インタビュー

森山智徳 熊本 98期 S級2班
先輩の背中を追いかけ、リオを目指す
 学生時代はスポーツ競技の名門・鹿屋体育大学でカヌー競技を中心に活躍し北京オリンピックを目指していたという変り種で、デビューから4年が経過し、今期は2度目のS級挑戦となる。セールスポイントは誰もが目をひくダッシュ力で「カヌーでパドルを引く作業というのがあって、上半身がかなり鍛えられる。上半身ができているから脚が無くても土台がある。ダッシュ力が付いたのと何か関係があるのかもしれません」と分析する。たぐいまれな踏み出しはけたたましく、実際にA級時代から幾多のマーク選手を泣かせてきた。こんなエピソードもある。デビューから間もないころ、地元バンクで500mタイムトライアルを測った際に「32秒8」という断トツのタイムを叩き出し、周囲の度肝を抜いた。参加選手の中にはS級の選手も多く混じっていたというのだからたいしたもので、熊本バンクに新星が現れたと話題になった。そう言われては本人も悪い気しないし鼻高々だ。

森山智徳 熊本・98期
 ところが計測会の終盤、中川誠一郎がバンクに姿を現したことで場の空気が一変した。ナショナルチームでバリバリに活躍する男は頑固でマイペースな肥後もっこすで、群れることをあまり好まずに練習はほとんどひとり。そんな孤高のアスリートがたまたま競輪場へ顔を出したのだ。中川は周囲に誘われるがまま、ウォーミングアップもそこそこに軽い気持ちで自転車へまたがったのだが、出したタイムは「32秒6」。森山は文字通りに秒殺され、鼻をポキリとへし折られた。「バンクコンディションが自分のときよりも圧倒的に悪かったんですよ。それなのに簡単に抜かれた。これが力の違いなんだなと上位の壁を実感した」と打ちひしがれたが、中川に聞くと「あぁ、そんなことがありましたね。あれはたしか2、3年前だったかな。今の自分だったらもっといいタイムが出ます」と、変わらず涼しい顔だった。
 この一件のあと、2013年1月にナショナルチームの育成選手へ選ばれたということもあって、森山は中川をさらに意識するようになった。海外遠征や国内大会などの場で機会があれば教えを請いに行くが、中川があまり後輩と頻繁に接するタイプではないためなかなかかみ合わない。「それでも、たまにボソっとアドバイスをしてくれる。だから一言も聞き逃さないように気をつけてます」。
 まだ育成枠ではあるが、いずれは正式に強化選手となり、目指すところは2016年にブラジル・リオデジャネイロ開催されるオリンピックへの出場だ。もともとはカヌーで世界を目指していただけに、たぎる血が沸き立ち突き動かされるのだ。「誠一郎さんがロンドンオリンピックに出たのが33歳のとき。自分もリオのとき33歳になるんです。おこがましいけど、重なる部分があるし可能性はあると思っています」。正式な師弟の契りこそないが、競技面に関してはまさにそんな間柄といっていい。中川の一挙手一投足に気を配り、糧とすることがステージアップへの近道となるのだ。
 夢をかなえるためには、まずは本業との両立が大前提だ。3月玉野記念の二次予選では、地元の先輩でありスター・合志正臣の1着に貢献するなど、見せ場なく終わった初のS級時と比べて、今期は確実にパワーアップしている。暖かくなるこれからの季節は走路も軽くなり、持ち味のダッシュ力が実戦で一層生かせるはずで、まさにこれからが狙いの選手だ。決して器用ではない中川だって、若いころからあれこれと順応してうまく両立してきた。カヌーから自転車へと乗り換えた手際の良さがあれば、するりと軌道に乗せることができるはずで、リオでの競演が今から待ち遠しい。ただその時は、すで37歳となっている“師匠”にも、まだまだ頑張っていてもらわねばならないのだが……。


熊本競輪場より