インタビュー

 今回の師匠の目は、福島県から岡部芳幸選手と小松崎大地選手の登場です。小松崎選手は昨年末のヤンググランプリで3着に入り、今月開催された地元・いわき平記念では一次予選1着、二次予選2着で準決勝に進出。注目の準決勝では9着と決勝進出こそ逃しましたが、タレント豊富な福島の次代を担う有望株です。そんな小松崎選手をタイトルホルダーでもある師匠の岡部選手はどんな「目」で見ているのでしょうか。
小松崎はあと3年が勝負だと思いますよ。(岡部)
─小松崎選手と1番最初に会った時のことは覚えていますか?

岡部芳幸選手
「覚えてますよ。彼は競輪選手になる前、独立リーグのプロ野球選手だったんだけど、自主トレで奄美大島に来ていて、そこに俺もいたんですよ。そこで、初めて会ったんだけど、その時は大地も競輪選手になる気は全くなくて、『お互いこれから頑張っていこう』みたいな感じだったんだけど、それが09年の1月だったんです。それで、その年の7月に小松島記念があったんだけど、彼は独立リーグの中でも徳島に本拠地を置くチームの所属だったから、ご飯を食べに行ったりして、その時も彼はプロ野球(NPB)のドラフトを目指していたんだけど、結局どこの球団からも指名されなかったんですよ。そうしたら、12月の頭に俺のところに電話が掛かってきて、『競輪選手になりたいんです』っていうことだったんで、面倒見る様になったんですよね。ただ、その電話をしてくるまでにもいきさつがあって、彼が独立リーグでプレーしていた時に世話になっていたトレーナーが徳島の競輪選手を何人か見ていて、紹介されていたんですよね。それで、競輪選手になりたいっていうことをそのトレーナーに相談して、1ヶ月近くは小松島競輪場で練習させてもらっていたらしいんです。そしたら、俺と小松崎の共通の友人がいるんだけど、その人に『競輪選手を目指す様になったきっかけは岡部なんだから、まずは岡部に話を通した方がいいんじゃないか』っていうことを言われたみたいで。それで、俺のところに電話してきた時には『福島で本格的に競輪選手を目指したい』っていうことだったんですよね」
─自転車経験がほとんどない選手の面倒を見るという部分ではプレッシャーもあったのでは?
「いや、そうでもなかったですよ。だって、あの体格を見れば分かるでしょ。勝手に強くなっていくんだろうなっていう雰囲気があるもんね(笑)。さらに、プロ野球の世界で挫折を経験しているからこそ、根性もあったし、すぐに強くなるんじゃないかなっていう予感みたいなものはありましたね。だから、俺は特別なことは何も教えなかったですよ」
─では、今でもあまりアドバイスはされていないんですか?
「俺は何か聞かれない限りアドバイスとかしないタイプなんですよ。それに今は(震災の影響で)俺は玉野で練習していて、ちょっと離れてしまってなかなか一緒に練習できないし、そういう風にアドバイスをする機会そのものが減ってしまっているしね。ただ、何ヶ月かに1回は俺が福島に帰ったりしているし、彼も勉強家なところがあって、彼の方から玉野まで来て一緒に練習したりもしているんですよ。そういうところはすごく真面目なところがあるよね。そこは彼の才能の1つではあるかな」
─レースの組み立てに関しても勉強熱心なところがあるんですか
「そうだね、そこに関してはけっこう色々と聞いてくるし。俺も聞かれたことに関しては責任を持って、ちゃんと答えているつもりではいるんですけどね。それに、そういう会話をしていると、逆に俺にとってもプラスになることもあるし、彼が一生懸命に上を目指している姿を見ると、『俺もまだまだ負けてられないな』みたいな感じで刺激になる部分はありますね」
─小松崎選手は先日の地元記念でも見せ場を作っていましたしね。
「4日間力を出し切ったみたいだし、あの4日間のレースがすぐに結果には繋がらないかもしれないけど、ああいうレースをすれば、いつか必ず自分にいい形で返ってくるからっていう話はしましたけどね。やっぱり、ああいう大きな舞台で成長した姿を見せてくれるっていうのは、師匠として本当に嬉しかったですよ。まあ、同じレースで走りたかったなっていうのはありますけど(笑)。それは今後の楽しみにとっておきますよ。出来ればGIとかもっと大きな舞台で連係してみたいですね」

─では、小松崎選手を指導するにあたって心がけていることなどがあれば教えて下さい。

「同じ練習で量を増やしたり減らしたりしてやっていても意味がないよと。色んなところに出稽古みたいな感じで行って刺激を受けてきた方がいいよっていうことは言ってますね。あの人の練習はダメだとかってことは俺は絶対に言わないから、とにかく色んなところに勉強しに行けと。それで、彼も色々と行ってるみたいだから、そこは忠実に守っているみたい」
─では、今後の更なる成長が楽しみですね!
「もちろんそうなんだけど、もう一声かな…。いいモノを持ってることは間違いないんだけど、長所と短所っていうのは紙一重で、真面目すぎることが裏目に出ることもあるし。戦法にしても一辺倒すぎるとそれが良いか悪いかってなると微妙なところがあって、真面目すぎるとレース前に考えた組み立てにこだわり過ぎちゃうところがあると思うんですけど、そうじゃなくて、もっと感覚を研ぎ澄ましてレースの流れに上手く対応できる様になっていかないとね。だから、色んな人のレースを観る様にしろっていうことは言ってるんですけど。そういう柔軟性みたいなものが身に付いていけばさらに強くなっていくと思いますよ。そういう意味では彼もあと3年が勝負なんじゃないかなと思いますけどね」
─その3年は岡部選手も踏ん張っていかないといけないですね。
「置いていかれない様にしないとね(笑)。師匠と弟子ではあるんだけど、お互いに切磋琢磨していければいいかなと。俺も約2年くらいGIの決勝から遠ざかっているけど、そこ(GI決勝)まで辿りつけそうな感覚はあるんですよ。だけど、ギアやセッティングとレースの流れやレースの中での状況判断とか全てがちょっとだけ噛み合ってないところがあるから、そこをしっかり修正してGIの決勝に乗りたいですね。まだまだ師匠としての威厳を保っていける様に頑張っていきますので(笑)、これからも温かい応援よろしくお願いします」
グレードレースでワンツーを決めたい!(小松崎)
─岡部選手のところに弟子入りしようと思ったいきさつから教えて下さい。

