競輪の売り上げの一部は医療、福祉、ものづくり、スポーツ振興など様々な分野の活動に役立てられています。選手の走りと、ファンの皆さんとで創り出す競輪補助事業。どんなところに、どんな形で支援が行われているのか、ご紹介していきます!
今回は、宮城県石巻市の「NPO法人 フェアトレード東北」です。
被災した高齢者たちの生きがいと雇用の場を創り出すソーシャルファーム事業
石巻市内にある畑。ここで
ソーシャルファームの農業が行われている
お年寄りたちが畑仕事に汗を流す
大学で学んだ専門知識を生かし、
農業指導を行っている沢田さん
イタリアンパセリ。イタリア野菜を多く栽培
子供たちが参加して植えた野菜の姿も
この日集まったスタッフ、参加者の皆さん。
向かって右端の男性が「フェアトレード東北」の
布施龍一代表
東北地方を中心に甚大な被害をもたらした、2011年3月の東日本大震災。「フェアトレード東北」は、その被災地である宮城県石巻市に拠点を置くNPO法人です。様々な活動を行っている同団体ですが、その中の一つに被災した高齢者たちを対象としたソーシャルファーム事業があります。
ソーシャルファームとは、社会的弱者に活動や雇用の場を提供するシステムのこと。もともと「フェアトレード東北」では、引きこもりやニート、適応障害の若者や一人暮らしの高齢者など、社会から孤立しがちな人たちのためのソーシャルファームとして農業を行っていましたが、震災後、家族や拠りどころをなくした高齢者たちも参加するようになりました。
「フェアトレード東北」は代表の布施龍一さんを中心に、震災直後から独自に避難所や周辺集落などを回り、被災者の中でも弱い立場の高齢者たちをケアしてきました。その後、孤立・孤独死の予防を目的に、支援の届きにくい独居高齢者や高齢世帯を中心に戸別訪問する巡回訪問業務を石巻市より受託。
この活動の中で3000人の高齢者にアンケートを取り、「今なにをしたいか」を尋ねたところ、「とにかく体を動かしたい」という声が多く、中でも農作業を希望する人が目立ったといいます。
そこで、かねてより同団体で行っていたソーシャルファームの農場で、被災した高齢者たちを受け入れる取り組みを開始。心のケアを担当する臨床心理士や、本格的な農業指導を行える専門家を加え、参加する高齢者たちを様々な角度からバックアップする体制を整えました。
「このソーシャルファームは農作業を通じたコミュニティと就労の場なんです」と話す布施さん。
震災でそれまでの人間関係や居場所が失われ、孤独感を募らせる高齢者たちが新たなコミュニティに参加し、友達・仲間を作ることで、以前のような楽しみや喜びを取り戻せたら。そして、働いて収入を得ることでやりがいや生きがいに繋げられたら。そんな思いのもと、「フェアトレード東北」の農場は運営されています。
農場で作られているのは主に野菜で、中でもメインはイタリア野菜。特に珍しいのがラディッキオという野菜の中の一つ「タルティーボ」で、イタリアンレストランなどで需要がある高級野菜ですが、日本ではほとんど栽培されておらず、なんとこの農場が一番の生産地なのだとか。
イタリア野菜を選んだ理由は、石巻の気候が栽培に適していることと、手間や工程のかかる細々とした作業が多いことが、逆に体力に不安のある高齢者に向いているからだといいます。
今現在、20人前後の方々がこの農場に参加しているそうですが、「もう少し規模を大きくできれば受け入れられる参加者も増やせるし、雇用にも繋げられるので、今後は栽培した野菜の販路の開拓や、高齢者にもできるユニバーサル農業のような働く環境作りをしていく必要がありますね」と布施さん。
農業で使う設備にはお金のかかるものも多く、国や民間からの震災関係の助成金にも限りがある中で、「このソーシャルファーム事業は地味なせいか、なかなか資金的な援助を得ることが難しかったので、競輪の補助には本当に助かりました」。
競輪補助事業の中には、被災者や被災地域の支援を目的とした「東日本大震災復興支援補助」というカテゴリーがあり、震災の年から設けられ、現在も続いています。今回の「フェアトレード東北」でも、この補助が活用されました。
震災から4年が経ち、被災地域の復興も進みつつあります。しかし、被害を受けたのは建物や道路など目に見えるものだけではありません。表面的には分かりにくいため、ともすれば見過ごされてしまう、人の「心」。建物や道路を修復するのに時間がかかるように、「心」の再生にも相応の時間を要します。
まだまだ様々な形での被災者・被災地支援が望まれ、必要とされています。