インタビュー

今年の後半戦から上昇カーブを描き続けている天田裕輝。8月のサマーナイトフェスティバルで初めてビッグレースの決勝に進出すると、9月のオールスターでも決勝に進み、本格化をアピールした。上位戦を経験したことで得たこと、そして見えてきた明確な目標。これからもトリックスター・天田がレースをさらに面白くする。
ようやくここがスタート、これからが勝負だと思っています
 大きな転機となったのが8月のサマーナイトフェスティバル(GII・松戸)だった。池田勇人と連係した天田は番手でファインプレーを連発。見事に1着権利の狭き門を突破してビッグレース初の決勝に進出した。決勝は関東ライン4車の先頭を買って出て9着に終わるが、そこでの収穫は大きかった。
「大舞台に立てたことが、本当に大きかったですね。経験というものは乗らないと得られないので、そこが経験できたことは良かったです。ビッグレースの決勝は、考え方もそうですけど、全然違うなと思いました。そういう舞台を経験して、具体的に目指せるようになったのも大きかったなと。レースは、後ろに大先輩が付いてくれましたが、初めてで独特でしたし、緊張しすぎて少し空回りしちゃったかなというのはありますが……」
 もちろん選手になったからには誰しもが頂点を目指して日々の練習に励み、レースに挑んでいる。サマーナイトでの決勝進出で、今まで漠然としていて具体性に欠けていた目標が、一気に現実味を帯びてきたのだ。目標にしていた地元・前橋で開催されるオールスターへ、この経験が繋がってく。
「今年のオールスターを目安にして、そこに持っていければと思っていました。自分は夏の方が好きですしね。でも地元GIなので、意識はしないようにしても、どうしても意識してしまって、ソワソワしていたときもありました(笑)。なるべく落ち着くようにして、直前はけっこうすんなり入れたかなと思います」

第57回オールスター競輪の準決勝10レース
(8)天田が強敵を撃破しての1着で初のGI決勝を決めた
 光ったのは準決勝戦だろう。最終ホーム8番手と後方になるが、大外をまくるとグングン加速。抜け出した新田祐大を直線で捕えて1着、サマーナイトに続いてGIの決勝も射止めた。
「あのときは、自分の持てる力をどうやって出すかと考えていて、あまり欲が出なかったんです。あの辺になると、勝とうと思っても勝てないので。後ろの神山(雄一郎)さんにも自分が思っていたように走らせてもらいましたが、本当に何も考えない間に勝ってしまった感じでしたね。それくらい一番良い状態で、何も入ってこなかったです。かなりの集中力というか、あまり感じたことが無い感覚でしたね」
 オールスター決勝ではサマーナイトの決勝と同じ関東4車が出揃ったが、今度はラインが2つに分かれての勝負となった。天田は打鐘で3番手と好位置をキープかに思われたが、最終ホームで位置を奪われて後退。8着に終わった初めてのGI決勝をこう振り返る。
「地元のGIなので、ちょっと勝負をさせてもらいました。GIの決勝は、雰囲気もそうですけど、本当に大舞台という感じで、タイトルも目の前に見えてしまいました。そこがちょっとまだ甘かったなと。獲ろうと思っても獲れないので、ああいうところで狙ってしまうと難しいのかなと思いますね。タイトルを獲ればグランプリ、本当の目標に一気に近づいたので意識してしまいましたね。舞い上がるというか、狙いすぎるというか、欲しい欲しいと思ってしまって、冷静になれなかった感じでした」
 決勝では大きい着になってしまったが、それでも連続のビッグレース決勝は、大ブレークと言っていいだろう。天田本人の評価はどうだろうか。
「本当にうまくいっていて、想像以上に良くなっているなという感じですね。そんなに狙っていたわけではなかったんですけど、成績も出ていて、展開もはまって、うまく運べています。あとはこれに自分が早く慣れること。これが当たり前のようになれば、また次が見えてくるかなと思うので、まずはそれを意識していこうと思います」
 ここまでの快進撃を振り返ると、ポイントとなったのが昨年末のアクシデントだったという。
「ガラッと変えたとなると、体調面ですね。年末に腰をやってしまって、今年のはじめは練習の方もできなくなってしまっていたんです。それで少し練習を見直して、うまく向いたのかなと思います。今までは、まずは脚をつけなくてはいけないと思って、かなりガムシャラに練習をしていたところがありました。でも腰をやってから、もう少し正直に、自分のできる練習をやるという感じで、練習に対して考えるようになりました。無理な練習をした状態だと、レースでもあまり結果が出ないし、パフォーマンス的には上がらなかったなと思います。そこを変えて良くなってきたのかなと。練習では自分はタイムが出ないし、感覚的なタイプなので、あとはレースの中で良くなっていった感じですね」
 まさに「怪我の功名」と言ったところだろう。オールスター後も「良い流れのままいけている」という言葉通り、10月の武雄FIでは完全優勝を果たす。あとはビッグレースの決勝で感じた部分を、いかに埋めていくかであろう。
「(ビッグレースの)決勝でも自分のいつも通りのレースをする、余計なことを考えずに戦うことが大事で、いかにそれができるかだと思いました。弱気になるとかではないんです。狙いすぎて、少し冷静さがありませんでした。脚力をもっと向上させるのは当たり前ですけど、自分がやってきたことを信じてレースをすることだと思います」
 自身のレーススタイルについてはこう分析している。
「今のところは、自分の得意なだけのスタイルにしてしまうと、戦法が決まってしまうので、何でもやるような感じです。まだレベルアップできるかなと思っていますし、課題と言えば、あと5メートル早くもがけるようになるとか、どこからでもダッシュをできる力をつけるとか、単純に言うとそういうところですね。組み立てや展開は、割と得意な方かなと思っています」
 ビッグレースの経験をした今、次の目標はどこに置いているのだろうか。
「今の目標はいろいろありますが、身近なところですと、まだ獲っていないので記念の優勝です。タイトルはもちろん欲しいですし、ゆくゆくはグランプリも狙いたい。そういう目標もありますが、まずは自分の組み立てたプラン、目標設定を地道にこなしていければなと思います。何年後までのプランがある程度あるので、それを着実にこなしていけば、タイトルもそのうちに獲れるかなと思います。でも、まだまだなので、そこばかりの意識はせずに。今年いきなり良くなってきたので、ようやくここがスタートかなと思っているんです。これからがまだまだ勝負というところ。厳しさもありますし、一歩隙を見せたら、すぐに落ちてしまう世界ですが、悲観的にもなっていないし、勝てば楽しい。最終的に楽しめればなと思います。なかなかそこまでうまくは楽しめないですけどね(笑)」
 変幻自在の攻めで、これからもタイトル争いに加わる。天田の名は、今後もっと輝きを増していくだろう。
「周りの注目度もこれからさらに上がっていくと思うので(笑)。戦法的にも、あまり人気が出るタイプではないですけど(笑)、頑張ります。精一杯、気合を入れて一戦一戦レースをしていきたいと思いますので、応援してくれるとありがたいですね」
天田裕輝 (あまだ・ゆうき)
1985年4月12日生まれ、29歳。身長171㎝、体重76㎏。在校順位は14勝で19位。練習は「日によって違いますけど、街道が多いです。量も最近は多くないですが、今のまま練習をもっと進化させていくつもりです」