第5回目となる師匠の目は、兵庫の松岡健介選手と角令央奈選手の師弟コンビです。昨年の11月に3場所連続完全優勝によるS級特別昇級を決めた角選手は、注目度・期待度ともに急上昇中の若手選手。そんな角選手のことを師匠の松岡選手はどんな「目」で見ているのでしょうか。さらに、この両選手は23日から開催される高松GIIIに出場予定。勝ち上がり次第では同乗する可能性は十分あると言えますが、同乗が実現した時の並びについても面白い話をしてくれていますので、最後までお楽しみ下さい。
─角選手が弟子入りしてきたいきさつから教えて下さい。
松岡健介選手
「彼は学校に入る前からアマチュアで出来上がっている状態だったので、師匠がいない様な状況で競輪学校に入学したんですよね。だけど卒業するにあたって、今後選手生活を続けていく上で、師匠がいた方がトレーニングなどやりやすいんじゃないかということを教官に言われたらしくて。それで、僕のところに来たみたいですけどね」
─その話が最初に来た時はどう思いました?
「その時はちょうど、素人の弟子が欲しいなと思っていた時期で。(自分の)成績が横ばいになっていて、新しい刺激が欲しかった。(弟子を取ることは)自分を見つめ直すいい材料になるんじゃないかなと。だから、弟子を取ることに関してはいい機会かなと思ってはいたんですよね。だけど、彼の場合は出来上がってる選手だし脚質も僕とは全く反対なので、(師匠は)俺じゃなくてもいいんじゃないかって最初は断ったんですよ。その時に『もう1回考えて電話して来い』って言ったら、『やっぱりお願いします』と。そういう流れで迎え入れたって感じでしたね」
─弟子を取ったことで、ご自身にはいい刺激はありましたか?
「そうですね。僕が知らない世界のことを知っているのが彼じゃないですか。長距離に関しては日本で何本かの指に入る選手ですからね。そういう面ではプラスになることがかなり多かったですね」
─「出来上がっている選手」に対して師匠としてどんなことを教えていったんですか?
「彼は選手として足りない部分というよりは、人間として足りない部分が多い様な感じがしたんですよね。『本当に強かったんか?』って思うくらいに(笑)なんかウジウジしていたり、精神的な部分でね。だから、『俺の練習の邪魔をする様な気持ちの持ち方をしているんだったら、辞めてくれ』っていう話はしましたね。弟子入り当時はメンタル面の弱さが目立っていましたね。練習以前の問題の方が大きい様に見えていましたから。そっちの面で怒ったことは何回かありましたね」
─その怒ったことによって角選手が精神的に成長した部分はあるんですか?
「どうなんですかねぇ(笑)。でも最近、真剣に練習に取り組む様になって。そうしたら、すぐに結果に繋がる様になりましたからね。それまでは、A級でも決勝に乗れるか乗れないかくらいだった選手が、練習し始めたら急に連勝して、S級特昇まで決めちゃいましたからね。まあ多分、彼の中で胸に期するものがあったんだと思うんですけど、とにかく変わったなとは思いますね。それは本当にごく最近のことなんですけど。それに、今こうして勝てる様になると、色々と楽しいみたいで、以前の様な自主性のなさもなくなってきた様に感じますし、もうどんどん自分でやる様になってきたなとは思いますね。もともと素質があったからこそ、練習すれば、簡単に結果を出せる様になるんだなって、本当に羨ましいですよ(笑)」
─弟子入り当初は、こうしてS級特昇を決めるまでの選手になりそうな予感はありましたか?
「いや、全然なかったですね。特昇を決めた時も、今まで僕が一緒にトレーニングをしてた子じゃない様な感じすらしましたし。ちょっと本気で練習したらここまで強くなるのかっていう感じで、僕もビックリしたくらいですから(苦笑)。正直、嬉しい誤算でしたね。まあ、本人もビックリしていると思うんですけど。ただ、成長したと言ってもまだまだですから、もっと上で一緒に走れる様になってくれるといいんですけど」
─特昇でS級という同じ舞台に上がってきただけに、いつかは連係してみたいですよね。
「そうですね。ただ、それがS級シリーズで一緒に走りたいかっていうとそんなことは全くなくて、どうせ一緒に走るんなら、GIIIとかGI、GIIとか上の舞台ですよね」
─師匠として、角選手にはこれから先どんな選手になっていって欲しいですか?