小松崎大地選手
「独立リーグでプロ野球選手としてやっていたんですけど、その時に共通の友人でもある下柳剛さん(元プロ野球選手)を通じて知り合ったんです。それで、僕が野球を辞めるってなった時に競輪選手に挑戦してみたいなっていう気持ちが出てきたので、岡部さんにお願いしたんですよね」
─野球を辞めて競輪選手の道を選んだのは岡部選手の存在があったから?
「そうですね。それと、徳島で野球をしていたんですけど、ウエイトトレーニングのジムに競輪選手の方がいたので、その2つが大きく影響したことは間違いないですね」
─野球をやっていた徳島でそのまま競輪選手になるという選択肢はなかったんですか?
「徳島の競輪選手の方たちも本当によくしてくれて、色々と面倒を見てくれたんですけど、それまでとは全く違う、自分の知らない世界に飛び込むにあたって、そこに甘えが出てしまってはダメだと思ったので、環境を変えて岡部さんの下でやれば、そういう甘えがなくなるかなと思ったんですよね。あえて、自分を厳しい状況に追い込むというか。年齢的にもラストチャンスみたいなところもありましたし」
─師匠としての岡部選手は厳しいですか?
「どうなんですかね(笑)? でも、間違ったことをすれば怒られますね。私生活のことではけっこう怒られてると思います。当たり前のことなんですけど、練習場所に集まる時の遅刻は厳禁ですし、道場の掃除をしっかりしていなかったり、自分が脱いだ服をきちんと整頓しないと注意されますね。やっぱり、そういう私生活で隙を作ってしまうと、競輪の方でも大事な勝負どころで隙を作ってしまうと思うので、そういう私生活の面からしっかりしていこうという風には心がけていますね」
─逆に褒められることはあるんですか?
「あんまりないですね(苦笑)。怒られることも少ないですけど、褒められることもないですね。もちろん、褒められれば嬉しいんですけど、褒められないっていうことは、逆に言えばもっと出来るって期待してもらっているっていうことの裏返しなんじゃないかなと」
─現在、岡部選手は玉野で練習されていますが、小松崎選手もちょくちょく玉野に行かれているみたいですね。
「そうですね。ペース的には3ヶ月に1回くらいなんですけど、すごくいい刺激になりますね。師匠と一緒に練習することで気も引き締まりますし、地元の練習仲間の方たちとは違うメンバーと練習することでプラスになることもけっこうあるので、時間があれば(玉野に)行く様にはしてますね。僕が玉野に行った時も岡部さんは本当によく面倒みてくれますし、お世話になりっぱなしです。でも、そんな岡部さんに僕は今のところ恩返しらしい恩返しが出来ていないので、これからもっと頑張っていかないといけないなとは思っているんですけどね」
─小松崎選手が考える、岡部選手への最高の恩返しとは?
「もちろん、ワンツーを決めることですよね。それも、FIとかではなくて、記念やビッグレースの勝ち上がりで決めたいですよね」
─記念といえば、先日の地元記念では準決勝に進出するなど大健闘でしたね。
「地元記念ということで特別な思いはありましたけど、背伸びしても仕方がないし、今の自分に出来ることは限られているので、一戦一戦しっかりと自分の力を出し切るというのを心がけた4日間でした。ただ、自分の力を出し切った結果、準決勝で負けてしまったというのは、まだまだトップクラスとは力の差があるっていうことなので、満足はしていないですね」
─では、今後の目標はどの様に考えていますか?
「今年はGIの出場権を手にしたいなと。その為にも、まだS級で優勝したことがないので、1日も早く決めたいなっていうのもありますし、一戦一戦を大事に戦って、1年間安定した成績を残していきたいですね。そうすれば、年末のヤンググランプリや来年のGI出場にも繋がっていくと思うので」
─GI出場へのステップとして、4月に開催される共同通信社杯(福井)でのビッグ初出場が決まっています。
「ビッグレースともなれば格上の選手ばかりなので、思い切って自分の競走をすることが出来れば、トップクラスとの力の差もハッキリと分かると思うんですよね。それが分かればこれからどういう練習をしていったらいいかとか、自分にとってプラスになることがあると思うので、福井での4日間をムダにしたくないですね。それに、共同通信社杯には岡部さんも出場されるので、気合いも入りますし、師匠の前で下手なレースはできないですから」
─最後に今後の意気込みを含めてファンの方へのメッセージをお願いします。
「福島県は強い選手がたくさんいる中で、91期以降からちょっと元気がない様な気もするので(苦笑)、僕が頑張って若手を盛り上げていきたいと思いますので、応援してもらえると嬉しいです」