今月の師匠の目は「親娘レーサー」の山原利秀&さくら選手です。利秀選手は現在こそA級戦での戦いを強いられていますが、直線勝負で見せるキラリと光る鋭い差し脚が魅力のベテランレーサー。一方のさくら選手は今年5月にデビューを飾ったばかりですが、既に3度の優勝(内、2回は完全V)と既にガールズケイリンのトップクラスへ仲間入りを果たしている期待の新鋭と言っても過言ではないでしょう。今回はこの2人にインタビューを敢行。「師弟」であり「親娘」でもある両者のお互いに対する気持ちが見え隠れする内容となりました。
いつかまた、娘より多くの賞金を持ち帰りたいですね(利秀)
山原利秀選手
─まず、さくら選手がガールズケイリンの選手になりたいと言ってきたのはいつ頃だったんですか?
「ガールズケイリンの復活が新聞で報道された時ですね。ちょうど、その発表があったのが、自分が観音寺記念に出走している時だったので、家に帰ってきたら、本人が『ガールズケイリンをやる』って言い出してね(笑)。最初は僕もノリで言ってるだけかなと思ったんですけど、それから3ヵ月後に自転車に乗り出してね。ちょうど高校3年生だったし、半年間やってみて結果が出なかったら(挑戦を)辞めるっていう感じだったんだけど、たまたま結果が出たからそのまま選手を目指して頑張っていったっていう様な感じですね」
─今も一緒に練習されているんですよね。
「そうですね、2人きりでやってます。でも、一緒にやる時でも、(さくら)本人がやりたい練習をやってますよ。だから、僕がメニューを組む様なことはあんまりしません。女の子だから、体調的なところもあるだろうし、その辺りを考えて、距離を乗りたければ距離を乗るし、街道でもがきたければそうするしっていう感じで、やりたい様にやらせているというか。まあ、その辺は2人だから融通が効きますから。だから、僕は娘のやりたい練習に付き合うっていう感じですかね」
─では、練習中にあれこれアドバイスすることもないですか?
「僕からみても彼女はかなりいいモノを持ってると思うんです。だから、僕が変にアドバイスをすることで小さくまとまってほしくないから、勝ち方とか戦法的な部分についても、彼女には『自分はこういう選手になりたい』っていうのがあるみたいだし、そういった中でアドバイスをしたら、仕掛けに躊躇が出てきてしまうと思うんです。だから、娘が負けて帰ってきた時も反省会とかしないですし、とにかくやりたい様にやらせてます。でも、その中でどんどんといいレースをする様になってきているので、練習での成果が上手く発揮できる様になってきたのかなと」
─やはり、一緒に練習していてもさくら選手の潜在能力の高さは実感しますか?
「いい素質を持ってると思います。『競技』より『競輪』に向いていたのかなというか。競技の場合は、基本的にスタンディング(ダッシュ)が早くないといけないというのが基本としてありますけど、娘の場合は(全体の)スピードが上がってから動くのが得意なんですよ。スピードが上がってる、その上をカマすとか、捲るっていうのが主戦法で、中速や高速からの動きっていうのは競輪競走に限られてきますから、そういう部分で競技よりも競輪に向いていたんじゃないのかなと」
─中速・高速からのカマシや捲りの破壊力はさくら選手の長所とも言えると思いますが、逆に短所はどんなところだと思いますか?
「短所ねぇ…、いや、ダメなところはいっぱいありますよ。だけど、そのダメなところを急ピッチで克服させていくとか、そういうことは別に考えてないんですよ。徐々に全体的に底上げしていければいいかなっていう感じで。まあ、強いて言うなら、ゼロ発進というところだと思うんですけど、そこを補っていくよりも、もともとギアをかけるタイプだったので、そういった重いギアを踏みこなせる様になっていってくれればと」
─そんな中、さくら選手は既に3度の優勝と、トップクラスの仲間入りを果たしていますが、さくら選手の活躍は「父親」としても嬉しいと思いますが。
「もちろん、嬉しいですよ。でも、加瀬(加奈子)さんとも対戦してないですし、まだまだですよ(笑)。それでも、3回も優勝すると僕自身にとっても大きな刺激にはなりますよね。おかげで今はけっこう楽しんでやれているかな。ウチは全然ストイックじゃないんで(笑)。『親娘』というよりは「兄妹」みたいなノリだから、娘から僕のレースに対してダメ出しされることも多いし、僕も素直に聞き入れたりとかして(笑)。なんせ、今は向こうの方が賞金を稼ぎますから(苦笑)。でも、またいつか追い抜ける様に頑張りたいですね」
─ご自身の目標としては、やはりS級復帰というところになるんでしょうか?