「彼と冗談交じりに話すことがあるんですけど、『一緒のレースになっても、俺(松岡)が前や』っていうくらい、彼はヨコの動きも無意識のうちにやれるみたいで。練習を見ていても、ヨコの動きに関して恐怖心がないみたいで、教わればもっと上達していくんじゃないかなって思いますね。なので、これっていう作戦がなくても勝ててしまうというか、何をやっても勝てる選手になって欲しいですね」
─タイプ的には松岡選手の同期・平原康多選手の様なイメージですね。
「いや、彼の場合は平原ほどスケールはでかくないと思いますけど(笑)。でも、いつかは僕が先行して、彼が仕事をした上でのワンツーは決めてみたいですね。もちろん、僕が1着ですけど(笑)」
─ご自身も弟子の活躍に負けない様に、頑張っていかないといけないですね。
「腰も2回手術して、終わった選手だと思っている方もいるかもしれないですけど、1回目の手術をした後に記念を獲ったり(2012年2月小田原での花月園メモリアル)もしましたし、2回目の手術をしたから落ちていくんじゃなくて、前回よりもいい成績を残せる様に、今年は特別競輪で結果を残していきたいと思っていますので、温かい応援をよろしくお願いします」
師匠は細かいところまでしっかり見てくれるんです。(角)
─松岡選手のところに弟子入りしようと思ったのには何か理由があったんですか?
角令央奈選手
「競輪学校に入っている時、教官に『師匠は誰なんだ』って聞かれて、『いないです』って答えたんですよ。でも、実は競輪学校に入る前に、去年引退された中里光典(42期・引退)さんに色々と手伝ってもらって師匠みたいな感じだったんですよ。それなのに、僕は『いない』って答えてしまって(苦笑)。それで、師匠はいた方がいいだろう、同じ教えてもらうなら強い選手の方がいいなっていう単純な理由から、兵庫県でS級トップクラスで戦っていた松岡さんがいいですっていう話を教官としたんですよね。それから連絡を取って、1回断られたんですけど、ずっと面倒をみてもらっていますね」
─練習は基本的にはマンツーマンなんですか?
「バンクに行けば、そこにいる人たちと一緒に練習したりもしますけど、室内練習は2人ですね。ウエイトとかパワーマックとか。街道にはほぼ行かないんですよ。練習メニューに関しては完全にお任せっていう感じですね」
─松岡選手はアドバイスをくれたりするんですか?
「そうですね。すごく論理的な方で色々とアドバイスをくれますよ。レースの運び方とか、今の自分の弱いところを指摘してくれて、補う為にはこういう練習をした方がいいんじゃないかっていう感じで、すごくタメになるアドバイスばかりですね。師匠は毎回、僕のレースをチェックしてくれているみたいで、ちょっとサドルの位置とかいじったらすぐバレるんですよ(笑)。それくらい細かいところまでしっかり見てくれているので、本当にありがたいですし、かなり信頼していますね。そういう意味では、今思うと師匠のところに弟子入りして正解だったんじゃないかなとは思いますね」
─練習では、褒められることより、怒られることの方が多いのでは?
「まあ、僕が怒られる様なことをよくやってますから、あんまり褒められたことはないですね(苦笑)。性格的なものもあるんですけど、昔は集中して練習することが少なくて怒られたことが多いですね。ただ、さすがにS級特昇を決めた時は褒めてもらいましたけど。なので、これからはもっと集中して練習して、師匠に褒めてもらえる様に頑張りたいなと」
─特昇を決めたり、S級でも勝ち星を挙げたりと、ここ最近は絶好調ですけど好調の理由は?
「去年の夏くらいに師匠にすごい怒られたことがあって。それはそれは厳しい感じで怒られたんですけど、あの時はさすがにヘコみましたね(苦笑)。その時にちゃんとしないとダメだなって、気持ちを入れ替えて頑張らないといけないなと思ったんですよね。それから集中して練習する様になったら急に成績が良くなっていったので、1番のきっかけは師匠に怒ってもらったことですね」
─去年の12月にS級特昇してから、S級では5場所走って(補充含む)いますが、S級で走ってみた感想は?
「色んな部分でA級とは全く別物なんですけど、S級の方が走りやすいですね。ただ、展開を読み間違えると、一瞬一瞬で決められちゃうんで、A級の時以上に集中力を研ぎ澄ませていかないといけないんだなっていうのは痛感しました。なので、これからはメンタル面の方も鍛えていきたいなと思っています。そして、ゆくゆくは師匠と連係できるところまで上がっていきたいなと」
─松岡選手は『弟子と連係したら自分が先行するから、仕事しろ』って言ってましたよ(笑)。
「それはよく冗談半分で話したりするんですよ。この間も一緒にもがいた時に、高松記念で一緒になるんですけど、もし、同じレースになったら僕が後ろ走りますなんて言ったりして(笑)」
─松岡選手が言うには、角選手は器用なところがあるから、自分が前を走ると言ってました。
「そうですか(笑)。まあ、実際にそう(同乗)なったらどっちが前になるかは分からないですけど、まずはワンツーを決められる様に頑張るだけですね」
─将来的にはどういう選手になりたいんですか?
「目標は追い込み選手ですね。もちろん、今すぐどうこうとかっていう訳ではないですけど、ゆくゆくは。でも、とりあえず、今は自力で戦ってタテ脚を磨いていくことしか考えてないですね。今は追い込み選手といっても、タテ脚がないと厳しいですからね。そういう意味でも、まずは自力で力をつけて、来たるべき時に備えていければいいかなと」
─それでは、最後にファンの方へのメッセージをお願いします。
「これからもファンの方を驚かせられる様な走りをしていきたいと思いますので、温かい応援をよろしくお願いします」