インタビュー

まさに「ブレイク」の一年と言っていいだろう。今年すでに2度のGI決勝の舞台に立ち、記念決勝にもコンスタントに進出し、稲川翔という名をグレード戦線に轟かせている。強さに安定感も加わり、悲願のタイトル奪取へ突き進んでいく。
ターニングポイントとなった地元の高松宮記念杯
 モットーは「前年より上に」。05年の7月にデビューして以来、そうやって一歩一歩、階段を上がってきた。ただひたすら自分の道を信じて。
「そうですね。自分が思っていたよりも成績は上がっていったと思います。前年よりも上げていくというのが目標なので、今年に関して言えば目標は達成できていると思うし、まだ今年は終わっていないんですけど、自分としては成長できたかなと思います。今年は「何かを変えたのか?」と、よく聞かれるようになったんですけど、自分としては変えたつもりはないです。ずっとやってきた練習の結果がでてきたし、レースでは一戦一戦頑張るタイプなので、そこでやりたいことができるようになったのが大きいと思います」
 自身でも成長を強く感じている。特に「GIでも戦えるという実感がある」ことが、自信にもつながっている。そのターニングポイントとなったレースが、今年の前半戦にあった。6月、地元・岸和田で開催された高松宮記念杯(GI)である。
「そうだと思いますね。まず自分は高松宮記念杯に出場する権利から取らないといけなかったし、昨年まではそういう選手でした。でも権利を取る前から、地元の高松宮記念杯の決勝に乗ることをずっと目標にしてきました。大阪の選手会もすごくバックアップしてくれましたし、出場した大阪3人(前田拓也、南修二、稲川翔)で、それに応えられるように頑張ってきました」

6月高松宮記念杯・準決勝11レースのゴール
(4)稲川は3着入線で初のGI決勝進出を決めた
 一次予選は水谷好宏マークから2着、二次予選は脇本雄太マークで2着、そして正念場の準決勝では、再度、脇本と連係して3着入線。初のGI決勝進出を目標としていた地元戦で決めたのだった。
「地元のGIで決勝に乗る、そのときは、そのくらいの気持ちでないと絶対に乗れないと思っていましたし、準決勝は4日間で一番緊張しました。決勝に乗れたときは、ホッとしましたね。準決勝をクリアできましたけど、これは自分だけの力ではないので、練習などで一緒に走った選手のことを考えて決勝は走りました」
 決勝は近畿ラインの3番手を固め6着に終わるが、大舞台を経験したことで、タイトル奪取という目標がビジョンに入ってきた。9月のオールスター競輪(GI)、稲川は再度、決勝へ勝ち進んだ。
「一回GIの決勝に乗ったので、次に乗ったらしっかりと優勝を狙おうと思っていました。でもオールスターの決勝は平常心だったけど、まだまだでした。今の力では優勝できないと分かったし、励みになりました。高松宮記念杯のときは優勝ということよりも、決勝に乗りたい、決勝に乗ることが目標でした。でも、今は優勝したい気持ちが強くなり、そこが目標になりました。(タイトルを)獲りたいという欲が出たのと、自分がやってきたことでGI決勝まで来られたので、今までやってきたことは間違っていなかったんだという自信になりましたね。これから、どういうことをしないといけないかも分かりました。そいういう意味では、もう少し頑張らないといけないですね。脚力だけではなく、レース中の冷静さも大事ですし、脚力や体作りはもちろんですけど、タイトルを獲る人は、獲りたいと思っている人しか獲れないと分かりました。そこまでいかないといけないです」
 また、グレードレースで勝ち上がり、場数を踏んだことで、改めてラインの大切さも感じた。特に、村上義弘を中心とした近畿勢の「結束力」は、強固なことで知られている。
「近畿の選手と走る時は、自然とラインの大切さを感じてしまいます。近畿ラインで、自分もラインの力を最大限に出せる位置で走りたいと思っています。僕よりも前を走ってもらいたい人には番手に付きますしね。自分がわがままをいうだけでは、ラインの力を引き出せないと思いますから」
 11月14日現在、デビュー以来最高の賞金ラインキング16位につけている。11月28日に初日を迎える第55回朝日新聞社杯競輪祭(GI)での走りが、がぜん注目を集める。
「賞金に関しては、気にしていないです。競輪祭では結果だけにとらわれず、まず自分のレースをしたいです。もちろん優勝を狙って、まず決勝に乗って、まだ登ったことがない表彰台に登りたいです。でも「自分が、自分が」と思っていると伸びるところも伸びないですからね。今はFIやGIIIでは冷静にいられるんですが、勝負しないとダメなところで気持ちの面で劣っていると感じています。そこは経験も必要だとは思いますが、そうも言っていられないですから。近畿の先輩を見て、どうしていけばいいかを勉強させてもらっています」
 タイトル奪取とともに、もう一つ、大きな目標が生まれている。それは、初開催が決まった地元・岸和田グランプリへの出場だ。
「来年は岸和田でグランプリが開催されるので、それを目指しています。せっかく岸和田でグランプリが開催されるのだから、地元のグランプリに乗りたいです」
 稲川の走りの一番の魅力は、クレバーな組み立てとアグレッシブな気持ちを備えた自在戦だ。今後も、新たな目標と強い気持ちを胸に、一戦必勝のスタイルで上を目指し続けている。
「レースでは作戦を立てないこともないんですが、徹底先行でもないですし、前々に自分がするべきことをやってきました。どんなレース展開になっても、勝負できる位置から仕掛ける。そこを目標にしているので、昨年に比べれば自分でも(スタイルが)できつつあるのが大きいと思います。本当に一戦一戦、頑張ることしかできない性格なんです。でも、そこが自分の持ち味だと思いますし、いつも何かしてくれると思われるレースをこれからもしていきたいと思います」
稲川翔 (いなかわ・しょう)
1985年2月20日生まれ、28歳。身長172㎝、体重82㎏。師匠は北村尚勝(50期・引退)、在校成績は9勝24位。練習は「朝はロードで、昼からはバンクに入って練習しています。基本はこの流れで、あとは体調を見て、変えたりしています」とのこと。