競輪の売り上げの一部は医療、福祉、ものづくり、スポーツ振興など様々な分野の活動に役立てられています。選手の走りと、ファンの皆さんとで創り出す競輪補助事業。どんなところに、どんな形で支援が行われているのか、ご紹介していきます!
今回は研究者たちを支援する「研究補助」を受け、スポーツ自転車の開発や機材選びに役立つシステム作りを目指す、山梨大学助教・堀井宏祐先生にお話を伺いました。
ロードバイクの特性をコンピュータで解析。"感覚"を目に見える形へ
山梨大学工学部助教・堀井宏祐先生
実験で使用したロードバイク。
上半分がカーボン、下半分がアルミを使用したフレームは堀井先生の私物
ホイールのデータ測定で使用したカーボンホイール。
もう一種類のアルミホイールでも計測を実施
パワーメーターはCinqo Saturnを使用し、
出力とケイデンスを測定
堀井先生と、
今回の取材に参加された佐藤勝彦選手(左)
「研究補助」は、自転車を含めた機械工業分野の振興を目的に、大学などの研究者たちを支援しようと、平成23年度から競輪補助事業の中に新たなカテゴリーとして設けられました。今回ご紹介する山梨大学の堀井宏祐先生は、この研究補助を受け、「知的情報処理を用いた自転車の特性評価」という研究を行っています。
最近、愛好者も増え人気の高まっているスポーツ自転車ですが、その代表格といえばロードバイク。ロードバイクはフレームやホイールといった機材を組み合わせ、自分好みの自転車に作り上げられるのも魅力のひとつですが、一口に機材と言ってもカーボンやアルミ、スチール、チタンなど様々な素材、また形状の違いなどがあります。一般にロードバイクのようなスポーツ自転車は、機材の違いが乗り心地に大きな影響を与えると言われていますが、この乗り心地を表現するのはなかなか難しいこと。あくまで感覚的なもののため、乗る人の体格や体力などによっても感じ方は異なり、機材の違いから実際にはどんな影響を受けているのか客観的には判断しづらくもあります。
堀井先生の研究は、この"感覚"を数値化し、解りやすく目に見える形で表せるようなコンピュータシステムの開発です。堀井先生は毎日の通勤のほか、休日には100kmほどロードバイクで走るという本格的なサイクリスト。普段から自転車に親しむ先生ならではの着眼点から生まれた研究ともいえます。
実際にどんな形で研究を進められているのかというと、まず最初に行ったのは、ロードバイクでの走行データ計測です。研究初年度は対象をホイールに絞り、アルミ製とカーボン製2種類のホイールを用意し、実際にロードバイクで走行して、それぞれの条件下での出力とケイデンス、速度、心拍数などのデータを測定。このデータを使い、ホイールの特性を評価するプログラムを試作し、ホイールの素材や形状の違いによる測定値の変化を可視化する試みを行いました。
「例えばプロの選手であれば、サドルを1mm動かしただけでも違いが分かると思うんですけど、僕のような素人には感覚としてほとんど解らない。でも変えた結果として何か違いはあるはずなので、そういうちょっとした変化を素人でも解るような仕組みができればいいなというのが、この研究のそもそものきっかけなんです。現段階ではホイールやフレームでの実験を進め、使用機材が身体や走行性能に与える影響を客観的に把握するシステムができれば、自転車や機材選びの指針に結びつけられるのでは」と堀井先生。
今後はもっと色々な条件で多くのデータを採り、最適なシステム作りの検討を重ねていく必要があるそうですが、堀井先生は「2、3年くらいをメドに、一般の人が見ても分かるような形のものにできれば。今は実際に走った測定データに基づいたものだけですが、将来的には乗り心地といった、もっと感覚的な部分も目に見えるようにしたいですね」と、これからの展望を話してくださいました。
今回の取材に参加して頂いた佐藤勝彦選手にお話を伺いました。
佐藤勝彦(山梨・64期)
─自転車に関する研究内容でしたが、プロの選手である佐藤選手はどんな感想を持たれましたか?
「自分たちの世代はもう本当に感覚のみという感じで、数値化して管理するようなことはほとんどなかったと思うんですけど、最近はパワーメーターとかを付けて練習している選手もいますよね。出力やケイデンス、左右のペダリングのバランスなんかも見られますから。プロだけじゃなくて、一般の方でも結構付けている人がいて、僕の知り合いでも何人かいるんですよ。(今回の研究のような)誰にでも解りやすく数字で確認できるシステムっていうのができて、それが身近なものになってくれれば、曖昧な部分も少なくなるし、いい形じゃないかと思いますね」
─やはり機材によって乗り心地はずいぶん違うものですか?
「そうですね。例えば普段の競輪では決まったフレームとホイールを使っていますけど、関東プロ選手権の練習の時なんかにカーボンのディスクホイールを使わせてもらったりすると、全然加速が違ったり。競輪の自転車にしても素材はみんな同じクロモリですけど、フレームの堅さの微妙な調整で乗った感触は全く違ってきますから。そういう機材の特性っていうのはやっぱり大きいと思いますね」
─こういった研究分野にも競輪補助事業が役立てられていることについては?
「やっぱり補助事業というと競輪マークの入った検診車とかのイメージが強かったんですけど、こういう研究にも使われているんですね。今回は自転車に関する研究でしたけど、この山梨のあたりもすごく自転車好きな人が多いと思うんですよ。土日なんて、外を走っているとびっくりするくらいたくさんのサイクリストに会いますし、年齢層も幅広い感じで。最近は自転車のイベントも多くて、僕ら競輪選手もお手伝いで参加したりする機会が増えたんですけど、そういう自転車好きの方々に役立つ形に繋がれば嬉しいですね」