高橋大作選手と鈴木雄一朗選手が登場する今月の師匠の目。ここ最近はなかなか結果を残せずやや低迷気味の鈴木選手ですが、その要因を師匠の高橋選手が分析。少し厳しい言葉も出ていますが、それは弟子の復活を信じているからこそ。そんな師匠の気持ちに応えたい鈴木選手ですが、近況の落車・骨折により復帰は年末年始になりそうな気配。それでも、気落ちした様子は一切無く、来年からの巻き返しへの強い意気込みを語ってくれています。さらに、師匠の高橋選手もS級1班復帰が決まっているだけに、来期からのこの師弟コンビの活躍から目が離せませんね。
弟子同士が切磋琢磨していくのが理想ですね。(高橋)
─鈴木雄一朗選手が弟子入りしてきたいきさつから教えて下さい。
「彼は94期なんですけど、94期には東京の選手が3人いて、その中の屋良(朝春)君が日大の後輩で、彼が最初に僕の弟子としてやってみたいということで来たんです。屋良君の自転車部の後輩が雄一朗で、ということは僕にとっては2人とも同じ後輩なので、屋良君1人の面倒を見るよりも2人の方が刺激にもなるだろうと思って、(弟子として取ることを)決めました」
─鈴木選手は大学時代に優秀な成績を残していましたから、面倒を見る側としてはプレッシャーもあったのでは?
「学生時代に成績を残したといっても、プロになる以上そこから先は自己責任ですからね。僕が『あれやれ、これやれ』って言うレベルではないと思うんですよ。自分で考えて分からないことを聞くという感じじゃないとダメだというのが僕の考えなので、あくまで本人次第っていうことで雄一朗を弟子に取ったことでプレッシャーに感じる様なことはなかったかな」
─師匠自ら積極的にアドバイスをするのではなくて、まずは本人の自主性に任せるということですね。では、「師匠と弟子」というよりライバルに近い感じですかね。
「そうですね。同じ土俵に立つ仲間という感じですよね。だから、僕から何かを教えるというようなことはほとんどしないですね。もちろん、聞かれたことに関しては自分の持ってる知識を生かしてアドバイスはしていますよ」
─今でも一緒に練習されているんですよね。
「してますよ。でも、1日中ずっとという訳ではなくて、午前中の9時から午後1時くらいまでバンクで一緒に練習して、その後はバラバラで、各自が自分で考えた練習をやる様な感じですね。その各自でやる練習に関しても僕からはとくにアドバイスはしていないんですけど、自分の欠けてる部分とか、伸ばしたい部分を考えながらやってると思いますけどね」
─鈴木選手が個人的にやった練習に関して、報告は受けているんですか?
「そこはファックスなり電話なりで、こういう練習をやりましたっていうのは聞いてはいますけどね」
─その個人練習は師匠から見て、今の鈴木選手に必要な練習は出来ていますか?
「正直、自分から見れば彼はまだ若いし、ちょっと練習量そのものが足りないのかなっていう気はしますよね。申告してきたメニューの倍くらいはやらないと。まあ、それは本人が気付くべきことなんでしょうけど、『やらされる』よりも『率先してやる』くらいじゃないと、上で戦っていくには厳しいですよね。嫌々やる練習ほど意味のないものはないですから」
─その練習量の不足が鈴木選手の伸び悩みに繋がっているのかもしれないですね。
「そうでしょうね。だから、そこをもっと早く気付かないといけないんですけどね。まあ、本人が1番もどかしい思いをしているんでしょうけど、それくらいの練習量だからその位置なんだっていうことに気付かないとしょうがないですから。あとは、そこに気付いた後、しっかり練習が出来るか出来ないかっていうのも、またこれも本人次第なんですけどね。本当、あれだけの素質を持っているのに、なかなか結果を残せていないので、師匠としても本当に歯がゆい部分はあるんですけどね」
─では、これから一緒に練習する時に、練習量不足をそれとなく匂わせてみるとか?
