インタビュー

 今月の「師匠の目」は、共にS級の上位戦線で活躍する加倉正義選手と坂本亮馬選手の師弟コンビです。師匠の加倉選手は、その切れ味鋭い差し脚で競輪祭のタイトルを獲得した実力者。一方の弟子・坂本選手はタイトル奪取こそ実現していませんが、S級S班在籍経験あり。現在はスランプに苦しんでいる印象がありますが、タイトルを獲れるだけの実力は十分に兼ね備えています。タイトルホルダー同士の師弟コンビが誕生する日もそう遠くはないかもしれませんね。
特別競輪の勝ち上がりでワンツーを決めたいですね。(加倉)
─坂本選手が加倉選手の下へ弟子入りしてきたいきさつから教えて下さい。
「本来なら(亮馬の)兄である健太郎(86期)君の師匠である中原優(44期・引退)さんにお願いするはずだったと思うんです。でも、中原さんの方が弟子を取っても面倒を見きれそうにないということで、僕の仲人をして頂いた楢原剛(52期・引退)さんの方から『亮馬を弟子にして面倒みてもらえないだろうか』ってお願いされたんですよね。僕自身、新しく弟子を取る余裕があったという程ではなかったんですけど、楢原さんのお願いでもありましたし、亮馬のお父さんも会いに来てくれたので、断り切れなかったっていうのはありますよね(笑)」
─1番最初に一緒に練習した時の印象はいかがでしたか?
「亮馬の高校時代の活躍をあまり知らなかったんです。それで、初めて会った時は線が細いし、体力がある様には見えなかったんですよね(苦笑)。高校時代の成績を後から知って、なんでこの子がそんなに強かったんだろうって不思議に思ったりもしたんだけど、それでもあれだけの成績を高校時代に残していたっていうことは、天性の素質みたいなものがある子なんだろうなって思ったんです。その考えはやっぱり間違っていなかったですね。選手になった後メキメキを頭角を現していく中で、ダッシュ力だったり、捲りのスピードだったりっていうのはキラリと光るものがありましたね。普通の選手ではちょっと出せない様な捲りのスピードでしたからね。ただ、逆に言えばあれだけの素質があるっていうことは、タイトルを獲れるだけの器だっていうことになると思うんですけど、現状、まだ獲れていないということは何かしらの努力が足りていないんじゃないかなっていうのはあるんですけど」
─確かにここ最近の坂本選手はなかなか成績を残せていないですよね。
「昔から、S級上位で安定した成績を残し続ける選手っているじゃないですか。吉岡稔真(65期・引退)さんだったり、神山(雄一郎・61期)さんや山田(裕仁・61期)さんとか。そういう方たちは『ここぞ』っていう時に先行できるんですよね。GIの準決勝とか本当に大事なところで先行できる強みがあるんですけど、今の亮馬は逃げたら厳しいところがあるじゃないですか。僕より下の世代で言えば、村上(義弘・73期)にしても、寬仁親王牌でタイトルを獲った金子(貴志・75期)にしても、若い頃にガンガン逃げて力を付けていった訳ですよ。まあ、村上や金子みたいに先行一本でやっていくっていうことじゃないにしても、勝ち上がりの大事なところだけでも先行できる強みを身につけられるといいのかなとは思いますね。捲り一辺倒で上位までいくことは出来るかもしれないですけど、その後は絶対に苦労しますからね。捲りはどうしてもレース展開に大きく左右されてしまいますから。そういうところで、練習でもしっかりと逃げられるだけの準備をしていかないといけないだろうし、準備が出来たら、逃げるための勇気も必要になってくるのかなと」
─ただ、坂本選手はここ数年の落車過多でだいぶ苦しんでいるのかなという印象もありますが。
「それでも、亮馬は骨折自体はしてないでしょ。それに、『亮馬は落車の影響でタイトルが獲れてないよね』って周りから言われることを悔しいと思わないと。自分なんかは鎖骨は5回くらい折ってるし、最近では手首も骨折しましたからね(苦笑)。それでも、立ち上がっていくしかないので、あまりケガは言い訳にはして欲しくないし、逆にケガをすることで体のケアを覚えていくというのもあると思うので、プラスに考えっていってくれればいいかなと思いますね」
─今でも一緒に練習はされているんですよね。
「昔みたいに付きっきりでっていうことはなくなりましたけど、バンクで会えば一緒に練習しますし、そこで後ろに付いたりもするんですけど、その度に『こんないいスピード持ってるんだ』って再確認させられますね。多分、一瞬のキレという部分では、深谷(知広・96期)とも遜色ないんじゃないかなっていうくらい。だから、そのスピードを生かせる様になればタイトルも獲れると思いますよ」
─坂本選手が再びタイトル戦線を賑わす様になった時に、加倉選手も同じところで走れたら最高ですよね。
「そうですね。この間の親王牌の決勝のように弟子の深谷が逃げて、師匠の金子が差して優勝っていうのは感動モノですからね。ああいうシーンを僕らで作れたら最高ですよね! まあ、今の僕の立場ではそこまではさすがに厳しいかもしれないですけど(苦笑)、僕が特別競輪にまた出場できる様になった時に、その勝ち上がりのどこかでワンツーを決めたいなっていうのはありますよね。その為の努力は一生懸命していますので、これからも温かい声援をよろしくお願いします」
タイトルを獲って早く師匠に追いつきたいです。(坂本)
─加倉選手のところに弟子入りしたのはいくつの時だったんですか?
