インタビュー

パラサイクリング世界選手権・女子視覚障害タンデムクラス・ロードタイムトライアルで
金メダルを獲得した田中まい選手にインタビュー
アメリカ・サウスカロライナ州グリーンビルで「2014年パラサイクリング世界選手権」が開催され、8月29日の「女子視覚障害タンデムクラス・ロードタイムトライアル」で歴史的快挙が成し遂げられた。8.3㎞のコースを3周するタイムトライアル競技で、鹿沼由理恵選手、田中まい選手(パイロット)のペアが34分46秒04という2位に51秒14もの大差をつけるタイムで快走し、見事に金メダルを獲得した。このパラサイクリング世界選手権のロード種目で、アジア選手のペアが金メダルを獲得したのは初めてのこと。今回は、偉業を達成した田中まい選手にパラサイクリング、そしてガールズケイリンについての目標を中心にインタビューした。
金メダルは喜びよりも驚きが大きかったです!
Photo by Yuko SATO
-まずは、パラサイクリング世界選手権・女子視覚障害タンデムクラス・ロードタイムトライアルでの金メダルおめでとうございます。改めて、金メダルの感想はいかがですか?
「世界選手権では、正直、優勝できるとは思っていなかったんですよ。私も、鹿沼さんも2人とも。だから優勝できたときは、2人とも喜びよりも、驚きの方が大きかったです。しっかりとこの大会に向けて、パラリンピックに向けてポイントを獲得するため、最後まであきらめずに出し切ることだけ考えて走っていました。優勝できたことに今でも驚きの方が大きいですが、日本に帰ってきて、みなさんに『おめでとう』と言われましたし、パラリンピックに近づけたことは嬉しいなと思っています。まだ自分たちが出られるとは確定していませんが、大きいポイントが取れたことは良かったです」
-パイロットとして、世界チャンピオンの実感は?
「いろいろとお互い息を合わせないと勝てない種目なので、パイロットしても、人としても成長をしないといけないなと思っていました。自分にはまだまだ足りない部分が多いと改めて思ったので、もっと成長していかないといけないなと思いました」
-人としての成長というのは?
「いろいろと深く。競技をやっていく上では、ケイリンとパラの両方を頑張っていかないといけないですが、なかなか両方は……。自分は不器用ですし、自分自身にも甘い部分が多いので、もっともっと自分に厳しくしていかないとなと思っているんです」
-レースでは鹿沼選手やスタッフの方々とどういったプランニングをしていたのですか?
「今回、コーチに柿木さんという方が来られていて、レースの下見のときから、いろいろとビデオに撮ってくれていて。『ここはこういう風なコース取りがいいね』と、細かくアドバイスとしてくださったので、レース本番まで、自分はそのイメージトレーニングをしっかりとしていました」
-ロードレースの方は?
「ロードレースは4位だったんですよね。自分もロードレース経験が浅いので、流れがまだうまくなかったです。世界選手権の前にワールドカップは2戦あったんですけど、そこでいろいろと課題を決めて、世界選手権でもメダルを獲れるようにと思って戦ってきました。世界選手権では、もっともっと前に踏んで、自分たちがレースを動かしていきたかったんですけど、まだ自分の技術も足りなかったので、後ろの方から最後のゴールスプリントを狙う形になってしまいました。鹿沼さんも自分も、お互いが意見を言う方ではなく、スタッフさんが言ってくれたことをやっているので、2人で『こうやりましょう』というのはまだないんです」
-ロードレースでは悔しさが残る結果だと思いますが、タイムトライアルでの金メダルは、チーム全体の快挙ということですね。
「そうですね」
2人だからこその達成感、そして命を預けられている緊張感
-そもそも田中選手がパラサイクリングに挑戦しようと思ったきっかけは?
「競輪学校生のときでした。鹿沼さんが自転車競技を始められて、パイロットを探していたんです。それで競輪学校にいた先生に『パイロットで良い人がいないか』という話があって、私は大学時代にもロードレースを走っていたので経験もあって、大学の中長距離の2キロメートルも上位にいましたし、それに上半身がしっかりした子がいいと。全部の条件が当てはまったのが私だったみたいで(笑)。それで学校の先生から、『やってみないか』とお話を頂いて、自分にプラスになると思ったし、それで挑戦してみようと思ってから、今に至ります」
-あの競技だからこその楽しさ、そして難しさはありますか?
「楽しさは、自分1人だけの力では出せないスピードが出せることですね。後ろの方が頑張っている分、自分も頑張らないといけないので、違うもう一個のパワーを背負っている感じがして、2人での達成感がすごくあります。難しいのは、息を合わせることと、自分がケガをしたり、体調を崩したりしたら後ろの方に迷惑をかけてしまうので。あとは、鹿沼さんは私に命を預けているようなものなので、ハンドルを握っているときは、いつも以上の緊張感があります」
-でもそこが、さきほどいった「自分へのプラス」に繋がっていると。
「そうですね。でも、まだまだ競輪の成績にはプラスにはなっていないので……。競輪の開催もあるし、パラの練習もしないといけないので、自分のスケジューリングもまだまだなので、モヤモヤしてしまうときもあるんですが、成長していくためには、今が頑張るときなんだろうなと思っています。頑張ったら、きっと何か良いことが待っていると信じています。人と違うことを経験させてもらっていることにも感謝して、それを活かしていきたいと思っています」
-リオパラリンピックという目標も掲げています。
「自分たちがポイントを稼いでも、違う方が出るときもありますので、パラリンピックに自分たちが出られるかどうかはまだ確実ではないですが、パラリンピックに出てメダルを絶対にとは思っています。そのためにも、今以上に努力していかないといけないなと思っています」
ガールズグランプリ出場を目指して、もっと力をつけていきたい
-ここからはガールズケイリンのお話ですが、今年は6月に平塚で初優勝。8月には奈良で2度目の優勝を決めています。今後の目標は?
「いつか絶対にガールズグランプリには出たいと思っています。いつか、絶対に」
-そのためにも、もっとこうしていきたいという今の課題はありますか?
「精神的にも体力的にももっと成長していきたいと思っています。(メンタルが)弱いんです。競走前も、毎開催、毎レース、あがってしまうんです(苦笑)。オッズが売れて一番人気になっていないときでも、まだ緊張してしまって」
-でも、レースでは攻めの競走を見せていますよね。
「攻めのレースをしていきたいという気持ちはあるんですが……。いつもそこですよね。車券に貢献しないといけないので、1着を取る展開をしっかりと考えて、攻めのレースをしますが…。お客さんには申し訳ないですね」
-では最後に、今回の快挙でさらに注目が集まると思いますので、読者にメッセージをお願いします。
「今回、世界選手権で金メダルを獲ったんですけど、パラサイクリングの存在を知らない方にも一人でも多く知ってもらって、障がい者スポーツの自転車競技も応援していただけるようになったら嬉しいと思っています。ガールズケイリンの方でも、私はまだまだなので、大きい舞台にたくさん立てるように頑張っていきたいです。コツコツと力をつけていつか絶対に輝けるように頑張っていきたいと思うので、そちらの方も応援していただければと思います」
もっと多くの人に、パラサイクリングを知ってもらいたい