インタビュー

芦澤大輔 茨城 90期 S級1班
「我慢の人」が地元・取手記念を盛り立てる
 何事にも動じずにじっと我慢。それでいて余裕を崩さない。芦澤大輔のイメージだ。競走スタイルも、普段のたたずまいからもそう感じさせる。
 高校時代はラグビー部の主将としてチームをけん引し、フェアな物事への取り組みと強靭な精神力を培った。競輪学校へ入ってからも、責任感あふれる行動を貫き人望を集め、同期たちからは“不正を許さぬ真面目な人”と評された。それでいて、羽目を外したら誰にも止められないと、陽気すぎる一面もあるらしい。堅さと緩さの同居がこの選手の最大の魅力で、あの武田豊樹も「アイツは打ち込む時とそうでない時の差が結構あるからね」と冗談めかしながら評したほどだ。競走にも如実に現れている。10月熊本記念の4日間は、まさに気持ちを前面に押し出した開催だった。初日は任せた矢野昌彦が、深谷知広に叩かれると、中団を確保しじっとこらえて直線を伸びた。「矢野君がレース前に『作戦は先行です』と言ってくれたし早めに踏めなかった」。

芦澤大輔 茨城・90期
 2日目優秀戦は同県・長塚智広の前回りで、脚を使っての中団取りからすかさず2角捲りを敢行したが、さすがに距離も長く成田和也の牽制でジ・エンド。レース後は「捲りが出ずに情けない」と悔しがったが、この競走には伏線があった。初日に全レースが終了し優秀戦のメンバー9名が決定すると、芦澤は検車場にいた長塚のもとへ「前で頑張ります」と挨拶に出向いた。長塚も「“頑張る”だけじゃなくて、結果を出すんだぞ」と後輩を激励。両者のやりとりは、各選手や記者、関係者でごったがえす検車場にひときわ響いたため、周囲は思わず茨城両者に目を奪われた。長塚がグランプリ出場へ向けた賞金争いの渦中におり「関東はひとつ」とのスローガンを掲げており、同県の後輩としては先輩の「結果」にきちんと貢献した格好だ。優秀戦終了後、9着大敗の芦澤に人だかりができ、周囲は頑張りをたたえ、その存在意義を評価した。「自力が出なかったのは情けない。でも、やるべきことはできたと思います」。
 準決勝は天田裕輝に任せた結果4着と惜敗するも「天田君は精一杯頑張ってくれた。3着に入れなかったのは自分の脚のせい」ときっぱり。最終日も天田任せで後方に置かれたものの、猛烈に外コースを強襲して3着に食い込み、とりあえず溜飲を下げた。「収穫はありました。この先につながると思います」。この先とは、11月に開催される地元記念とみる。「武田さんの分も頑張ります」が最大のモチベーションで、近況充実著しい牛山貴広とともに、武田不在の地元勢を盛り立てる。我慢の人がようやく報われる、そんなシーンをみてみたい。


熊本競輪場より