「高校3年生の時で、競輪学校の試験前でしたね。高校の時にお世話になった楢原剛さんという元選手の方がいて、その方の紹介で弟子入りさせてもらったんですけど、1番最初に会った時は僕が競輪を全く知らなかったんで(苦笑)、そんなにすごい選手かどうかも分からなかったから、あまり印象に残っていないんですよね。今思うと本当に失礼な話ですけど(笑)」
─加倉選手の練習は厳しいんですか?
「いや、そこまで厳しくはないと思いますよ。あまり怒ったりとかもしないですし、どちらかと言えば褒められることの方が多いかなっていう感じですかね」
─今でも一緒に練習をしているんですか?
「デビューしてから2年くらいは毎日一緒にやっていたんですけど、ちょうどその頃から自分にケガが多くなってきて、自分で練習をやりだすようになってからは一緒にやる機会も徐々に減っていったんです。でも、全く一緒にやらないっていう訳ではなくて、久留米ってバンクに集まれば、その時のメンバーで一緒にやるっていう感じなので、今でも師匠とバンクで一緒になれば練習しています」
─バンクで一緒になった時は師匠からアドバイスがあったりするんですか?
「ありますね。今はレース内容に関してのアドバイスが多いですね。しかも、自分でも『あそこはよくなかったな』と反省していたところでもあったりするので、師匠は本当によく僕のレースを見てくれているんだなと思いますね。なので、師匠から貰ったアドバイスを次のレースに繋げていける様にしないといけないですし、今でこそ一緒に練習する機会は減りましたが、ずっとお世話になっていることに違いはないので、これからしっかりと恩返ししていかないといけないなっていうのは強く思いますね」
─恩返しという部分では、今まで加倉選手との連係は何度かあったかと思いますが、あまり相性はよくないですよね・・・。
「師匠と一緒ということで、どこか力が入ってしまう部分があるのかもしれないですね。もちろん、何度かワンツーを決めたこともあるんですけど、これからはもっとその回数を増やしていきたいですし、それがグレードの高いレースで実現できる様に頑張りたいです」
─坂本選手自身もGIでの活躍から遠ざかっていますが、S級S班に在籍経験もあるだけに、現状に関して焦りもあるのでは?
「(低迷の)原因はハッキリしていて、ケガの影響だっていうことは分かっているので、練習さえしっかりやっていれば、必ず戻ってくれるはずなので、そこまで焦りみたいなものは感じていないかな。ただ、一時期の落車の多さは本当にヒドかったですからね。悪いものに憑かれてるんじゃないかっていうくらいでしたから(笑)。まあ、その頃に比べたら、体の状態はだいぶ元に戻ってきたかなっていう手応えを感じているので、あとは脚力をしっかり戻していって、結果を残すだけかなっていう感じですかね」
─ファンの方は坂本選手の復活を期待していると思いますので、そんなファンの方たちへのメッセージをお願いします。
「S級S班になったことはありますけど、結局、タイトルを獲り損ねて、『日本一』にはまだなれていないので、タイトルを目指して全力を尽くしていきたいと思います。やっぱり、タイトルを獲ることが、応援してくれているファンの方たちはもちろん、今まで面倒みてくれた師匠への1番の恩返しだと思うので。それに、師匠はタイトルを獲っているので、僕もタイトルを獲って早く師匠に追いつきたいですから。これからも一戦一戦頑張っていきますので、応援よろしくお願いします」