インタビュー

 今月の師匠の目は、静岡県の望月裕一郎選手(65期)、柴田竜史選手(96期)に注目します。柴田選手といえば、2011年のヤンググランプリ覇者として、その名を全国に轟かせた南関のホープ。その後はケガの影響で不振が続く時期もありましたが、こうした弟子の姿を師匠の望月選手はどう見てきたのでしょうか。インタビューからは、静岡・南関勢の「絆の強さ」も大いに感じられます。
「柴田竜史、ここにあり!という選手になってほしいですね」(望月)
-まずは、柴田竜史選手と師弟関係になるまでの経緯を教えてください。
「だいぶ前ですけど、僕が行っていたウエイトトレーニングのジムのトレーナーの紹介で、まだアマチュアだった竜史を紹介された感じですね。竜史も競輪選手になりたいということで、たまたまそのジムに行っていた僕を知ったんだと思います。そのあと間が空くんですけど、今度は自転車屋を通して連絡先を伝えて、竜史から僕に改めて電話がかかってきた感じですね。でも、そのときはまだ全然、自転車も乗っていなかったので、弟子にとるという感じではなかったです。ただ、自転車を始めたい子がいるということで、まずは練習仲間で見てやろうかと。そこからですね」
-1から柴田選手に自転車を教えたのですね。そのときから、素質は感じましたか?
「センスはありましたね。練習をやるにつれて、1日1日強くなっていったので、タイムも出ていたし、この子は強くなるなと感じていました。精神的にも良いものを持っているのも分かっていました」
-プロの練習はかなりハードだと思いますが、当時の柴田選手は?
「僕の練習仲間はモガキとか、かなり練習がきついんですよ(笑)。でも、その練習にも付いてきたし、逆に最後は自分たちを引っ張るくらいの脚力が付いていましたよ。学校に入る前もタイムが出ていたし、気持ちだけしっかり持っていれば、成績も残せるし通用するなと思っていました」
-その後は96期として競輪学校に合格されますが、そのころには師弟関係も構築されていたのですか?
「自分が最初に会ったし、暗黙の了解で自分が師匠になると思っていましたね。僕は学校のときも先行していなかったので、競輪学校に入る前は、『学校では先行しろ』とアドバイスしました。自力で脚をつけて、出てきた方がデビューしてから絶対に楽ですからね。竜史は卒業記念で決勝にも乗ってくれたし、勝つレースをしてこいと言ったのに、魅せるレースをして優勝はできなかったけど3着に入って結果を出してくれたのは嬉しかったですね」
-師匠から見て、柴田選手の長所と短所は?
「長所は競輪選手に向いた精神力を持っていることですね。物怖じしない性格と能力がありますし、そこは僕も、みんなも認めています。良いものを持っていると思います。あとは自力的に、S級ではもう少し付けて、勝っていってほしいですね。自分の持ち味のレースだけではなく、後々に繋がっていくレースをしてもらいたいとは思っています」
-物怖じしない性格は、選手にとって一番必要な部分でもありますよね。
「そうですよね。そこを一番最初から持っていましたから。普段はのほほんとしたところもありますけど、練習は練習、オフはオフと割り切っているし、自分のパターンを分かっていて、そこをうまく調整できるから、今の力になっていると思います」
-柴田選手といえばヤンググランプリ優勝(2011)がありますが、あのときの師匠としての心境は?
「あれは正直、嬉しかったですね。弟子があそこまで大きくなってくれて、『やった!』という感じでした。ましてや、ヤンググランプリは一発勝負ですしね。レースに行く前、『魅せるレースも大事だけど、獲りにいって来いよ!』と言っていたんですけど、ああいうレースになって実際に勝ってきて、竜史は持っているし、すごいなと思いました」
-今後はどういった選手に成長してほしいですか?
「やっぱり静岡を代表する自力選手になってほしいですね。自分の持ち味で常に勝てて、魅せるレースもできて、『柴田竜史、ここにあり!』という選手になってほしいです」
-今の南関勢は、若手の自力型の成長が著しいですからね。
「そうですね。特に千葉とか多いですよね。まだ静岡はちょっと少ないので、竜史の後ろに付けば連れていってくれる、絶対に着があると思われる選手に、もっとなってもらいたいです。そうなれば相乗効果も出てくると思いますしね」
-師弟としての目標はありますか?
