「師匠の目」第2回目は岐阜の山口富生選手と松岡篤哉選手、竹内雄作選手の3人にスポットライトを当てます。これまで数多くのタイトルホルダーを出してきた岐阜県の中でもその将来を嘱望されている松岡選手と竹内選手。その2人を師匠の山口選手はどんな「目」で見ているのか。また、松岡選手と竹内選手から見た師匠の印象、お互いに対するライバル意識、さらにはヤンググランプリ出場が決まった両選手にはそこに向けての意気込みも聞いていますので、内容盛り沢山ですよ!
─山口選手には若手有望株の松岡篤哉選手と竹内雄作選手という2人のお弟子さんがいらっしゃいますよね。どういういきさつで弟子として取ることになったんですか?
山口富生選手
「松岡は僕にとって1番弟子になるんですけど、彼は通っていた高校が県立大垣商業高校で、部活が陸上部ということで、(山田)裕仁さんの直系の後輩にあたるんですよ。それで、その裕仁さんから『面倒みてやってくれないか』と頼まれたんですよね。僕も、それまで弟子なんか取ったことがなかったし、ちょっと迷ったりもしたんですけど、あの裕仁さんの頼みですからね、断る訳にもいかず…(笑)。それで、弟子にしたのが松岡でした。竹内は、松岡の後にもう1人弟子を取ったんですけど、それが向井裕紀弘(98期)という子で、彼も陸上出身なんですけど、その彼が岐阜経済大学で指導員をしていた時の教え子が竹内だったんですよ。そういう縁もあって弟子入りという形になったんです」
─弟子入りした当初、2人ともモノになりそうな予感はあったんですか?
「2人とも陸上をやっていただけあって、基礎的な部分はしっかりしていたし、磨けば光りそうだなっていうのはありましたね。でも、松岡に関しては1番弟子ということもあって、僕も手探り状態の中での指導だったんで、最初は色々と戸惑ったりもしましたね。竹内に関しては3人目の弟子ということもあって、そこまで戸惑いみたいなものはなかったかな。まあ、2人とも順調に成長してくれたので、師匠としてはホッとしているんですけどね」
─松岡選手も竹内選手もデビューしてから、そんなに時間が掛からずにS級に上がりましたからね。
「そうですね。松岡はルーキーチャンピオンを獲ったし、竹内もデビューから1年でS級まで上がってきましたからね。ああ、やっぱり、元々素質のある子たちだったんだなっていうのは改めて思いましたよ。ただ、ここ最近は2人とも伸び悩んでいるというか、なかなか結果を残せていないでしょ。競走得点も107点くらいまではいったこともあったけど、その上の110点までには届いてないからね。その110点というのがS級トップクラスとしての1つの目安なんじゃないかなというのがあるから、そこを突き抜けられないというのは、2人ともカベにぶち当たっているのかなという感じはしますよね」
─カベにぶち当たっている原因はどの辺りにあると思いますか?
「うーん…、松岡は組み立ての甘さかな。勝つ時はけっこうハデな勝ち方をするんだけど、大事なところで内を空けてしまって、そこをすくわれたりしていることが多いから、そういうミスを少なくしていけばもっと成績も上がっていくと思うんだけど。竹内は先行できなかった時に上手く気持ちを切り替えること。今年の1月にS級に上がって約1年でしょ。最初の内は対戦相手も竹内のことをよく知らないから、楽に先行させてもらえることもあったと思うんだけど、約1年で、『竹内はこういう選手』っていうのが分かってくると、そう簡単には先行させてもらえない。そうなった時にあくまでも先行にこだわるんじゃなくて、サッと引いて捲りに構えたりする対応力というのが必要なんじゃないかなと。もちろん、最初から捲りを考えるんじゃなくて、先行主体の組み立てをしていく中で、自分の思い通りの展開にならなかった時の柔軟性というのがこれからの竹内には求められていくと思いますけどね」
─師匠からみて、2人はその壁を乗り越えられると思いますか?
