インタビュー

松山学 神奈川 58期 A級1班
ここまで頑張れたのは家族や仲間がいたから
 また一人、個性派のレーサーがバンクを去った。松山学、47歳。強引な競りを売りにS級でも活躍。落車の回数も多かったが、それは命をかけて戦った証でもある。「松山さんが後ろに付くときは、安心して逃げることができる」と先行選手の信頼は厚かった。捲ってくる選手がいれば、体を張って止める。スマートではない。泥臭くても最後までレースを諦めない姿勢は、ファンからも絶大な支持を受けていた。
 引退シリーズは9月17日からの小田原。花月園が廃止になった後は夫人の実家近くの小田原をホームバンクにしていた。そして迎えた運命の最終日。決勝には勝ち上がれず3レースの特選。顔見せが始まると、「松山、お疲れさん」「松山、辞めるな」など、わずか2周の間に引退を惜しむ声がバンクに響き渡った。

松山学 神奈川・58期
 目標は同門の平原輝弥。大方の予想は平原が逃げて、松山が追い込めるか。しかし、平原は不発となったとき、3コーナー手前から松山が捲って出た。「無我夢中だった。プロだし、1着を狙うのは当然」。決まり手は追い込みだったが、紛れもなくあれは捲りだった。ある選手が言った。「あれは松山の意地。マーク屋なのに最後は捲り。意地以外の何ものでもない」。勝利者インタビューと引退セレモニーが一緒に行われた。「ここまで頑張れたのは家族や仲間がいたから」と言葉に詰まる場面もあった。これだけ惜しまれて引退する選手は多くない。駐車場での身内によるセレモニーは収拾がつかないほどだった。すべては松山の人柄がなせるわざだろう。
 今後は鍼灸、マッサージを学び、いずれは開業するつもり。現役27年で231勝。記録ではなく記憶に残る選手だった。


小田原競輪場より