「まだ1回も連係がないので、一緒にビッグレースに出て、ワンツーを獲りたいというのはあります。でも、FIや記念でもいいので一緒に連係して、優勝を獲らせてほしいですね(笑)」
-不思議と、まだ一緒のビッグレース参戦もないですからね。
「そうなんですよね。僕もこれだけ選手をやっていて、竜史もデビューして今はS級にいるのに、一緒のレースになったことがないので。僕は今ちょっとケガをしてしまっていますが、調子は良くなっているので良いレースができると思うし、竜史もだいぶ調子が上がってきているので、チャンスがあるかなと思っています」
-大舞台での師弟連係、期待しています。
「そうですね。僕も44歳なので、なかなか上で戦える年齢ではないですけど、弟子と一緒に大きな大会でまだまだ暴れたいし、思い出を作りたいです。連係してワンツーができたら最高です。夢ですね、そこが」
「支えてくれた師匠や静岡の先輩に恩返しできるような走りをしていきたい」(柴田)
-まずは弟子入りするまでの流れを教えてください。
「僕は自転車競技もやっていなくて、競輪に関しては、どうやったら選手になれるかも分からなかったくらい無知だったんです。競輪選手に実際会ったことも無かったですしね。それで、当時の自分は体の線も細かったし、自分の脚でお金を稼ぐ職業ですから、脚が太いイメージはあったので、近くのジムに通い始めたところ、そこにたまたま師匠が来ていて、トレーナーに紹介してもらいました」
-では、初めて出会った競輪選手が師匠だったと。
「そうですね。当時は学生で、初めてお会いしたときも、『夢をあきらめずに頑張れ』と言われたことをよく覚えています。競輪選手を目指して、高校を卒業してから一緒に練習をさせてもらうようになって、競輪学校に合格したくらいに正式に弟子としてとってもらいました。出会ってから合格まで1年くらいはありましたけど、自分としては裕一郎さんに師匠になってもらうという思いがずっとありましたし、そういう風に接していましたね」
-プロの練習はきつくなかったですか?
「当時、自分でいうのもなんですけど、スポーツは万能でした。陸上部に入っていて、感覚の中では自転車を漕ぐなんて簡単だろと思っていたんです。でも、師匠と初めて一緒にガチの練習をさせてもらったとき、一番年下が自転車を取ることを覚えておけと言われていたのですが、もう吐きそうになりながら、ぶっ倒れるのを我慢しながら、いちばん最初に練習をあがって、『競輪選手ってこんなに毎日きつい練習をしているのか!』と思いましたね(笑)。練習の合間はずっと倒れている感じでした。でも、プロの方と毎日きつい練習ができたし、それがあったから今があると思います」
-柴田選手から見て、師匠はどんな存在ですか?
「普段はすごく優しい方なんですけど、競走に関してのアドバイスや『もうちょっとこうした方がお前のためにもなる』と時々厳しい言葉をもらったり、良い競走ができたら褒めてもらったり。やっぱり師匠なので他の選手とは違う特別な存在ですね」
-柴田選手からアドバイスを求めることが多いんですか?
「練習の合間に聞いたりしていましたね。師匠からのアドバイスもありましたが、僕がデビューしたときから、師匠は追い込みだったので、自力で動いている同県の新田(康仁)さんや南関の自力選手に師匠がいろいろアドバイスを聞いて、それを自分に伝えてくれていました。当時は上の方と接する機会があまりなかったし、とてもありがたかったですね。師匠は、良い意味で束縛をしない練習なので、最初はずっと一緒にやっていましたが、最近は一緒にやらずに、『いろんなところにいって良い刺激をもらってこい』みたいな感じです。たまに予定が合えば、一緒に練習すればいいし、結果を残せるように、これがいいと思う練習をやっていけばいいと。いろいろ試せるし、本当にありがたく感じています」
-一時期はケガによる影響で不振が続いた時期もありましたが、近況はコンスタントにFI戦で決勝に進めていますし、だいぶ戻ってきた感じでしょうか?
「そうですね。ヤンググランプリを優勝しましたが、その後にケガをして、その直後からの1年間は地獄のような毎日でした。その頃に比べれば、感触も戻ってきていますし、何よりも一番大きかったのが、そのときに師匠をはじめとする静岡の先輩方が支えてくれたことですよね。見放されずに、毎レース見てくれていて、『次は同じ失敗をしないように』とか『絶対に上で活躍できるから、絶対に腐らずに頑張れ!』と言われていました。失格や落車が続いて1年間A級にも落ちましたが、絶対にS級に上がって、支えてくれた先輩たちの前で頑張るしかないということをずっと頭に置いていました。ようやく最近はS級の流れにもうまく合ってきたと思っています。これからですね」
-師匠からは、「まだ連係が無いので、是非してみたい」とのことですが。
「そうなんです。まだ連係したことが無くて、びっくりするくらい(笑)。これからは、師匠と連係することもあると思いますし、そこでしっかりと恩返しができるような走りで、2人でワンツーをしたいですね。もちろん支えてくれた先輩達とも、一緒にワンツーが決められるように頑張りたいです。昔だったら、がむしゃらに先行して引っ張れば良いと思っていましたが、今は考え方も変わって、ただ先行するだけでは勝てませんから、自分もしっかりと残れるような走りをして、お世話になった方と決めたいと思っています」
-最後に今後の意気込みも含めて、メッセージをお願いします。
「やっぱりグレードレースでの活躍もそうですが、地元記念や地元でのビッグレースで良い成績を残すことが目標ですね。僕を応援してくださる方のためにも、これからも精一杯、攻めの競走で頑張っていきますので、これからも応援よろしくお願いします」