インタビュー

昨年積み重ねた勝利数は47。怒涛の勢いでS級最多勝をマークした男が石井秀治である。記念開催でもコンスタントに決勝に駒を進め、2月には全日本選抜競輪でGI初出走にまで漕ぎ着けた。常識を覆すような圧倒的なパフォーマンス、その強さの根幹は6年前の決断にあった。
トレーニングを見直して、ディーゼルエンジンに変更した感じです。
「6年から7年のスパンで見てやっていました。そこが実を結んでくれました」
 デビューは2001年8月、プロ生活13年にしての大ブレイクには「遅咲き」と称されることも多いが、この開花に至るまでにはしっかりとした計画があった。
「若いときに腰を故障して、ちょっと歩けないくらいまでになって…。それからは、自分の今やれることを焦らず一生懸命にやって、頑張ろうかなと思っていました。競輪が大ギアでスピード化してきたとき、まだ自分は先行もしていて、軽いギアを使っていたので力が足りずに遅れていた面もありました。だからトレーニングを見直して、スピード持久力を高めて成績を安定させようと取り組んできたのが、今の良い結果に繋がっていると思います。年を取って、先行よりも捲りやカマシで勝負することが増えてきたことと、ギアがこれだけ大ギアになってきて、スピードが今まで以上に出てきたので、うまくパターンがはまったという感じですね」

2月の全日本選抜競輪では初のGI出走ながら
準決勝戦に進出した(4番車で7着)。
 大ギア化の波をしっかりと見定めて、着実に準備をしてきた。昨年の夏ごろから確かな手ごたえを掴み、挙げた勝ち星は年間47勝。記念競輪でも決勝戦の常連になるなど、旋風を巻き起こしている。
「重いギアでも、レースで遅れずに反応良く体が動いてくれています。一戦一戦を頑張っているだけですが、13年もプロ生活をやらせてもらっているので、こういうレースのときはこうした方がいいという経験で動けていることで成績がまとまっている感じですね」
 では、ここまでの成績を導き出した石井流の「大ギア対策」とは何なのだろうか。そこに強さの秘密が隠されているはずだ。
「大ギア化してきたので、負荷をかけた練習に取り組むようになりましたね。今までは軽いギアだったので、回転数を重視して、車でいうと高回転のエンジンのトレーニングしていたんですけど、ディーゼルエンジンみたいな太いパワー、トルクが出るようなトレーニングの方法でギア対策をしてきたのが良かったのかなと思います。ガソリンエンジンからディーゼルエンジンに変更した感じですね。トルクをメインにして、バスのようなトルクの太さを求めました。人間を何人乗せても動けるようなトルク、そうした体作りですね。その代わりに高速回転の領域は捨てました。時代がこういう風に流れてきたので、トレーニングメニューも常に変えて、研究して、的を絞ってトレーニングをしてきました」
 今の競輪には何が向いていて、何が向いていないのか。そうしたクエスチョンを解くために、試行錯誤が続いていった。
「いろいろな人の話を聞いたり、自分で考えたり、研究したり。とにかく、多くのスポーツの分野を見て、真似できるところは取り入れてトレーニングしていました。スケート選手や陸上選手、トライアスロンの選手のトレーニングも。他のスポーツのトレーニング方法は、ネットで開けば出ていますし、何かないかな?と調べていました。競輪に当てはまるのはどれかなと。もちろんダメなものもあるんですけど、これは良いと思ったものは取り入れてきました」
 その成果を十分に発揮して、2月には高松競輪場で開催された全日本選抜競輪に出場。ついにGIデビューを果たした。結果は予選を2着3着で勝ち上がり、準決勝に進出。いきなりの決勝進出こそ逃したものの、最終日にはGI初勝利も飾った。シリーズを、こう振り返る。
「お客さんの数も、報道陣の数も多くて、GIは雰囲気が全然違いました。レースもトップレベルの選手が集まっているので、ちょっとしたミスで取り返しがつかなくなってしまったりするので、レースに対する細かい動きも詰めていかないと、ずっとトップでいるのは難しいなと実感しました。年齢も若くないので、チャンスがあるときは諦めないで頑張らないといけないですが、準決勝はちょっと緊張しましたね。体がうまく動いていないこともあったので、まだ修業が足りないと思いました。まだ大きい場所でのレースの経験がなかったので、冷静さがなかったなと。そこも今後に活かして、もっとレベルアップをして頑張りたいと思います。刺激になりました」
 GIで感じた課題は「レースの組み立て」。すでに改善すべき点として、研究をスタートさせている。
「脚力はそれなりに戦えると思うんですけど、レースの組み立てだったり、走ることに対する技術力だったりをあげていかないといけないなと思いましたね。トップ選手のレベルになればなるほど紙一重になるので、そういう技術の差でゴールしたときの結果が変わります。GIでも戦える感触はありましたが、ここ一番でミスをおかしていました。ミスはみんなもするものだとは思いますが、それをできるだけ小さくして、走っている中で取り返せるように、もっとやれるように頭の反応速度の良さや行動の切り替えももっと勉強していかないとなと思います。野球でもサッカーでも同じだと思いますが、相手のプレイヤーを研究して、どういう展開にもっていったら相手が有利になるか不利になるか、自分がどうすれば勝機があるレースを作れるのかを研究して、日々過ごしています。うまく作戦を練られるように、これからもっとレースの勉強をしていきたいです」
「プロとして」。その自覚を強く持ち、次の一戦に備える。そして、全身全霊でレースに挑む。タイトルに関しても、持論を展開する。 「GIという条件を与えてもらえることが嬉しくて喜びに変えています。タイトルは走った結果だと思っているので、今はあまり考えていないんですよ。若いときは目標にしていましたけど、どんな時でも、どんなレースでも、選手を辞めるその日まで一戦一戦、車券に貢献できるように頑張るだけ。それが僕の現状なんです。だから練習でも、疲れていても自転車に乗るようにしています。オリンピック選手と違ってワンシーズンの狙った大会に合わせればいいというわけではなく、休みなくレースをこなさないといけないですから、自転車に乗ることが癖になるようにしています。トレーニングは練習しているときだけでなく、普段の生活や食事の仕方にもあるので、そこにもかなり気を付けていますね。物をちょっと拾うときでも、普通に拾わずに膝を曲げて、腰に負担がかからないようにして。ちょっとしたことがケガにも繋がるし、お金を賭けてもらうお客様に貢献できるように、自分の時間を削って頑張っています」
 3月には名古屋競輪場で開催される日本選手権競輪(GI)に初めて出場する。デビュー13年、舞台はどんどん広がっていく。石井はこれからも力強く「輪跡」を描き続ける。その走りに魅了された多くのファンの期待を乗せて。
「日本選手権は6日間で長いですし、競輪場に入る選手の数もすごく多くので、ごった返しているでしょうが、そこでも自分のやるべきことをみつけて、冷静に普段通りにやれたらいいと思います。これからも一走一走を全力で頑張ります。応援よろしくお願いします」
石井秀治 (いしい・しゅうじ)
1979年4月6日生まれ、34歳。身長175㎝、体重72㎏。在校順位は10勝で74位。練習は「自分の時間がなくなってくるのは仕方ないですが、自転車は一日2回乗って、あとはウエイトトレーニングをやれるときはやっていますね」