インタビュー

 今月の師匠の目は、その直線で見せる鋭い差し脚で長年に渡って多くの玄人ファンを魅了し続けている佐々木龍也選手とそんな佐々木選手に師事する松谷秀幸選手。松谷選手はプロ野球からの転向組で、身体能力は折り紙付き。南関期待の大型先行としてその将来を嘱望される選手です。そんな2人はお互いのことをどんな『目』で見ているのでしょうか。2人の間にある強い信頼関係が垣間見えるインタビューとなりました。
心を育てるということを意識しています。(佐々木)

佐々木龍也選手
─松谷選手と初めて会った時のことは覚えていますか?
「覚えてますね。プロ野球の世界がダメだったので、競輪の世界でもう1回人生をやり直したいっていう熱い思いが伝わってきましたね。初対面の時は優しそうな子なのかなっていう印象で、やっていけるかなと思ったりもしたんですけど、プロ野球からドラフトで指名されて、あの厳しい世界に6年もいたっていうことで、自転車に関してはほとんど素人だったんですけど、基礎体力やスタミナは全然モノが違ってましたよ。そういう土台の部分はしっかりしたものがありましたから、頑張れば何とかなるんじゃないかなっていう、将来性は感じましたね」
─実際、今では南関に欠かせない先行型の1人になりましたね。
「僕の中ではここまでの選手になるにはもう1年くらいはかかるかなと思っていたので、当初の予定よりは早く成長してるんじゃないですかね。やっぱり、彼には素質があるのかなと。それに、素質ももちろんですけど、すごい真面目なんですよ。最近では、僕が『もうそこまでにしたら』っていうまで練習していたりしますから。野球をやっていた頃はあまり練習してこなかったらしいんですけど、それで失敗してしまったから、競輪では絶対に失敗できないっていう思いがあるからなのか、とにかく根性が据わってますね」
─プロ野球からの転向ということで、指導する側の佐々木選手が心がけていることはありますか?
「まずは心を育てようと。プロ野球選手まで登りつめた訳ですから、考え方というか、気持ちの部分を育てていくことが出来れば、絶対に大成すると思ったんです。常にハングリー精神を持って、『競輪では絶対に勝っていくんだ』っていう強い気持ちで何事にも臨んでいける様にしてやりたいなと思いまして。競輪って、タイムがいいからとかそいうの関係なく、勝った者が『強い』世界じゃないですか。心が弱いと色んなところで妥協してしまうこともあるだろうし、マイナスのことを考え始めると、伸びるところも伸びなくなってしまいますから、まずは強い気持ちを持った選手に育てるというのは心がけていることですかね」
─技術的な部分では、今はどんなことを教えているんですか?
「今の競輪では最後方に引いてしまったら、なかなか苦しくなってしまうんです。これだけみんなが大きいギアをかけているから、なおさら。だから、いざという時にいい位置を取りにいける様に、ヨコの動きっていうのを教えていることろではあるんですよ。やっぱり、後ろに付く側からしても、引いて8・9番手になるよりも、中団で粘ったりとか前々に踏んでいってくれる選手の方が安心感があるというか、付きたくなりますから。だから、そういうこと(ヨコの動き)を教えていたら、そっちばかりを意識したレースになってしまったので(苦笑)、『積極性も忘れるなよ』ということは言っているんですけどね。記念やGIで優勝するっていうことを意識しているのであれば、まだまだ自力勝負で脚を磨いていかないといけない時期でもありますから」
─師匠の佐々木選手から見た、松谷選手の長所と短所を教えて下さい。
「長所は目標を決めたら、けっこう頑固なところがあって、それに向かって真っ直ぐ進んでいけるところですかね。短所は、いざっていう時にどうしても引いちゃうというか、弱気になってしまうところがあるので、今後の練習でもしっかりしごいて、自信を持たせてやりたいなと。やっぱり、練習でキツいことをやってきたっていう裏づけがあれば、レースでも強気に攻めていけると思うのでね」
─練習はマンツーマンでやっているんですか?
「デビューしてからマンツーマンでやってきて、『3年経ったから、もう自分のやりたい様に練習していいぞ』って言ったんですけど、それでも『お願いします』ということだったので、今も一緒に練習していますよ。それに、息子(龍)もたまに加わってね。練習は基本的には街道中心です。松谷も自転車経験はまだまだ浅いので、とにかく自転車に乗ってもがいて、競輪選手として1人前になる為の準備をしている段階ですね」
─松谷選手や息子さんといった若い世代と一緒に練習することで佐々木選手にとっても大きな刺激になっているのでは?
「それはすごくありますね。僕は師匠という立場ではありますけど、逆に彼らから教わることも沢山ありますし、これからもお互いに切磋琢磨していければいいかなと。ゆくゆくは松谷と大きな舞台で一緒に走りたいっていうのもありますし、息子がデビューしてS級に上がってくるまでは引退できないですから(笑)。そして、3人でGIに参加して、一緒に走ることが出来たら選手冥利に尽きるでしょうね…。それを支えにこれからも頑張っていきたいと思います」
─それでは、最後にファンの方へのメッセージをお願いします。
「まだまだ諦める年齢でもないですし、心に期するものもあるので、より一層努力・精進していきますので、応援してもらえると嬉しいですね。師弟共々今後も温かい応援をよろしくお願いします」
あれだけ面倒見のいい師匠はいないと思います。(松谷)

