今月の師匠の目は愛知から山内卓也選手と猪俣康一選手が登場です。実は猪俣選手の公式な師匠は引退された東京の小林正治選手なのですが、なぜ、山内選手と師弟関係を結ぶこととなったのか。そして、99期のルーキーチャンピオンを制すなど、深谷知広(96期)選手に続く愛知のニュースター候補生でもある猪俣選手の長所と短所とは果たして…。
─まずは、猪俣選手が山内選手の下へ弟子入りしてきたいきさつから教えて下さい。
「猪俣君の師匠は同期の小林正治(東京・77期・引退)さんなんですけど、僕自身、正治さんにはけっこう可愛がってもらっていたんです。その正治さんから『(猪俣が)競輪学校の帰省中だけ面倒みてくれないか』っていうことで、ちょうど僕の弟子(山田哲也)が猪俣の同期でいるっていうこともあって、一緒に練習をしたんです。そうしたら、彼らが卒業する前に正治さんが引退するっていうことが決まって、今後、東京に戻るのか愛知でやるのか、どうするのっていう話になるじゃないですか。正治さんは猪俣君に『自分で決めろ』っていうことを言ったらしいんですけど、彼(猪俣)がこっち(愛知)でやるっていうことだったので、それからずっと一緒に練習しているっていう感じですね」
─では、正式な弟子入りは競輪学校卒業後ということになるんですね。
「そうなりますね。まあ、未だに師弟関係っていうほどではないですけど(笑)、僕としては正治さんから任されて彼を弱いままで終わらせる訳にはいかないので、強い選手になってもらう為に自分の弟子と同じくらい色んなことを教えていますね。その中で特に感じるのが、彼は吸収力が高いですね。僕が教えたことに対して、ちゃんと理解しようとするというか、素直ですよね。だから、他の選手と比べても成長は早い方なんじゃないかなと思いますね。その証拠に99期のルーキーチャンピオンレース(若鷲賞)も獲ってますし、ここまで順調に来てますよね」
─一発勝負のルーキーチャンピオンを制すなど、猪俣選手の勝負強さは大きな魅力の1つですね。
「彼はそのレースの中で自分が何をしないといけないかっていうのがわかってますよね。何がしたかったのかわからないレースが少ないかなと。いつも、開催が終わる度に反省会というか、あのレースではこうした方が良かったんじゃないかとか、俺だったらこうするっていうアドバイス的なことを言うんですけど、それをしっかり理解して次に繋げることが出来るんですよ」
─現に今年1月にS級昇級を果たしてから、優勝こそまだない(10月23日現在)ですが、安定した成績を残してます。
「あとはグレードレースで上位選手にどれだけ立ち向かっていけるかですよね。現時点ではGIクラスだとまだちょっと厳しいかなって部分はあるんですけど、GIIIの二次予選や準決勝辺りなら勝負になりそうかなっていうところまではなってる気はしますね」
─この先、猪俣選手がS級S班やタイトルホルダーといった本当の上位選手と渡り合っていく為には、何が必要になってくると思いますか?
「やっぱり、経験じゃないですかね。強い選手と対戦した時にその選手を苦しめられれば、それが自信にも繋がるだろうし、強い選手との対戦自体が大きな財産になりますからね。まあ、まだS級に上がって1年も経っていないですし、GIもこの間のオールスターで初めて出た選手ではありますけど、これからGIII参戦も増えてくるだろうし、そうすれば上位選手との対戦も必然的に増えることになるので、一戦一戦を大切にしていって欲しいなとは思います」
─では、山内選手の目からみて、猪俣選手の長所と短所はどんなところでしょうか?
「長所はさっきも言った様に、貰ったアドバイスを次に繋げることの出来る吸収力の高さですよね。短所かぁ…(苦笑)。彼はもともとカマシが得意なんですけど、今は抑え先行ばっかりしているじゃないですか。その中で、レース中に抑え先行でいくのかカマシでいくのかっていう見極めが出来ないことがけっこうあるのかなと。そういうレースの中での(戦法的な)気持ちの切り替えというか、判断力がついてくればさらに強くなると思いますけどね」
─そして、ゆくゆくはビッグレースの勝ち上がりで連係したいところですね。
「僕も(上位で戦える時間は)そんなに長くないですから(笑)。もちろん、ビッグの勝ち上がりでの連係は実現させたいと思っているので、それまでは一緒に頑張っていきたいと思いますし、ちょうど同い年でもあるので、負けてられない気持ちもありますから、いいライバルとしてやっていければいいかなと」
─最後に今後の意気込みを含めてファンの方へメッセージをどうぞ!
