インタビュー

パワーとスピード、その両方を兼ね備えた豪快なレースは見る者を熱くする。根田空史はデビュー時から全くブレることなく、そんなレーススタイルを貫き通してきた。先日の高松宮記念杯(岸和田)で残した強烈なインパクトは、輪界の大砲となるべく邁進し続ける根田の序章に過ぎないだろう。
今の良い流れの内に、まずは記念を優勝したいですね!
 成績欄には「1着」とだけ記されるが、その内容は実に様々だ。6月の高松宮記念杯(GI・岸和田)二次予選の第6レース。その勝者が見せた圧巻のパフォーマンスは、常識を覆したといっても過言ではないものだった。その男の名は根田空史。飯野祐太の先行に対して、根田も叩きにいくが、飯野マークの飯嶋則之の牽制もあり、大きく浮いてしまう。普通なら、ここで圏外だ。だが、根田はそこから再加速。飯嶋の牽制をパスすると、逃げる飯野を捕らえ、後続の差しを抑えて、そのまま押し切って見せたのだ。まさに規格外の走りだった。
「二次予選は展開的には最悪の内容でしたね。一回、飯嶋さんの牽制で膨らんだときに、『ああこれは、もうダメかも』と思ったんですけど、後ろには師匠(中村浩士)がいたし、ダメ元でも諦めずに踏むだけ踏もうと思ったら、思いの外、自転車が出たんです。そのまま捲り切れて、自分でも『あれ?いっちゃったよ!』という感じでした(笑)」
 この一戦だけではなく、近況の根田の上昇度には目を見張るものがある。今年4月には別府、青森の両FIを完全優勝、記念開催やビッグレースといったグレード戦線での1着も増加している。
「出来すぎなくらい良いので、自分でもちょっと驚いています。周りの選手からも(好調理由について)練習のことなど聞かれるんですけど、これといって何も変えていないんですよ。教えようにも、自分もその理由が分かっていないので(笑)。たぶんコツコツやってきたことが、ここで出たんだと思います。それにしても、いきなり出過ぎですけどね」
日本選手権(立川)で2勝できたことが、自信になったと思います
 そう豪快に笑う根田だが、一つのキッカケになったというのが今年3月の日本選手権だという。成績は1着8着5着1着。二次予選で勝ち上がりは逸したものの、予選での1着奪取は初めて。さらにシリーズ2勝を挙げたことで、気持ちの面でも変化があった。
「日本選手権で初日と最終日と1着が取れたことが、大きかったですね。今までのビッグレースでは、全然歯が立たなくて、自分の競走をさせてもらえない状況がずっと続いていたので、あの2勝で自信がついたことが、けっこう影響していると思います」
 そして今の時代は欠かすことが出来ない要素であるギアにも一因ありと続ける。
「練習は別にこれといって何も変えていなかったので、唯一、変えたのはギアを上げたことですね。もともとは、ずっと3.92を使っていて、そのあとはしばらく4回転にしていたんですけど、あまり感じが良くなくて。それで4.08に上げてみたら、それが良かったんです。4.08にも2種類あって、最初は49×12を使ってみたらダメで、それで53×13の方を試したら、こっちは感じが良かったので、それを日本選手権の2場所前から使いました。そうしたら、けっこう日本選手権も結果が良かったので、たまたまギアを上げたことで歯車がピタッとあったのかもしれないです。ギアも一つのキッカケですね」

6月の高松宮記念杯の準決勝。
大雨のコンディションの中、
根田空史が果敢に主導権を握る。
 高松宮記念杯では初となるGI準決勝戦も経験した。果敢に先行して、最後は5着に沈んだものの、ラインを形成した荒井崇博は3着入線で決勝に進出。ここでも大きな収穫があっただろう。
「持ち味が出せたので良かったです。(ビッグの)準決勝だからといって、そんなに緊張することもなく、逆に、緊張せずに楽しめたというか、ワクワク感の方が強かったですね。不思議なことに(笑)。そういうのもあって、逆にリラックスしていけましたし、力は出し切れたと思うので。一瞬、(決勝進出の)夢は見たんですけど、さすがにきつかったです。だから、もう最後の方は無我夢中だったので、とりあえずゴールだけ目指してという感じで、ゴールしたときも、自分が何着か分からなかったです。それに雨も強かったですしね。でも、今までは本当にGIは世界が違うとか、レベルが全然違いすぎてしまって、『決勝なんていけるのか?』なんて思うくらいの夢舞台だったんですけど、それが今は、いきなりですが、手の届くところまで来ていて。だから、まだ実感しきれていないところはありますね、この世界に(笑)」
 また、その高松宮記念杯では、レースにおける連日のハイラップが話題になった。もちろん自力型として戦う根田も、そのペースを作る一人であるが、この新時代をどう捉えているのだろうか。
「今年、タイムが異常に上がっていて、この間の高松宮記念杯も、おかしいくらいでしたね(笑)。そこまでいくか!という領域までいっていたし、今まで1周タイム22秒前半で、すごい出ているという感じだったので、21秒台なんて見たこと無かったですから。競輪の流れが変わりましたね。前に、ギアをかけていてもタイムがそんなに変わらなかった時期があったと思いますけど、あのときは踏んでいるから重くてきつかったんです。今はみんなが大ギアを踏み切れている、それに慣れているというのもあると思います。でも自分は、こういう方が得意というか、ギアをかけてハイスピードで流れているので、意外に楽なんですよ。もちろん心臓とかは苦しいですが、それに前に比べて疲れが少なくなりましたね。みんな普通は逆だと言うんですけどね(笑)。自分は低酸素でトレーニングをやっているし、インターバル系の練習もやっているので、回復力が上がっているんだと思います。夏場はもっと(タイムが)上がってくると思いますし、どうなるんだろうとは思いますが」
 革新的かつハードなトレーニングで知られる中村道場で日々汗を流す根田。今月7月21日に25歳、まだまだ可能性は無限大だ。今まで通りに己を貫いて、真っ直ぐに頂点を目指して突っ走っていく。
「目標は、GIの決勝にいくというのはあるんですけど、記念をまだ獲っていないので、まず記念を今の良い流れの内に獲ってしまいたいなという気持ちはありますね。特に8月は地元の松戸記念があるので、そこは狙っていきたいです。メンバーもかなり良いんですけど(苦笑)、逆にそのメンバーの中で取れたら最高に嬉しいですしね。高松宮記念杯もかなり自信になりましたし、これからは本命になることもあると思うので、本当に今からですね、勝負は。ファンの方にはいつも大きな声援をもらっているので、その期待に応えられるように、もっともっと強くなって、もっと上の舞台で戦えるようにコツコツと頑張りたいと思います」
根田空史 (ねだ・たかし)
1988年7月21日生まれ、24歳。身長186㎝、体重95㎏、在校成績は19勝で20位、師匠は中村浩士(79期)。今の活躍について「みんなが期待してくれるのは嬉しいし、やっとその期待に応えられるようになってきましたが、いろんな人に『やっとだな!』とか言われるんですよ、記者の方にも『時間かかり過ぎじゃない?』くらいの感じで。自分では早いくらいですよ(笑)」