インタビュー

本当の実力とは何か。猪俣康一はその答えを求め続ける。デビューは2011年1月、34歳のとき。だが、決して近道はせず、先行を貫き通して力を蓄えてきた。昨年末にはヤンググランプリを制して、近況はグレード戦線にも活躍の場を広げている。そこで感じた上位陣との差を埋めるべく、猪俣は邁進し続ける。
トレーニングを見直して、ディーゼルエンジンに変更した感じです。
 デビューして3年、今年1月には初のS級1班に昇級も果たした。ここまでの輪跡を、猪俣はこう振り返る。
「自分が思っているような感じで、順調に進んでいると思っています。力をつけながら、でも長くA級にいることは考えておらず、早くS級に上がっていく。狙い過ぎず、攻めた結果で上に上がれればいいかなと思っていました。S級でも先行まくりでS1も取れているし、今のところは計画通りですね」

昨年12月のヤンググランプリのゴールシーン
(7)猪俣が抜け出して、チャンスをものにした
 その名を全国区に轟かせたのは、昨年末のヤンググランプリであろう。竹内雄作との連係で、その竹内が打鐘先行。直線では内から和田真久留が迫ってきたが、番手から力強く抜け出して接戦を制した。
「番手回りでしたけど、A級のときから自力でやってきた、狙いすぎない、攻める競走でと思っていました。そこが良かったのかなと。単騎で狙いすぎると3番手を取り合って、終わってしまうパターンになるし、あのときも単騎が多くて、みんな後悔はしたくないけど狙いすぎていたと思います。そうなるとラインを持っている僕たちが太くなるし、正直、並びが出たときに何となく分かりました。チャンスが十分あるなと。展開でああなれば、絶対に獲れるし、獲らないといけない、そういうチャンスが出てきたときに、その一発をモノにできるかというプレッシャーはありました。その中で獲れたので嬉しかったですね」
 ヤンググランプリでは番手戦でしっかりと優勝を手にしたが、やはり猪俣の魅力はパワーあふれる自力戦だろう。着実に力をつけて、昨年9月のオールスターでGI初出場。今年3月には日本選手権、そして4月には共同通信社杯に参戦と、活躍の場を広げている。
「オールスターでGIに出させてもらいましたけど、チャンレンジャーな感じで、まだ相手を動かせてという戦法ではなかったので。GIに出ている選手は本当に狙ってくる選手ばかり。やることも決まっているし、タイムを見ていてもそんな変わりはないので、その辺をうまく立ち回って攻めどころで攻められれば、ある程度のところまではいけるのかなと思いました。共同通信社杯は二次予選でダメでしたけど、後ろが飛ばされなくて、うまくラインが出切れていれば勝ち上がれていたと思うし、自分の攻めどころが分かってきた感じですね」
 手ごたえを感じた反面、競輪界のトップに君臨する超一流との「差」も痛感した。
「やっぱりS級S班の上位ですよね。あの人達がグンと抜けています。何枚も脚が違いますし、スピードも違いますし、そこと対戦したときに、どれだけ勝負して、勝てるのか。そこだと思うんですよね。自分が怯んだりすることは一切ないですけど、新田(祐大)君にしてもスピードが違うし、平原(康多)選手も強いし、みんな隙がなくて、駆けても強い、捲っても強い。その中で自分は、相手をどう封じ込めて勝機を見出せばいいのか。そこを目指しながら、日々練習しているつもりですが、底上げをもっとしないといけないし、確実性をもっと強くなりたいです」
 この「先行選手としての確実性」。猪俣が今、最も欲しているものだ。
「まだ新人なのでダービーでも、何が何でもハナをきって先行勝負しましたが、そのダービーが終わってから山内卓也にも『先行だけすればいいやという感じではダメだよ』と言われました。もちろん、そういうつもりで先行してはいなかったんですけど、傍から見たらそういう風に見えてしまうのかなと。『ちゃんと相手を動かして、いけるところでいけるのが良いんだよ』と言われ、それをやってもいいんだなと思い、ダービーが終わってからは相手の脚質もすべて読んで相手を動かしてから仕掛けていきました。そうしたらまた着が良くなってきたんですが、特に脚がついたとかではなく、そういう競走をしても良いのであればしますという感じでした。でも、本当に強い選手はやっぱりどんな不利な状況でも勝ち上がってくると思います。そこが強さじゃないですか。そこを目指してハナを切ってきてきた部分もあるし、今は順番が来たら先行という形があって、そのタイミングを計算してみんな走っていますが、そればかりではなく、本当の力もつけないといけないとは思っています」
 その「強さ」について、今の競輪界を牽引しているトップ選手のレースを例に挙げる。
「深谷(知広)は、昨年のグランプリで、赤板で先頭に立って、残り1周もすごいタイムで逃げていましたよね。誰も捲らせずに、それで金子(貴志)さんが優勝しているので、ああいうのを見ると、強いなと思います。『誰もいかないなら駆けてしまうよ』という余裕ですよね。脇本(雄太)もそうだと思います。高知記念のときに決勝で対戦しましたが、2周でも突っ張る気だったみたいで、そうなると1000mですよね。本当に強い先行選手はそうなんですよ。(仕掛ける)順番を考えていると、競走はどんどん小さくなると思うし、狙いすぎて点数(競走得点)だけを取りにいっても…。相手がそういう競走をしてくるから、こっちも狙いやすいというのもあるんですけどね(笑)。相手が攻めないところを攻めればいいんですが、そのバランスが難しいです。本当の力をつけて、無駄なく、どんどん点数も上げていきたいと思っています。もちろん、勝負をしながら」
 これから上位陣との対戦は増えていくことだろう。「上位の選手は怯まないし、仕掛けどころに間違いがない」と分析している。パワーとスピード、そして頭脳も駆使して牙を磨いていきたいが、共同通信社杯の3日目に落車をして鎖骨を骨折。休養でフルチャージして、復帰後の大暴れを期待したい。
「そうなんです、鎖骨をやってしまったんです(苦笑)。でも、大丈夫です。昨年の1月にも鎖骨をやったんですけど、そのときは3カ所折れていて、けっこう時間がかかりましたが、前回よりも単純骨折なので、治りは早いと思います。自分の体と相談しながらですが、6月中には復帰したいと思っています。(骨折は)仕方がないので、プラスに考えてやりたいですね。これからも全力で頑張りますので、応援よろしくお願いします」
猪俣康一 (いのまた・こういち)
1976年5月11日生まれ、38歳。身長178㎝、体重88㎏。在校順位は36勝で3位。「練習は街道とバンクで半々で、それを継続してやっている感じです。一宮も場外として残っているので、バンクもまだ使えています」