インタビュー

ついに中川誠一郎がGI優勝を果たした。
被災地支援競輪・第70回日本選手権競輪(GI)という銘打たれた今開催を優勝出来たのは追い風が自分に吹いていたという中川。
地元・熊本への思い、またリオオリンピックへの思いを語ってもらった

6日間、自分に追い風が吹いていたとしか思えない感じです
「毎回、勝ちたいとか決勝に乗りたいと強い思いで、特別競輪に入っているのですが、今回ばかりは不安の方が大きくて…。自分の練習も出来ていなかったし、地震も続いていて熊本のことも心配で、いつものように落ち着いて入れなかったので、僕に展開が向いていたので本当に不思議な感じでしたね。6日間、自分に追い風が吹いていたとしか思えない感じです」
被災地支援競輪・第70回日本選手権競輪(GI)(以下ダービー)を、中川誠一郎はそう振り返った。

中川誠一郎 熊本・85期
 中川のダービーは、一次予選は捲って2着、二次予選捲って2着、準決勝も2着で勝ち上がった。中川にしては勝ち切れていない印象もあり、体調が万全でない印象は受けたが、中川のゴールへの執着を感じる勝ち上がりだった。準決勝も最後のゴール前に道が開けたようにコースがあいた。
「本当に道が開いたという感じの準決勝でしたね。いつもだったら、最後は道がつまって終わる展開ですけど、(準決勝も)不思議と僕に追い風が吹いたのかなって思いました」
 そうして迎えた決勝戦、
「メンバーを見て、新田(祐大)君と深谷(知広)君の2分線で、僕を含めて単騎3人。深谷君が先手を取り、新田君が捲りかなって思いました。僕も前々に行こうと考えましたが、ぶっつけ本番の前々より自分の力が出せ、一番信じられる戦法の方がいいと思ったんです」
 レースは、新田祐大-渡邉晴智-松坂英司が前受け、単騎3人(中川、牛山貴広、稲川翔)が中団、愛知の深谷知広 -吉田敏洋-近藤龍徳で周回を重ねた。赤板で深谷が前をおさえるが、新田が突っ張って先行。深谷が再び巻き返そうと踏みあげるが、その短くなったところを最後尾から中川がドカンと捲っていた。
「新田君も簡単には引かないと思ったので、多少踏んで位置取りしてからの捲りにしようと思ったのですが、深谷君が後退して、もう1回深谷君の巻き返しで、もがき合いのような形になったので、僕も1回はチャンスが来ると信じて、そこだけ逃さないように、しっかり踏みました。もう仕掛けるのはそこしかなかったです」
 (最終2コーナーで)深谷君が浮いていたので、そこを越えれば、出切れると思って、そこは必死でした」
 出切った後は粘るだけだと思って、後ろから吉田君、新田君が追ってくるのはわかったので、もうここまで来たら優勝したいという思いもあり、苦しかったけど力は入りました。最後は気持ちでしたね」
 ゴールした瞬間、中川からガッツポーズが出た。
「いやぁ、声が出ましたね。いつもは声出ないのに(笑)。あんまり表に出すタイプじゃないので、でも今日は声が出ました」
 今回の勝因を聞くと、中川は
「勝因は、自分の得意で自信の持てる戦法を、自分で信じきれたことだと思います」
 今まで何度も特別等の決勝に進んでいる中川だったが、その力を発揮し切れないことも多かった。それが今回は中川らしいレースで優勝を決めた。今まで以上の強い気持ちが中川を後押ししていたように思える。
「ボランティアで頑張っている仲間と多少は手伝いをしましたが、それよりも僕がやることは走ってアピールすることだと思ったので、出来る限り調整して、ここに臨もうと思いました。これで僕の走りを見て、ちょっとでも元気が出る人がいれば本当に嬉しいです」
 熊本に少しでも元気を届けたい! その中川の強い気持ちはきっと届いたはずだ。
中川は2年間にも及ぶオリンピック出場権をかけた苦しい戦いを経て、なんとかリオオリンピック自転車競技スプリントの出場権をもぎ取った。今後はしばらく競輪から離れる。落車によるケガの防止、また世界の大ギア化の対応を合宿でパワーアップし、競技のレースなどでレース勘を養うためだ。
「ロンドンオリンピックを終わって2年くらいは体力的にも衰えてなかったのですが、ちょっと今シーズンは両方とも中途半端になってきているなって思って。競技もタイム的に伸びてきていないし、ちょっと2つ(両立は)ムリかなっていう中で、ギリギリ権利を取れたっていう感じでしたね」
 2月に渡邉一成が全日本選抜(GI)を優勝したことも、気持ちが入った理由の1つだそうだ。
「リオに出場する3人の中で僕が1番実績ないので、追いつきたいという思いがあったので、今回獲れてよかったです。前回のロンドンオリンピックに日本代表として出させていただいてから、日本代表として、国内のタイトルを獲りたいというか獲らないといけないと自分に言い聞かせて4年間やってきた。思うようにいかなくても諦めなかったので目標を達成出来たと思います」
「リオオリンピックで頑張って、また競輪界に戻ってきますので、応援よろしくお願いします!」
 ダービーの中川の追い風は、熊本への思いが走りに表れていた。今度はその追い風が今度は熊本に吹くことを信じている。
 中川のリオオリンピックでさらに熊本を勇気づける走りを期待したい!
中川誠一郎 (なかがわ・せいいちろう)
1979年6月7日生まれ。身長174cm、体重78kg。
地震時の中川は熊本を離れていたため、心配だったそうだ。「1回目のときは合宿のため伊豆に移動の前日だったので川崎、2回目の時は伊豆にいました。2回目の地震があって、熊本に移動が出来なくなってしまい、1日、2日待っていましたが、熊本に飛行機が飛ばないので福岡に飛んで、先輩に迎えにきてもらい
              ました。バスも電車も動いてなかったので、先輩に迎えに来てもらって本当に助かりました」