インタビュー

8月21日から23日にかけて函館競輪場で行われた第11回サマーナイトフェスティバル(GII)を優勝した近藤龍徳。ヤンググランプリ(GII)に続き100期代初のビッグレース制覇となった。その近藤に今大会を振り返り、レースに対する思いを語ってもらった。
先輩にも『あいつと一緒なら安心して走れる』って思われるような選手になりたいです

サマーナイトフェスティバルの表彰
 今年から3日制になったサマーナイトフェスティバル(以下、サマーナイトF)を制した近藤龍徳。
「振り返ると優勝したことに尽きるんですけど、ファンだったり選手だったりをびっくりさせられたことが一番嬉しいというか、気持ちいいというか(笑)、そういう気持ちが強いですね」

 函館競輪場に入った時から『優勝しか見てない』という発言もあった近藤。
「まぁ、その辺はよく皆にビッグマウスって言われるんですけど、僕なりの選手としての見せ方というか、……うん、自分ではないだろうと思っていました(笑)」
 それを本当に実行出来てしまったことはすごいことだ。
「昔から、そういうところはあって、不思議なものですよね(笑)」
 だが、口に出すことによって実現に近づくこともある。
「自分の競走とか脚とかレースのセンスとかありますけど、気持ちの面では強い方だと思います」
 その気持ちがサマーナイトFでは遺憾なく発揮された。

 まずは初日から競走を振り返ってもらった。
「4月の高知記念で浅井さんの前を走らせてもらって、『次は(後ろに)つけよ』って笑いながら話していたんです。なので、まずは浅井さんと離れないようにって気持ちしかありませんでした。正直、付ききって2着が全てかなと思うんですけど」

 準決勝では、前の金子貴志が落車するアクシデントがあったが、それを上手く避けて3着に入り、決勝戦に勝ちあがった。
「落車があったので喜びはしないですけど、外から見ていて奇跡だとかラッキーって言われるのも嬉しい反応ですね。状態がいい時って一瞬に色んな判断が出来るというか、その時に武田(豊樹)さんが外に来ているのも見えて、イヤな予感というか、何かあるかもしれないと、コース取りの判断が出来たのはよかったと思います」
 サマーナイトFの時、感覚は研ぎ澄まされていたのだろう。
「そうですね、ヤンググランプリの時もそうだったし。常にそういう気持ちで走らないといけないと思うけど、大舞台になればなるほど、見ている人に『やっぱりこいつはすごい』って目で見られたいですからね」

 決勝戦はどうだったのだろうか。
「決勝戦に乗らないと絶対に優勝ってムリじゃないですか。だから、浅井さんについていけば優勝のチャンスはある、僕にもチャンスはあるって、番組が出た時から、そういう思いでした」
 レースは、原田研太朗が先行し、浅井は捲り切れなかったが、近藤は直線を伸びて1着でゴール線を通過した。
「自分の中で色々とシミュレーションをして、浅井さんがきれいに捲った時に僕は外からじゃ抜けないって思ったんですよ。浅井さんが仕掛けてダメだった時にコースを見つけて、突っ込むという準備はしていました」
 あらゆるシーンを想定したパターンを考え、その通りに身体が反応した近藤。最後はキレイにコースが空いたことも運が味方した。
「地元の先輩たちに打ち上げで『お前はモーゼかっ!?』って言われました(笑)。でも、僕もあそこはこじ開けるつもりで突っ込んでいっているし、そういう強い気持ちがあってこそかなと。前が閉じているから踏めないっていう気持ちがあると、やっぱり、上がりタイムもあるし、番手だった岩津(裕介)さんは抜けてなかったのかなと思います」
 (優勝出来て)周りからは『持っている』って言われるんですけどその通りで、僕は自分が強いと思ったことないし。持っているとしか説明のしようのない優勝だとは思うけど、それも実力だと思わないと、僕もこの先やっていけないですから。タイトルを獲れる選手って一つまみだと思うんですよ、一握りもいないと思うんです。そんな中で、僕が獲れたのは本当に、運も実力の内という言葉の通りだと思います。
 『ヤンググランプリとサマーナイトFの優勝はどっちが嬉しい?』って聞かれるんですけど、ヤングは若手だけの戦いで、サマーナイトFは超一流の選手もいるので、サマーナイトFの方が断然に嬉しかったですね」

