故点の関係でA級1
班から当時のB級班まで一気に落ちたこと」
奮起して一位の成績でA級に戻った。
「原動力は家族。結婚して子供もできたばかりだったので」
今は子供のサッカーの試合観戦が一番の気晴らしだという。
10年ほど前には5ヶ月ほど配分が止まり、練習しながらき
ついバイトでしのいだこともある。挫折を乗り越えてここま
できたが、今また大きな節目にさしかかった。今期成績が悪
いと代謝制度で選手を辞めなければならないかもしれない。
「この半年が勝負。短い人生、悔いを残さないように頑張り
たい」
「毎日全部見るんです」
佐藤 礼文
茨城  115期
28歳  A級3班
いろいろなスポーツを経験してきた。大学ではトライアウト
を受け、俊足が評価されアメフト部に入った。
「それまでの中でアメフトが一番面白かったです」
卒業後、鍛えた身体で稼ぎたいと競輪選手を目指した。
「練習、きついです。自転車が一番きついと思います。
でも、アメフトと同じように面白いです」
アメフトで培った高い動体視力で、周りの動きを認識したり、
予測したりする。レースを観て研究するのも好き。
「毎日携帯を使って競輪のレースを全部見るんです。だから
初めて会う人でもレースは頭にあります」
武器はスピード。課題は航続距離。
「茨城は強い人がいっぱいいるので、同じ舞台で走れるよう
に力をつけて頑張りたいです」

写真・文 中村 拓人