インタビュー

GI決勝に進むこと4度。藤木裕はシーズンを通し、ビッグ戦線で安定した活躍を見せた一人だろう。常に自分自身で設けた課題と向き合い、そして越えてきた。2014年、年末の大目標を目指して、いよいよ「収穫」のときを迎える。
2014年の目標は、岸和田グランプリです
「今年(13年)は種をまいて、来年は「収穫」、自分の中ではそう思っていました」。12月の競輪祭で、13年のGIスケジュールが終了し、グランプリ出場者とS級S班が決定した。2月の全日本選抜、6月の高松宮記念杯、9月のオールスター、そして競輪祭。藤木裕はGI決勝に4度進出し、グランプリ進出こそ逃したものの、大躍進となったシーズンをこう表現した。
「今年はまだ終わっていませんけど、一年を通して目標を達成できたかなという感じだったので、悪くはなかったです。もちろんタイトルを獲れたら一番良かったんですけど、まだそこは現実味がなかったというか、来年に「収穫」できたらと考えています。GIの決勝に再び乗るということを昨年から思っていましたし、村上博幸さんと一緒にGI決勝に乗るということも一つの目標だったので、そういう面では良かったと思います。デビューしてから博幸さんのお世話になって、そこから順調に、ここまで強くなっているなという感じです」
 今年の目標に掲げていたのは「GI決勝」ともう一つが9月のオールスターでの「オリオン賞」だった。
「オールスターでオリオン賞に乗るということも一つの目標にしていました。今年の1月から、そこを目指して頑張ると(周囲に)喋っていました。もちろんオリオン賞に乗ることは、ファン投票だし、お客さんあってのことなので、分からなかったんですけど、乗ることができたのがすごく嬉しかったです。自分の走りというものが少しでも、お客さんに認められたのかなと思います。そういう目標が今年達成できると、もっと難しくなりますが、来年はさらに上の目標を目指せるのかなと思います」
 デビューして直にブレイクしたわけではなかった。ここまで地道に努力を重ねて、しっかりとした土台を築いた先に今の活躍がある。練習仲間とともに、明確な目標を掲げることでモチベーションに繋げている、と言う。
「自分は弱いので、目標設定をすごく細かくしているんです。それが自分に合っているのかなと。最初の頃は、何を目標にしたらいいかも分からないし、何をしていいかも分からないと、何も見えていませんでした。とりあえず一戦一戦、与えられたレースを走るだけ、そういう感じでしたけど、ここ2~3年で、そういう考えができるようになりましたね。博幸さん、山田久徳の3人で一年の目標を立てていて、自分は目標を紙に書いたりもしているんです。これができなかったら、来年は次のステップにあがれないと。これは毎年続けようと思っていて、書くと全然違いますね」
 毎年、掲げてきた目標を確実にクリアしてきた。そして今年ここまでの活躍をすると、もちろん次に書かれる文字は「タイトル」ということになりそうだが…。
「全部達成してきているんですけど、GIを獲るというのはまだ書けないんです。何と言ったらいいのか…重いですね、タイトルという言葉が。GIを獲れるところにいる人間だったら、そう書けるんですけど、自分にはいっぱい足りないところがあるし、それを公言できるような位置にはまだいないと思っているんです。そういうのをちょっとでも埋められるように今年は走っていた感じです」
 GI決勝にコンスタントに進む中で見えてきたのは、タイトル奪取へ足りないもの。それを痛感した例として挙げたのが、12月の競輪祭決勝だった。
「自分が感じたのは、(GIを)獲ると思われている人間は獲れるということ。獲る人は、そういうレース、そういうオーラがあるんだと思います。競輪祭の決勝で例えると、平原(康多)さんと、新田(祐大)と深谷(知広)と僕とで自力4人が並んだ時に、僕は何かが落ちているんです。そういうのがパッと見えて、藤木はないなと思われる感じだったと思うので、そこをどう埋めるかですね。誰が勝つかみんなが分からないようになるまで、タイトルには近づけないです。他の選手はスピードもあるし、一瞬の爆発力もあるのに、僕はなかったので、自分は泥仕合にもっていかないといけない。脚力の差は認めた上でも、脚力があるその人が勝つわけでもないので、それを見極めないといけないなと。そこが来年の課題でもあります」
 だが、その競輪祭で藤木は今年のベストレースに挙げる。今年最後のGI、グランプリ出場権争いで盛り上がりを見せる決勝。深谷知広の主導権で、藤木は4番手を奪取すると、最終2コーナー過ぎから捲りを敢行した。結果は7着に終わるも、今まで感じたことのない手応えを掴んでいた。

12月小倉競輪祭の決勝・最終バック。
(5)藤木が捲りを打って勝負に出る。
「ベストというと難しいですが…やっぱり競輪祭ですね。捲れなかったけど、着を抜きにして、走る前に、気持ちから全部、揃っていたのは競輪祭だったと思います。いつもは聞こえるのに、歓声が聞こえないくらい入り込めたし、それくらいすごい集中していたのかなと。GIはいつもより1周多いのに、「もう青板?」みたいな感じでした。客観的に見たら、自分は脚力も落ちると思っていたんですけど、あの中にパッと立ったら、『負けていない』と思う気持ちの方が強かったんです。
 それに優勝を狙って自分で位置をとって仕掛けられました。『グランプリかかっているんだから、4番手で直線勝負でも良かったんちゃうか』と、後からみんなに言われたんですけど、何か体が動いて捲りにいけたし、そういうのを考えずにレースだけに集中して、仕掛けないといけないところで仕掛けられたのが、一番自分の中では良いレースだったなと思いました。競輪祭の前までは、グランプリに出られない位置だったし、それがいきなり(グランプリを)狙える位置になったからといって、狙っただけでは自分の中で来年に繋がらないのかなと。それだったら自分らしいレースをして、あかんかったら、また練習しようと思っていたんです。4番手を守って抜け出すレースも必要だったのかもしれないですね。S級S班になったら来年はもっとGIというものに近づくのかなと思いましたが、僕はあれで競輪祭を獲りたかったんです。それを全面に押し出していけたのは良かったと思います。場馴れしたのもあると思いますが、今回初めてそういう気持ちになれたので、すごい経験が出来ましたね」
 藤木からは幾度となく、「来年」という言葉が聞かれた。競輪祭のように一戦一戦、自分らしいスタイルを貫き通していく中で、来年に掲げた大きな目標に向けて、すでにスタートを切っている。来年のこの時期、どこまで強くなっているか、今から楽しみでならない。
「競輪祭が終わって、今年は今までで一番稼いでいるし、これ以上(上に)いけるのか、気持ちが抜けるかなと思っていたんです。でも、来年は岸和田グランプリがあるので、岸和田グランプリには出ないとあかん、これは公言しようと思います。そういう風に思うと、練習にも身が入ってくるし、まだ今年のグランプリが終わっていないけど、グランプリに出ている人たちよりも僕は準備が早くできます。厳しくなるとは思いますが、負けないように頑張らないといけないなという感じですね。今年以上に勝ちを意識して、大きいレースで勝てるように頑張りたいです。それと、できたらオールスターのドリームレースにも出たいし、ファンに認められるレースをしていきたいと思います。年末の岸和田グランプリを目標にしていくので、応援の方よろしくお願いします」
藤木裕 (ふじき・ゆたか)
1984年6月29日生まれ、29歳。身長176㎝、体重88㎏。師匠は山本真矢(引退)、在校成績は4勝で36位。練習は「村上博幸さん、山田久徳と一緒に、朝は街道にいって、午後はバンクに入って練習しています」とのこと。