「まだ2人ともデビューしてから日も浅いし、経験を積んでいけば大丈夫だと思いますよ。それに、そういう壁みたいなものって、選手は皆経験するものなんですよ。それを乗り越えられた選手だけが、トップクラスにいけるというか。まあ、さっきも言いましたけど、2人も素質的にはいいモノを持っていると思うんで、いつか壁を乗り越えてトップクラスの選手になってくれるんじゃないかなと期待はしているんですけどね。そういう意味では今後の成長は本当に楽しみにしていますよ。ただ、松岡は年齢的(30歳)にもそこまでのんびり構えられてもらっては困るんだけどね(笑)」
─そして、年末の12月29日、その弟子2人がヤンググランプリという大きな舞台に立ちますね。
「これはすごいことだと思いますよ。なかなか同門同士でそういう大きな舞台に立つことって出来ないじゃないですか。しかも、それが自分の弟子っていうことはやっぱり嬉しいですよね。師匠冥利に尽きるというか。でも、ただ出場して終わるんじゃなくて、2人にはいいレースをしてもらいたいですよね。せっかく一緒に出るんだから、同門同士のアドバンテージを生かした阿吽の呼吸というか、そういうものを見せてもらいたいかな。それで、結果が付いてくれば最高ですよね。実力的に見ても9人の中では上の方にいる2人だと思うから、本番が楽しみですね!」
─当日は、現場に行かれたりするんですか?
「僕は多分行かないですね。競輪祭で優勝してグランプリに出られれば話は別ですけど、どうだろう(笑)?まあ、テレビ観戦することになると思うんですけど、あの2人ならきっと吉報を持ってきてくれると思いますよ(笑)」
─そんな弟子2人が頑張っている以上は、師匠として負けていられないですよね。
「そうですね。嬉しいことに2人も『師匠の前で駆けて貢献したい』と言ってくれているんで、まだ決めたことがない2人とのワンツーをいつか決められる様に頑張っていかないといけないなと。しかも、それが記念の負け戦とかじゃなくて、記念の決勝やGIの準決勝・決勝といった大きな舞台で実現させられる様にね。その為に僕も2人の頑張りを刺激にしながら、今の(S級での)ポジションをキープしていける様に頑張っていきたいと思いますので、応援よろしくお願いします」
─富生さんとの初対面の時のことは覚えていますか?
松岡篤哉選手
「最初は富生さんを紹介してくれた高校の先生と、高校の先輩の山田(裕仁)さんと3人で会ったんですよ。その時はすごい厳しそうなイメージでしたね(苦笑)。その後、弟子入りして、学校に受かるまではそのイメージ通りに厳しく色々と面倒をみてもらいましたね。でも、そのおかげで早い段階でタイムを出せる様になりましたし、それはすごくありがたかったなと思いますね」
─プロになった今も、色々とアドバイスをしてくれるんですか?
「今は聞けば教えてくれますし、僕のレースを見てくれているみたいで、組み立てに関してのアドバイスとかはけっこうもらいますね」
─最近のレースでは怒られることの方が多いんですか?
「そうですね…、最近は同じパターンで負けることが多いんで(苦笑)。よく、内を空けてしまったりすることがあるので、その辺はよく注意されますね。組み立ての甘さは前々から言われていることでもあるので、その辺は、この先同じミスを繰り返さない様にしていきたいですね」
─練習グループの雰囲気についてはいかがですか?
「今も山田さんとか、(山口)幸二さんと一緒に練習させてもらっていますし、冬になれば北海道から斉藤正剛さんや菊地圭尚さんが冬季移動してくるので、活気がありますよね。当然、充実した練習が出来ますし、環境的には最高だと思います」
─そういった最高の練習環境でやってきたからこそ、ルーキーチャンピオンを制したり、結果にも恵まれてきたということですね。
「そうですね。自転車経験はなかったんですけど、そういう早い段階で結果を出すことが出来たのは師匠をはじめ、練習グループの皆さんのおかげだと思います。なので、早くレースで貢献して恩返しがしたいですね。山田さんとはあるんですけど、師匠とワンツーを決めたことがまだないので、1日も早く実現させないといけないなとは思っているんですけど」
─そして、年末にはヤンググランプリの出場が控えていますよね。
「今回は弟弟子の竹内と一緒なので、僕は彼の後ろでしっかり仕事をして結果を残せたらいいなと。こういう大きいレースで同門同士で出場する機会っていうはなかなか無いので、何とかこのチャンスをモノに出来たらいいなと思うんですけどね」
─松岡選手はルーキーを制したり、一発勝負には強いですよね。
「そうかもしれないですね(笑)。少しでもそのアドバンテージを生かして、レースが終わった後に、師匠にいい報告が出来る様に2人で頑張りたいと思いますし、本番まであと1ヶ月弱ありますので、最高の状態に仕上げていける様に頑張ります」
─ヤンググランプリを共に戦う竹内選手の存在は松岡選手にとってはどんなものですか?