「まあ、そうなりますね。あと、この間の地元開催で親娘同時あっせんがあったんですけど、その初日に2人で1着を取ることが出来たので、そういう機会をもっと増やしていけたらいいかなと。それこそ、親娘同時優勝とか出来たらいいですよね。ファンの方もそういうのを期待されていると思うのでね」
─それでは最後にファンの方へのメッセージをお願いします。
「娘の場合は、走れば走るほどというか、放っておいてもどんどん強くなっていくと思うので(笑)、自分も娘に負けない程度には頑張って、親娘共々もっと高いレベルで走れる様に努力していきますので、応援よろしくお願いします」
父はライバルだと思っているので負けたくないです(さくら)
山原さくら選手
─まず、ガールズケイリンの選手になろうと思ったきっかけは何だったんですか?
「もともと自転車競技をやっていたので、父が競輪選手っていうのもあって、ごく自然な流れですよね」
─そもそも自転車競技を始めたのは、お父さんの影響が強かったんですか?
「いや、そういう訳ではなくて。最初は本当に軽いノリで乗り始めたのがきっかけで、ちょっと自転車に乗ってみたら、案外乗れたし、初めての大会で結果もついてきたので、それから真剣に取り組む様になっていったんですよね。そこからは、まずロンドンオリンピックを目指して、ナショナルチームにも選んでもらったりしたんですけど、自分の実力ではオリンピックという舞台では通用しないなって思ったので、さあ、次はどうしようってなった時に、ガールズケイリンに転向して、もう1回しっかりと自分のベースを作りたいなって思ったので、ガールズ2期生の試験を受けました」
─それで、お父さんに師匠になってもらったということですね。
「やっぱり親娘っていうつながりが強いですからね。まあ、どちらかっていうと、それほど師匠と弟子っていう感じではないですけどね(笑)」
─お父さん以外の方に師匠になってもらうという選択肢はなかった?
「競技をやっていた頃というか、今でもそうなんですけど、父がいない時は篠原龍馬(89期)さんに練習をお願いすることもあったんですけど、やっぱり親娘の方が一緒に住んでいる分、当然、練習にいくタイミングも合うじゃないですか。それに、移動に関しても、私はまだ(自動車の)免許を持っていないので、父に競輪場や街道練習場所に連れていってもらえたり、1日の時間を上手く使えるので、父に師匠になってもらったということですね。なので、基本的には今も2人で練習していますよ」
─お父さんはアドバイスはくれるんですか?
「どうみてもダメなところはアドバイスしてくれますけど、そこまで頻繁にアドバイスをくれるっていう感じではないですね。男子と女子の違いっていうのもあると思うんですけど。もちろん、どうしても分からないことは聞いたりしますけど、どうしても親娘っていうことで、なあなあになってしまう部分もあるのかなと思っているので、他の選手に聞きに行ったりもしますね。そのアドバイスをどうやって練習に取り入れたら強くなれるのか考えたり、練習メニューも自分で考えたりするのが好きなんですよね。もちろん、父から『こういう練習をした方がいいんじゃないか』って言われて、その練習をすることもありますけど、自分で考えて練習することの方が多いですね」
─その結果として、デビュー戦初優勝を含む5場所中、3度の優勝ですからね。
「3回も優勝できて嬉しい反面、組み立ての部分でまだまだ課題が見つかったりもしたので、内容の部分では納得できていないかなというのが正直なところですね。ただ、レース運びに関してはレースへの慣れの部分もあると思うので、これからレースを重ねていく中で、上手く組み立てできる様になって、もっと優勝を重ねていきたいですね」
─では、今後の目標を教えて下さい。
「1番は年末のガールズグランプリ出場ですね。あと、この間の地元開催ではすごく声援をもらったんですけど、あそこまでとはいかないまでも、全国でも応援してくれる方はいると思うので、期待されている以上はそれに応える走りをしていきたいなと」
─さくら選手の活躍はお父さんにもいい刺激になっている様ですよ。
「父もだいぶ成績が落ちてきてしまっているので(苦笑)、自分の走りがいい起爆剤になってくれるといいんですけど。もちろん、私も父には負けたくないっていう気持ちがあるので、ライバルのつもりで、これからも(父と)ずっと勝負していきたいと思います」
─最後にファンの方へのメッセージをどうぞ!
「まだまだ波のある選手で安定感はないですけど、もっともっと練習を重ねて、内容も結果も残せる誰から見ても『強い選手』になりたいと思いますので、これからも温かい応援をよろしくお願いします」