松谷秀幸選手
─松谷選手はプロ野球からの転向ですが、競輪選手を目指したいきさつは?
「プロ野球を肘のケガで辞めた後、普通にサラリーマンをやったんですけど、『何か違うな』っていうのがあって。ちょうどその時に競輪の年齢制限が撤廃されたというのを知ったんですよね。それで、プロ野球でも雨が降ったりしてグラウンドが使えない時の練習でパワーマックスを使ったりしていて、その時にいい数値を出していたっていうのもあって、競輪なら自分にも出来るかもしれないと思って挑戦を決めました」
─そこからはどういった流れで佐々木龍也選手への弟子入りとなったんですか?
「プロ野球OBの野村弘樹さんという方がいるんですけど、その方と佐々木さんが知り合いで、野村さんに競輪に挑戦してみようと思うんですという話をしたら、『(佐々木を)紹介してやるよ』っていうことで、紹介してもらったんですよね。それで、最初に会った時は優しそうな人だなと思ったんですけど、いざ一緒に練習をすると、すごく厳しい方でしたね」
─弟子入り当初はどんな練習をされていたんですか?
「適性試験での合格を目指していたので、それに合格する為に、諸々の数値を上げる為にパワーマックスでの練習がほとんどでしたね。たぶん、競輪学校に合格するまでピストには乗らなかったんじゃないかな。それで、学校を卒業してから、街道で師匠に練習をつけてもらう様になったという感じですね」
─師匠にはよくアドバイスをもらっているんですか?
「アドバイスは常にもらっています。怒られることもありますけどね(苦笑)。師匠は僕のレースをチェックしてくれているんですけど、7~8割方は怒られてますね(笑)。そのほとんどが組み立てだったり、仕掛けのタイミングのことだったりするんですけど、毎回師匠が言ってくださることには意味があるので、それを次のレースで生かせる様に努力はしているんですけど、褒めてもらうまでにはならなくて。でも、たまにいい内容のレースをした時には褒めてもらえるんですけど、そういう時は本当に嬉しいですね」
─セッティング等に関してのアドバイスはいかがですか?
「それも見てもらってます。それで、最終的には師匠に乗っていただき、いいか悪いかを判断してもらってます。そうやって出したセッティングは基本的にはいじらないですね。いじるとしたらハンドルくらいで、サドルは絶対にいじらないです。そういう意味では、私生活も含めて何から何までお世話になっていますし、全幅の信頼を寄せているので、本当にいい師匠に巡り会えたなって思います」
─私生活も含めてということは、一緒に食事にいくことも多いんですか?
「それもありますし、一緒にプロ野球観戦もしますね。ただ、その時も自然と競輪の話になっちゃうんですよね(笑)。それだけ師匠は競輪に真剣に向き合っているということだと思いますし、そんな師匠の話は本当に勉強になることばかりですね。練習に取り組む姿勢だとか、レースに挑む時の心構えとかの話をしてもらうんですけど、あれだけ長くトップで走ってこられた方の言葉なので、説得力が違うんですよね。一言、一言に重みがあるというか。なので、これからも師匠から色んなことを吸収していけたらいいなとは思っているんですけどね」
─それほどお世話になっているなら、いつか恩返しをしないといけないですね。
「本当にそうですね。僕が活躍することによって、師匠も『俺の練習は間違ってなかったんだ』って思えるだろうし、自分もそれを証明したいなと。その為には分かりやすい形として結果を残すしかないと思うんですよね。なので、まずは記念で優勝したいですね。同期の怪物(深谷知広)はボンボン獲ってますけど、彼に続く同期が出ていないのが現状なので、僕がその一番手になれればいいかなと。96期は彼だけじゃないんだぞっていうことを見せたいですし、そうやって結果を残していけば師匠も喜んでくれると思うんです。あとは、やっぱり師匠とワンツーを決めたいです。今まで連係は2回あるんですけど(5月23日現在)、ワンツーは決まっていないので、いつか達成できれば。それが、GIとか大きな舞台だったら最高なんですけど。あれだけ面倒見のいい師匠はいないと思っているので、恩返しは絶対にしないといけないですね」
─それでは最後に、今後の意気込みを含めてファンの方へのメッセージをどうぞ。
「今後一戦一戦、力を出し切るレースを心がけて、いつかは記念を獲れる選手になりたいと思います。今は師匠に7~8割がた怒られてばかりですけど、それくらい褒めてもらえる様な内容のあるレースをしてファンの皆さんの期待に応えていきたいと思いますので、応援してもらえると嬉しいです」