インタビュー

吉田敏洋 愛知85期S級1班
深谷と同じ場所に立っていたいんです
 そうそうたるメンバーがそろった小田原記念。武田豊樹、平原康多、村上博幸の復帰組にSS班の浅井康太、高松宮記念杯チャンピオンの稲川翔。これだけ豪華メンバーはなかなかお目にかかれない。彼らに負けじと意気込んでいたのが吉田だ。初日特選のメンバーを見た瞬間、表情が一変した。口も滑らかに雑談に応じていたのだが、武田と平原と一緒なのだから表情が険しくなっても不思議じゃない。「最初から2人が一緒なんだ。まあ、僕は自分のできることをするだけだから」。一つ言っておこう。表情が険しくなったのは、相手が強いからじゃない。気持ちを全面に押し出して走る吉田にとって、闘争心をかき立てられたからだ。

吉田 敏洋(愛知 85期)
 その特選。しっかりと魅せてくれたし、ファンを唸らせた。何と赤板から先頭に立つとそのまま先行。4番手の平原にまくられ6着も「言ったでしょ、できることをするって。それが先行だったんです」。初日から体に刺激を入れた2日目。3・3バンクで最終バック7番手は絶体絶命の位置。それが踏み出すと加速し、最後はきっちり1着でゴールを駆け抜けた。「奇跡でしょ奇跡。小田原であそこから届くんだから」と取り囲んだ報道陣の前で、ポンポンと威勢のいい言葉が繰り出された。確かに強さは尋常じゃなかった。しかし「皆が思うほど脚を使っていなかったから楽だった。余裕じゃないけどね」。平原相手に先行したことが、二次予選で結果として表れた。Vへの期待がかかったが準決は新田祐にまくられ、根田空―林雄を必死に追走したが4着。うなだれて検車場に引き揚げてきた。「調子は本当に良かったから悔しくて仕方ない」と声を振り絞った。
 昨年のGI「オールスター」で決勝に進出し、タイトルが現実味を帯びてきた今年。以前はただがむしゃらに戦うだけだったが、「色々考えて走るようになった。でもあまり深く考えたらダメ。そうですね、ブルース・リー主演の映画「死亡遊戯」の中のブルース・リーの台詞『考えるな、感じろ』。これだと思うんですよね。まるっきり考えないのはどうかとおもうけど、最後は本能というのか、感じないと」。そう思った時から精神的にも成長できた。そして何より深谷知広の存在が刺激になっていると言う。「深谷は僕の10コ下なんですよ。今後必ず彼の時代がくるでしょう。その時、僕自身も深谷と同じ場所に立っていたいんです」。
 その気持ちがバック本数に表れている。「そうなんですよ、最終バックを先頭で通過した証しが2桁あるんです。自力型の勲章かもしれないですね(笑)」。一昔前、プロスポーツ選手のピークは26~7歳と言われていた。しかし最近は40代でもトップに君臨、タイトルを取っている現実がある。今の吉田はまさに「充実期」を迎えていると言っても過言ではないだろう。「基礎的な体力は落ちていると思う。それをいかに少なくするかですね」と向上心は旺盛、いや競輪界1番かもしれない。準決で涙を飲んだ今回の記念だが、要所要所に吉田の強さを感じられたし、期待を抱かせた4日間だった。


小田原競輪場より