インタビュー

「挑戦」楠木孝志郎 熊本 96期 S級2班
デビュー4年半にしてようやく手にした初のS級
 今期からS級に昇格した楠木孝志郎(熊本)は希望より不安を抱えての船出だった。「3、4年苦労してきたのでボロボロになるのではないか。S級という強いところでどうなるのだろう」。同期には押しも押されもせぬスター・深谷知広(愛知)がいて、深谷に引っ張られるかのように今期はS級1班に松谷秀幸(神奈川)、磯田旭(栃木)、山形一気(徳島)の3選手が在籍。2班にも東龍之介(神奈川)、西村光太(三重)、雨谷一樹(栃木)、守澤太志(秋田)と「深谷世代」は順調な出世街道を歩んでいる。彼らの大半が豊富な自転車歴を有しているエリートだが、楠木は前身がビーチバレーで引退後は中学校で教師をしていたこともある。当時のトレーナーの勧めがなければ縁のない競輪界。もちろん自転車歴も浅い。デビュー4年半にしてようやく手にしたS級。年齢も30歳になり失敗を恐れず突っ走っていく若さはさすがに…。だからこそ心が大きく揺れるのは当然だ。

楠木孝志郎 熊本・96期
 不安を解消するため練習に没頭した。昨年は11月終了の時点で2期連続のS級点を獲得し、S級対策に着手した。いつもの練習に加えて、主流の大ギアに対応できるようにパワーマックスで体をいじめ抜いた。そして、万全のコンディションで初戦に備えた。
 S級デビュー戦は正月シリーズの一宮。そこで楠木は大仕事をやってのけた。久木原洋(埼玉)の逃げを5番手からひと捲り。近藤龍徳(愛知)、小原太樹(神奈川)、石毛克幸(千葉)らを振り切って、3連単6万円超の〝お年玉〟をファンに提供した。この瞬間、これまでの葛藤はすべて杞憂に終わった。S級でやっていける自信を手にした。
 その後もまずまず?順調で3月前半の小倉までS級5場所を消化して5勝、2着1回は立派な数字。手探りの状況のなか善戦しているといえよう。「1着が取れているし、うまく走れているのかなと思います」。これまでのS級シリーズではなかなか味わえないことも経験した。2月奈良で待望の記念参戦。「4日間は長かったけど、みんなが考え方からアスリートで楽しかった」と話すように超一流レーサーを間近でそれにオン、オフ両方の時間を共有できたことが非常にいい財産になった。
 2014年の前期は中盤戦に突入した。直近4カ月の競走得点はA級の持ち越し分がなくなり自然と上がってくるはず。周囲の見る目が違い、ライバルの警戒心は強まってこよう。さらに、S級残留には2月四日市の失格分が足かせになってくるだろうが、点数を持っていることでこれまでよりも番組面の優遇も期待でき、何よりも後ろにつく選手がひとり増える可能性が大きい。こうなれば、結果優先よりも、内容も加味した戦法の幅が広がる。
「今は捲りばかりになっているので、これからは先行も含めていろいろやっていきたい。一戦一戦を集中していくだけです」
 自信を取り戻し、挑戦が始まったばかりの楠木からしばらくは目が離せそうにない。


小倉競輪場より