「京都伝説の継承」藤木裕　京都　89期　S級1班

　古都バンクに新たな伝説が継承されたか。
　11月7日の京都向日町FI、S級決勝戦は、藤木裕と番手の村上博幸と地元両者の一騎打ちムードだった。レースは藤木が最終ホーム手前で一気にカマして主導権を奪うと、別線の反撃を許さず直線は村上との直線勝負となった。それでもわずかに藤木が先んじて地元初Vを決めた。藤木にとっては何よりも真っ先に寄ってきて「今度は抜くぞ」と快活に笑顔を見せてくれた村上の言葉が一番うれしかった。「今僕があるのは博幸さんのおかげ」と常に公言してきた藤木の恩返しのレースにもなった。

　藤木がレーサーになろうと思ったきっかけは、花園高校時代に見た2000年9月の向日町記念決勝戦だった。徹底先行で売り出し中だった村上義弘と松本整（45期・引退）のゴール前のデッドヒートを目の当たりにした。松本が首をねじ入れるようにゴール前迫ったが、村上がしのいで地元記念を初制覇した地元ファンの間で語りぐさになっている名勝負だ。村上はこのレースで得た自信を胸にGI制覇を果たすターニングポイントとなった。競輪のことを何も知らなかった藤木が「同じ京都同士でこんな競り合いをする競輪はすごい。かっこいい」と素直に感動したのだ。

　高校卒業後に89回生としてデビューした藤木は順当にS級に昇級したが、壁にぶち当たり伸び悩んでいた。ある日、村上博幸に「エエ加減な練習をやめていっしょに練習してみんか」と誘われたのをきっかけに飛躍。昨年S級6回優勝、今年は武雄でGIII初優勝、四日市サマーナイトフェスティバルではGII初の決勝進出も果たした。

「9月の向日町記念から記者さんに話していたようにいつまでも村上さんたちの先導役では成長しない。GIでも常に勝ち切る競走を意識するようになった。今回も博幸さん相手でもゴール前で好勝負できるイメージを特選から試した」と初日特選の打鐘先行で村上の2着に粘ったレースは、決勝で勝ち切るための布石だった。
　村上義弘が松本整を振り切って〝先行日本一〟の階段を上っていった同じ舞台で弟・博幸を振り切った藤木の次のステップに上がるターニングポイントのレースになる予感にぞくぞくした。

京都向日町競輪場より