「今年の前半は調子をかなり崩してしまいましたけど、何とか走れるくらいには戻ってきたし、もう一段階上に上がれる様に猪俣君とお互いに切磋琢磨しながら頑張っていきたいと思います。師匠として存在感を出さないといけないですからね(笑)。これからも一生懸命頑張っていきますので、応援して下さい」
─本来、猪俣選手の師匠は小林正治さんですが、山内選手のところへ弟子入りしたきっかけは何だったんですか?
「僕はもともと神奈川出身なんですね。それで、競輪選手を目指す前にモトクロスをやっていた関係で同じモトクロス出身者の正治さんに弟子入りしたんです。競輪学校入学前までは正治さんに練習をつけてもらっていたんですけど、競輪学校に入ると1年近く家に帰れないから、嫁さんが一宮の近くの実家に帰ったんです。それで、正治さんから『(競輪学校の)帰省中は卓也のところで練習したらどうだ』って言われたんですね。そう言ってもらったので、卓也さんのところで世話になったんです。そうこうしている間に正治さんが引退されることになって、その時に正治さんから『今後は環境もいいし、そのまま卓也のところで世話になったらどうだ』っていうことになって。帰省中にお世話になった時にいいアドバイスも貰えたし、愛知県は郊外にいい街道コースもあったりで環境的にすごく恵まれているところだなと思ったので、愛知に行くことを決めたんですよね」
─愛知県所属の選手となることに対して迷いはなかったですか?
「全くなかった訳ではないですね。関東が好きだったので、東京か神奈川の選手としてデビューすると思っていたから、在校中に(小林が)引退することを知った時はさすがに頭が真っ白になりました。そんな時に正治さんから愛知行きを勧められて、色々と悩みましたけど、今振り返ってみると(愛知行きを)決断して良かったなと思いますね」
─では、猪俣選手にとって「第二の師匠」が山内選手ということになるんですね。師匠としての山内選手はどんな方ですか?
「GIIも獲って、GIの表彰台に上がっている方なので、確立された練習がある方で、沢山のことを吸収させてもらっています。それに、常に前向きですよね。落ち込むこともあるんでしょうけど、決して後ろ向きにならないし、学校卒業後からずっと一緒に練習させてもらっているんですけど、見習うところばかりですね」
─練習メニューは山内選手が組んでいるんですか?
「日によりますけど、大体は山内さんが考えたメニューの練習をしているかな。ただ、最近ですけど、自分でやりたい練習がある時には言うようになりましたね。それまでは、どういう練習がどういう効果に繋がるのかっていうのがあまりよく分かっていなかったんですけど(苦笑)、S級に上がってちょっとしたくらいから、その辺りがわかってきて、(メニューに関して)少しは意見が言える様になってきた感じですね」
─山内選手からのアドバイスなどはあるんですか?
「かなり丁寧に教えてくれますよ。練習している中で体の使い方や、腹筋の使い方などを教えてもらっていますね。そのアドバイスによって、競輪学校を卒業してからは上手く体を使いこなせる様になって、自分でも進化してるんじゃないかなって思える部分があるし、そのおかげでこうして早くS級に上がって戦える様になっていると思うので、本当に感謝しています」
─練習グループの雰囲気はどうですか?
「明るいですよ。練習するときは集中して練習しますし、それ以外のときはふざけたりもして(笑)、オンとオフの切り替えがしっかりしてるっていうんですかね。すごく楽しいですよ。本当に恵まれた環境だと思います」
─京王閣で開催されたオールスターや一宮記念では師弟参戦となりましたが、今後はビッグレースでの師弟参戦を増やして、そこでワンツーを決めたいところですね。
「そうですね。ビッグレースのとくに勝ち上がりでのワンツーは最高の恩返しでもあると思うので、自分にとって大きな目標の1つですよね。ただ、上位の先行選手相手に通用するかっていうと、まだまだなところがあると思うんです。それは、この間初めてビッグレース(オールスター)に出てみて痛感させられた部分でもあるので、そういう強烈な先行選手と渡り合えるだけの脚力をつけていくことが先決かなと。自分ではまだまだ進化できると思ってますから」
─それでは、猪俣選手の活躍に期待しているファンの方へメッセージをお願いします。
「これからも出来る限り先行選手として頑張っていくつもりですし、その中で全力を尽くしてファンの方の期待に応えていきたいと思いますので、応援よろしくお願いします」