インタビュー

3月17日から22日にかけて京王閣競輪場で行われた第68回日本選手権競輪を優勝した新田祐大。優勝者の名が場内に告げられると検車場には新田の喜びの雄叫びが響いた。
念願のタイトルホルダーの仲間入りをした彼にとってこの優勝はどのような意味を持っていたのだろうか。
念願のGIタイトルを獲得し、次の目標はオリンピック!
 「ずっと前に自分は SSカップみのり2010(GI)を獲ったんですけど、みのりでは皆にGIを獲ったと認められてなくって(苦笑)、今回『GI初制覇』ってメディアにも載っていたので、やっぱり、その…、そこのあたりが自分でもちょっと歯がゆい部分があったので、ダービーを優勝し、ちゃんとGIを制することが出来たんじゃないかと思います」と言った新田祐大の言葉を聞いてハッとした。2014年共同通信社杯GII(伊東温泉競輪場)優勝は記憶に新しいが、2010年のSSカップみのり(立川競輪場)は記憶に薄い人も多かったのではないだろうか。新田の胸の中で燻っていたその複雑な思いを、ダービー優勝で晴らしたのだ。

 休み日もあり体調やモチベーションを保つことが難しいと言われる6日制のダービー。新田の6日間を振り返ってもらった。
 「ダービーは何度も走ってきて、6日制の過ごし方はなんとなくわかってはいました。特選シード権を得て、特選予選を勝ち上がってゴールデンレーサーに進んで、中1日休んでレースで、ただ、勝ち上がりは決定しているので、言い方が悪いけれど勝ちにこだわらないでもいいレースってなってしまうかもしれないけど、僕の中で基本『走るからには1着を目指す』っていうのがあるので、集中力を研ぎ澄ました状態で、中1日の休みをうまく使いながら戦っていったというのが、自分の中では培ってきたものが発揮出来たのかなと思います」

 特選予選2着は得意のパターンで浅井康太に差され、ショックだったかと思いきや本人はそんなことはないと言った。
 「いえ、差されると思って差された感じでしたね。というのも、全日本選抜の時の感覚がすごくよかったので、あの時の感覚で走って、レースを上手く組み立てていければ、決勝には乗れるだろうと思ったんです。でも、1日走ったら成績がいいか、悪くても感覚はよくて、2日目、3日目走ればよくなるって感じなんですけど、今回は、1走目は2着でも感覚があまりにも悪かったので、これは休みもあるけどあと5日間戦うのは大丈夫かなと、あとは初日が休みで2日目走って、3日目休みで、4日目がゴールデンレーサー賞で、どう調整するか考えました」
 ゴールデンレーサー賞は豪快な捲りで、2着の武田豊樹に2車身差をつけて1着ゴールした。
 「でも、自分はゴールデンレーサーでは自分が強かったとは思ってなくて、レースが上手く組み立てられたかなと思うんですよ。スタートの位置だとか、駆けどころだったりとか、自分の思っていた通りの展開になったと思いますね」
 準決勝を空いた隙を逃さず突っ込み1着で突破、決勝戦へ勝ち進んだ。
 「決勝も難しいレースでした。たぶん、準決勝の仕掛けがあったからこそ、あの仕掛けで大丈夫だったと、他の選手も思っていたところがあると思うんですけども、そこがたまたま上手くマッチしたレースだったのかなと思います」
 決勝戦は、赤板から原田研太朗が先行し、3番手から武田が捲る。それを井上昌己が合わせる。最終4コーナーから平原康多も追い込んでいき、その後ろから捲っていった新田、ゴール前直線で外を伸びていった浅井、3人が横一線でゴールした。この接戦を制し、新田が優勝の栄冠に輝いた。
 「いつもだったら平原さんもヨコに持ってきたりするところだったんですけど、車輪が掛かっていただけでずっと走っていました。それは武田さんが前で、武田さんを抜ける感じだけど飯嶋(則之)さんが内にもぐってくるからって、たぶん考えていたのではないかなって思うんです。自分は初日にすんなり浅井さんに差されているから、行かせるだけ行かそうかなと考えなのかなとレースの中に思いました。でも、レース中の位置取りもたまたま浅井さんの前に入ったのでよかったけれど、そうではなかったら、僕が一番前で受けている感じなので、そうなったら、今回の結果はなかったかもしれないですね」
 展開を上手くものにして、ダービーを制した新田。脚力だけでなく、落ち着いてチャンスを逃さなかったその勝利は今まで培ったものという言葉が一番ぴったりくるだろう。
 「これでグランプリへの出場権も得ることが出来ましたし、来年度のS級S班も獲得出来て、それにより特別競輪の特選シード権も得られます。そうするとリオオリンピックに向けて集中してトレーニングなどしやすい環境が整えられたと思います。切羽詰った中でオリンピックを目指すよりはちょっと一呼吸置いて出来るかなと思います」
 競輪と世界で頂点を目指す新田、この優勝が別々に伸びる2つの道を繋げていく。
 また、新田にとってGIを獲った意味はもう一つある。
 「前回グランプリに出たのが2年前で、あの時は賞金で出場しました。昨年はGIIを優勝したけれど、そこから、SS11の関係で獲得賞金が少なくなって、最後はケガをしてしまって出られなくなってしまいました。今年はGI優勝として出ないと格として1つ下がるというか、周りから見ても、『○○○(GI)優勝の○○○選手』と言われるのと『賞金ランキング○位の○○○選手』って言われるのでは、うーんって感じになってしまうので、そういうところで僕の中で、形としてしっかりグランプリに勝負したいなと思っていました」
 ダービー終了後には、伊豆ベロドロームでナショナルチームの合宿もあった。
 「合宿は時間が短い中で密度の濃い、詰めた内容、身体を追い込むようなトレーニングをして、試合の感覚とは別の感覚というものを感じるような内容だったと思います。男子に関しては、珍しくほぼ全員が集まりました。それで各々の力を感じることが出来たのでよかったですね」
 中でもライバル視している選手は誰だろうか。
 「次のオリンピックを目指しているメインの6人ですね。今回は脇本(雄太)がいなかったけど、ワールドカップにいっていたメンバーは、どんな戦い方しているのかな、どういうところがよくなっているとか合宿でわかったので、そこを踏まえて全日本選手権にはかなり仕上げていけるんじゃないかなと思います」

 2012ロンドンオリンピックにも出場を果たしているが、新田にとってオリンピックとは?
 「まずは自転車に対する気持ちが変わりました。オリンピックは、オリンピックを目指す中で、色々な人たちとの出会いがあって、その中で色んなことを学ぶことが多かったんです。それに恩返しするためにも、やはり競輪ではもちろん、オリンピックでメダルをというのを使命としてやらなくちゃいけないかなと自分の中では思っています。なので、そこまでに一つ一つを達成していって、オリンピックのメダルを獲得したいですね」

 新田にとって選手生活10年目になる。この節目の年にダービーを獲り、さらに高みを目指す。
 「10年目か……それは特に考えてなかったですね(笑)。10年経って、僕が10年間学んできたものを活かしたいですね。競輪人生は10年、20年で終わりではないと思っているので、10年目の凄みを出していって、11年目でさらに飛躍出来るような、躍進の年にしたいですね」
新田祐大 (にった・ゆうだい)
1986年1月25年生まれ、29歳。身長173cm、体重87kg。目標の一つが展開を自分で作ること。「武田豊樹さんや平原康多さんらを見ていると、自分でレースを作っているところが強さだと思うので、自分も見習わないといけないですよね」