胴上げはヤンググランプリと同じ
フライング龍徳となった。
 父・近藤幸徳と師匠・鰐渕正利は一緒の開催で、宿舎でレースを見ていたそうだ。
「父には聞いてはないけど、僕がタイトルを獲るなんて思ってなかったと思うんですよね。いつも近くで見ているし。父は、師匠と一緒に見ていてびっくりしたみたいですね(笑)」
 きっと見ていて喜んだことだろう。
「はい、嬉しかったと思います。父がGIIの決勝までが最高って言っていたんで」
 これで父越えかと言うと、そうではないと近藤は言った。
「うーん、でも、ちょっと違うんですよね。高い壁というか、正直、越えようとは思ってないです。僕は僕だし、競走スタイルが全然違うので。先行屋と追い込み屋っていうのは、野球で言うならばピッチャーとバッターくらい違うと思うし、だから、越えるっていうのは違うかなと思うし、それは自分が決めることじゃなく、周りが認めることだと思うので。もし、越えたって言われるならば、僕が引退する時に誰かが言ってくれたら嬉しいですね」

 練習について聞いてみると
「他の人に誇れるほど練習してないです(笑)。朝は早いんですよ。それは午後をゆっくりしたいからであって(笑)」
 と言うが、そう言いながらもやるべきことはやってそうなタイプに思える。
「そうですね、自分の中で決めたことはやっていますね。でも、僕は身体が強くないので。というのも、昔、病気で腎臓を1つ取っているんですよ。なんというか地元の先輩たちにはあんまり伝わらないんですけど(笑)、練習し過ぎると身体のダメージがあるんです。ましてやこんなに小さい身体だし、力では絶対に勝てないので感覚とかは大事にしたいなと思って、練習しているんです」
 過去の病気で腎臓が1つになったことでハードな練習は身体に負担がかかるため、出来ない。それをカバーするために自分でしっかり考えているのだろう。

 これからの目標は?
「FIを優勝したことがないじゃないですか、GIIを獲ったからって次はGI優勝とはならないし、まずはFI優勝じゃないですかね! 本当は大きいことを言いたいところなんですけど、FIも優勝したことがない人間なんで(笑)」
 戦法的にはどうしていきたいのだろうか。
「将来的にはもちろんマーク屋ですけどまだ認められてないので…、愛知や中部の先輩たちに認めてもらわないとダメですからね。自分からマーク屋宣言している人もいて、それが羨ましいし格好いいなと思うし、尊敬するんです。でも、自分はそのスタイルでどこまで行けるかやってみたいですね」
 認められるまでは前を回るなど、色々としながら経験を培っていく。
「そうですね、前を回る時は自分の出来ることがあるだろうし、番手を回る時はまたその時で僕の仕事があるだろうし、頑張りたいですね」
 番手の仕事に関しての考え方を聞いてみた。
「僕は番手捲りとか出来る選手ではないし、とにかくマーク選手って2着の決まり手じゃないですか。なので、位置を取りきることがマーク屋の一番の価値だと思っています。もちろん抜けるのが一番いいんですけど、とにかくワンツー、ライン3車だったらワンツースリーと、ラインで決められる競走を心がけています。
 まだ技術がないというか未熟なので、捲りを止められなかったり残せなかったり、かばい過ぎて自分も残れなかったりですけど、そういう失敗をしないと成長しないところもあるので。
 マーク屋って本当に大変だなって思うのが、マークの練習って競走でしか出来ないんですよね。練習ではあんなヨコの動き出来ないので、常に競走で練習以上を求められるんですよ。そこが難しいけど、面白いところだと思います」
 話を聞いていると、昔ながらのマーク屋気質を感じる。
「なんか、そうなっていくような感じです。元から身体もないし、自分がトップ選手になるにはって考えたら僕はマーク屋だと思うし、先輩にも『あいつが後ろなら安心して走れる』って思われたいですね」

「ファンの皆様の中には、『若いんだから先行しろ』と思う方もいるだろうけど、僕はこのスタイルで魅了出来る選手、ワクワクさせられる選手になりたいです!
 自分を持ってないと中途半端にやってしまうじゃないですか。そういう中途半端が嫌いだし、やっぱり、誰だって勝ちたいじゃないですか、それを考えた結果の戦法だし。だから、走りで『本当にこいつは勝ちたい男なんだな』っていうのを見てもらえればいいですね」
 発言でワクワクさせてくれ、レースでワクワクさせてくれる男・近藤龍徳。ビッグになればなるほど、そのワクワクはさらに増す。
近藤龍徳 (こんどう・たつのり)
1991年1月20日生まれ 身長165.5cm 体重59.7kg。「サマーナイトFの優勝は準決勝戦が全てでした。落車は避けられたのではなくて、避けたんです。感覚的にわかるんですよね。FI初優勝を出来るように頑張ります」