「そうですね…。一緒に練習していても、彼にはしつこさみたいなものがなくて。千切れる時とかすごくあっけなくて。歯を食いしばって必死についてくるっていうんじゃなくて、サーっていなくなっていっちゃうんですよ。そういうしつこさも練習量でカバーできる部分もあるし、練習さえしっかり出来ていればそれが自信に繋がって、いいレースが出来る様にもなるだろうし、それが結果にも繋がっていくと思うんですけどね…。今では練習方法とかも確立されてきて、ただ練習をやればいいってもんじゃないっていう感じに競輪界全体がなってきてますけど、彼に関しては違うと思うんですよ。とにかく、量をこなさないとダメでしょうね。昔は本当に強かったですから。競輪学校を卒業してから特昇するまでの時期はとくにね。彼が先行して、僕がそれに付いていても離れることもあったし、付いていくのがやっとっていう感じだったんですけど、それがあっという間に貯金が無くなってしまったというか。それはすごく寂しい部分ではあるので、早く自分に足りないものに気付いてもらえれば。そういう意味では今度、僕が1日中練習に付き合ってみるっていうのも1つの手かなとも思っているんですけどね。もちろん、僕からそういうことは言わないですけど、本人からの要望があれば師匠として喜んで付き合いますよ」
─鈴木選手の成長に期待しているファンの方は多いと思いますよ。
「東京はなかなか若手が育ってこないですからね。S級2班とか、そこそこのレベルまではいけても、その先まで辿りつける選手が出てこないっていうのが現実ですよね。とくに、先行で特別競輪に出場できるくらいの選手が欲しいですよね。もう1人の弟子でもある屋良が近いところまでは来てるのかなと。彼は放っておいても練習できる子なので、そこが鈴木との違いなのかなと。それが今の位置というか、成績にも出てくるのは当然ですよね。それを鈴木が悔しいと思えば、やる気にもなるんでしょうけど、マイペースなところがあるので、もうちょっとメンタル的にライバル心を出していってもいいと思うんですけど。そうやって、弟子同士が切磋琢磨していくっていうのが、師匠としての理想ですし、弟子同士がそうやってお互いを高めあっていれば、僕自身もそれを刺激に変えて集中したいい練習が出来ると思うので、早くそういう状況になって欲しいですね。僕が彼らに背中を見せるんじゃなくて、僕が彼らの背中を追うっていうのが、1番の理想かな」
─では、最後にファンの方へのメッセージをお願いします。
「月並みですけど、一戦一戦、一生懸命頑張っていきたいと思います。来期からS級1班に復帰することも決まっていますし、東京は後閑(信一)さんだけじゃなくて、他の若い世代も頑張っているんだって思ってもらえる様な走りをしていきたいと思いますので、応援よろしくお願いします」
─高橋大作選手のところに弟子入りしようと思ったきっかけは何だったんですか?
「やっぱり、同じ日大の先輩というのが1番でしたね。もちろん、上位で実績を残している選手でもあったので、競輪選手になるって決めた時から大作さんしかいないって思ってました」
─そんな高橋選手は鈴木選手から見て、どんな師匠ですか?
「あまり多くを語らない方ですね。師匠からアドバイスをもらったこともほとんどないですし。もちろん、自分から聞きにいけば色々と親切に教えてくれるんですけど、師匠自らアドバイスをくれるっていうことはないかな。それだけ弟子の自主性に任せるということなんだと思いますけどね。僕としては、もうちょっとアドバイスしてくれてもいいのになって思ったりすることもないことはないですけど(笑)、練習内容に関しても自分でメニューを考えるので、当然責任感も出てきますし、必然的に色々と研究する様にもなってきたので、それはすごくいいことなんじゃないかなと思います」
─練習以外のプライベートな部分でのお付き合いはいかがですか?
「家族ぐるみで親しくさせてもらってますね。師匠の家で食事をご馳走になることもけっこうありますし。そういう時って、自然と競輪の話になったりするんですけど、そこで色々と自分から話を聞いてアドバイスをもらったりもしますね。だから、師匠には本当に良くしてもらっているというか、師匠のところに弟子入りして本当に良かったなと思います」
─そんな師匠には早く結果を残して恩返しをしたいところだと思いますが、ここ最近は大きな着が目立ってしまっていますね…。
「そうなんですよね…。どうも僕にはこらえ性がないというか、ある練習していても、それで結果が出ないと別の練習に変えてしまうところがあるんですよね。師匠にも『お前には大きなギアは合ってないから、回転練習をした方がいいんじゃないか』って言われて、回転練習をするんですけど、それで結果が出ないとまたギアをかけてみたり。そういう悪循環になってしまっているので、そこから変えていかないといけないなと思っていて。もうちょっと長いスパンで考えた練習をしていきたいなとは思っているんですけどね」
─ただ、そんな矢先に先日の開催(11月・松山)で落車、途中欠場となってしまいました。
「しかも、初めての骨折をしてしまって。小指の骨折だったんですけど、手術っていうことにまでなってしまって。復帰までは1ヶ月近くかかってしまいそうなんですよね。でも、師匠はもっと大きなケガをして復帰してS級優勝を飾ったりしているので、長期欠場中でも出来るトレーニング方法とかメンタル面のこととか、どんどん話を聞きにいきたいなと思ってるんですけどね」
─逆にこの長期欠場をいい転機に変えられるといいですよね。
「本当にそうですね。競輪選手をやってると、こういう機会(落車)でもない限り、1ヶ月の休みなんてないですからね、プラスに考えていきたいなと。それに、さっき話した長いスパンで考える練習メニューに関しても1ヶ月近くあればじっくりと考えることが出来るので、師匠にアドバイスをもらいながら自分に合ったメニューを見つけていきたいですね。最初は結果が出来なくても、今度は自分や師匠を信じてその練習を続けていければいいかなと。そうすれば、いつか結果を残せる様になると思うので」
─それでは、復帰後から鈴木選手の巻き返しが始まるということですね。
「多分、(復帰は)12月末から来年の頭になると思うんですけど、年明けということもあるので、心機一転頑張りたいですよね。同期で同じ練習仲間の屋良(朝春)君がS級の上位で活躍する様になってきて、自分自身悔しいという思いがあるので負けない様に。今まではファンの方に迷惑をかけてしまうことの方が多かったかもしれないですけど(苦笑)、応援してくれるファンの方がいる以上、その方たちの期待に応えられる様に全力を尽くしていきますので、応援して下さい」