インタビュー

ついに、ついに稲垣裕之がGIタイトルを獲得した!! デビューから15年、初めてGI決勝進出を果たした2004年から12年、もうすぐと言われながらなかなか獲れなかった稲垣。ケガに苦しんだ時期もあったが、やっとその苦しみを乗り越えてのGI優勝。表彰台で嬉し涙も見せた。その胸の内を語ってもらった。
近畿のみんなの頑張る姿が原動力となった
 10月7日から10日に前橋競輪場で行われた平成28年熊本地震被災地支援 第25回寬仁親王牌・世界選手権記念トーナメントを優勝した稲垣裕之。これが12度目のGI決勝挑戦で、ようやく優勝を手に入れた。
「ここまで長かったです…。今まで近畿の選手たちがレースを運んでくれる中で結果を残せなかったのが物凄くはがゆかったし、申し訳ない気持ちがあったんですけど、今回こうやって結果を残せてよかったと思います。
 若い時の気持ちと今の気持ちは全然違うものですし、…色んな失敗をしてきましたけども、少し時間がかかりましたが、このGI優勝で少しは恩返しが出来たかなと思います」

決勝を走る稲垣
 何度もケガもあり、そこから何度も復活してきた稲垣。
 「ケガの中で骨盤骨折がすごく自分の中では大きくて、でも、失敗してわかったこともあるし、考えさせられることも多かったので、それが結果につながったかなと思います。
 メンタル面で足りない部分がありましたし、そういう面では近畿の先輩たちのアドバイスがすごく大きかったです」
 稲垣にとって、その苦しい時期を乗り越える原動力になったものは何なのだろうか。
 「やっぱり近畿の皆の頑張る姿ですね。同期の村上博幸君が獲って、自分も獲りたいっていう気持ちにさせてくれましたし、そういう切磋琢磨出来る環境が周りにあったというのは、本当に恵まれたと思います」
 そして、その近畿への思いがさらにこの優勝で強まったようだ。
 「これからはまた近畿の中で自分の役割を考えて、やっていきたいと思います」
 今大会はどんな思いで臨んだのか。
 「結果を出したいと思っていました。昨年、初めて経験したグランプリも、今年はGIを獲って、乗りたいという強い思いをもって、今年はGIに臨んでいました」

決勝ゴール
 決勝戦、稲垣は、脇本雄太の番手をまわり、その後ろを村上義弘がかためた。
 「脇本君の番手という責任ある役割を果たそうと思いました。
 もちろん緊張やプレッシャーはありましたが、それを上手く自分でコントロールするように心がけました」
 対戦相手も古性優作、南修二の大坂勢、深谷知広、浅井康太の中部勢、平原康多、園田匠の単騎の2人と強力だった。
 レースは、残り2周から脇本選手が果敢に先行する。その後ろで稲垣は「どんな展開になっても対処しようと思って、思ったよりリラックスして走れました」と思っていたそうだ。
 最終バック前から古性が捲っていくと、それに合わせて稲垣も動いた。
 「出たタイミングっていうのは周りの展開次第で対処しようと思っていましたし、最終バックで古性君の気迫がすごく感じられたので、そこで踏まされた部分もありました。
 踏み込んでからは、一心に何も考えず、力を出すことだけを考えて走りました」
 ゴール前、平原もすごい勢いで追い込んでくるが、稲垣は4分の1車輪差で、栄冠を手にした。
 レースを振り返り稲垣は
 「3番手を村上さんがかためてくれたことが、そこが、今回の優勝にすごく大きかったなと思います。
 村上さんは精神的な弱さの部分をずっと厳しくアドバイスし続てくれた人ですし、本当にここまで成長出来たのも村上さんのおかげです」
 そう話した。
 ついに優勝を果たした稲垣を待っていたのは、ドーム中に響く大きな歓声だった。自分の優勝したこともファンの声で知った。
 「……結果を出せなかった時も、ファンの皆さんが応援し続けてくれて、なんとかこういう結果を残すことが出来て、1つ恩返しは出来たかなと思います。
 でも、ここが終わりだとも思っていないですし、また新たな気持ちで、より責任感ある走りをしていきたいと思います。結果だけでなく、1つ1つのレースでより気持ちを込めて、臨んでいきたいと思います」
 そして、これで今年もまた年末の大舞台・グランプリへの出場が決まった。
 「昨年は初めてのグランプリでちょっと雰囲気に飲まれた部分もあったんですけど、もう一度必ずこの舞台に立ちたいという気持ちになりましたし、今度はタイトルを獲ってという気持ちでいたので、それが実現して、今度はまた違う気持ちで走りたいと思います」
 表彰台で流した嬉し涙。けれど、稲垣のその目はもう次に向かっていた。
 タイトルホルダーとして責任感ある走りがしたいと稲垣は言った。何度も苦しみを乗り越えて、有言実行を果たしてきた稲垣が目指す、さらなる高みを、これからも注目していきたい。
稲垣裕之 (いながき・ひろゆき)
1977年7月28日生まれ。身長178cm、体重83kg。
この優勝を一番伝えたいのは?「本当に色んな人のお世話になって、近畿の仲間はもちろんですけど、それとトレーニングを見てもらった松本(整)さん、それから、一番はいつも支えてくれた家族に感謝を伝えたいです」