「彼のレースや成績はいつもチェックしてますし、弟弟子だからこそ負けたくないっていう気持ちはやっぱりありますよね。ただ、今置かれている状況でライバル意識を燃やすんじゃなくて、もっと上の方で競い合っていけたらいいなという感じですかね。僕もそうですけど、アイツもここ最近はイマイチ結果を出せていないので、2人で(競走得点)110点の壁を突破して、師匠を含めた3人で特別競輪の決勝に乗れたら最高ですね」
─では、今後の活躍を期待しているファンの方へのメッセージをどうぞ。
「これからも先行で魅せるレースをして、早くS級トップレベルまで上がれる様に頑張っていきたいと思いますので、応援のほどよろしくお願いします」
─師匠との初対面の時のことは覚えていますか?
竹内雄作選手
「覚えてますよ。自分が大学4年生の時だったので、21歳だったと思います。大学で陸上をやっていた時に教えてもらっていたのが、富生さんの弟子の向井さんだったというのもあるんですけど、当時、自分が通っていた接骨院の先生が元競輪選手でその先生に紹介してもらって、師匠のところに挨拶にいったんですけどね。初めて会った時は怖かったですよ(笑)。『俺の弟子になるんだったら、俺の言うことは絶対だからな』っていう様なことを言われましたからね。でも、逆にその言葉があったからこそ、師匠を信じて、言われた通りのことをやってたら自然と強くなっていったので、今思うと、いい言葉をかけてもらったんだなと思いますね」
─競輪学校に入学する際には「先行だけして来い」と言われたそうですね。
「そうですね。兄弟子の2人がいたので、それを見た上で、僕には先行して来いと言ったみたいで。その言葉を守ったからこそ、学校で力を付けることが出来ましたし、先行に対して自信を持つことが出来たので、師匠の言葉を信じて本当に良かったなと思いますね」
─今でも練習してる時などは師匠からアドバイスを貰っているんですか?
「練習面に関してはそれぞれの判断に任せている部分はあると思うんですけど、自分はそれでも分からないことがあった時に師匠に聞きにいく様な感じですね。そういう時は師匠もきちんと答えてくれますね。僕の場合は、自転車経験が浅いので、セッティングに関しては師匠に頼りっぱなしっていう感じなんですよね。一応、自分でセッティングを出してみるんですけど、それでは出し切れない部分があるので、そこを師匠にやってもらうんですよね」
─戦法の違いはありますけど、体格的には師匠と竹内選手はかなり似ていますよね。
「身長も1cmくらいしか変わらないですからね。そういう面でもセッティング面に関しては的確なアドバイスをして頂けるので、本当に感謝しています」
─師匠と一緒に練習する時間というのはけっこうあるんですか?
「街道練習には1人で行くことが多いんですけど、バンク(大垣)にいけば師匠はだいたいいつもいるので、一緒にやらせてもらって。とにかくお世話になりっぱなしなので、早く恩返しをしないといけないんですけどね(苦笑)」
─竹内選手の考える「恩返し」とは?
「やっぱり、レースで連係して、僕が先行して師匠の1着に貢献することが1番の恩返しになると思うんですよね。何回かチャンスはあったんですけど、まだ全然そこまでの力がないので、いつか必ず。それも、ただ恩返しをするんじゃなくて、GIとか、そういう大きい舞台で連係して恩返ししたいですよね。何とか来年あたりには実現させたいですね」
─「恩返し」という部分では、年末にはヤンググランプリも控えていますよね。師匠は同門から2人同時出場だから、期待しているみたいですよ。
「そうなんですか(笑)。せっかく、兄弟子と一緒に走るチャンスをもらったので、頑張りたい気持ちは強いですね。なので、今から、そこにピークをもっていける様にしっかりと調整して仕上げていきたいと思います」
─ヤンググランプリを一緒に走る、兄弟子の松岡篤哉選手は竹内選手にとってはどういう存在ですか?
「身近な目標というか、ライバルですね。バンクで会った時には、もちろん一緒に練習しているので、そうやってお互いに刺激しあって切磋琢磨していける存在というか。師匠のところに弟子入りしたからこそ、松岡さんともそういうライバル関係になれたと思うので、環境は最高ですし、本当に師匠のところに弟子入りして良かったなっていうは実感しますよね」
─それでは、最後にファンの方へのメッセージをお願いします。
「人気に応えるだけじゃなくて、先行して魅せるレースをする選手になっていきたいと思いますので、これからも温かい応援をよろしくお願いします」