インタビュー

中本 匠栄 熊本 97期 S級2班
「火の国のスター候補、再び立つ」
 9月の青森記念で落車、頸椎損傷の大ケガを負った中本が、広島記念で2か月半ぶりに実戦復帰した。競輪場に現れたその顔には、まだ大きな絆創膏が何枚も貼られていたが、レースで久々の不安を感じさせることはなかった。復帰初戦の一次予選4Rは単騎の競走だったが、ホームカマシの西村光太(三重)ラインに乗り、最終バック4番手からまくり追い込みで1着。二次予選は最終ホーム7番手からロングまくりで3着に食い込み、初めて記念の準決勝へ駒を進める。本人は「たまたまですよ。練習の感じからすれば、思ったよりもいい着が取れていますね」と驚く様子もなく淡々と振り返ったが、周囲はそのタフネスに驚嘆するばかりだった。

中本匠栄 熊本 97期
 落車した青森が記念初参戦。その時も一次予選は1着で通過と、大舞台での勝負強さをアピール。だが、悪夢のような事故は二次予選で起きた。打鐘で山田久徳(京都)の内で粘り、番手争いがもつれて最終ホーム過ぎで落車。自転車が跳ねてコントロールを失い、受け身を取る間もなくバンクに叩き付けられた。「顔から突っ込んで、すぐに手足のしびれを感じましたね。そのまま青森で2週間入院して、歩けるようになってから退院。首を固定していたので、(トレーニングは)首を動かすところから。リハビリ中は理学療法士さんに体のバランスをみてもらって。しびれが取れてからは大丈夫です。今回も2週間は練習できました」。選手生命を脅かしかねない危険な瞬間を、紙一重でくぐり抜けて早期の復帰にこぎ着けた。

 準決勝12Rは武田豊樹(茨城)を相手に、吉本卓仁(福岡)―中村雅仁(熊本)を連れて果敢に先行し、見せ場を作ったが9着。最終日の特選7Rも結果は5着だったが、荒井崇博(佐賀)に前を任されるなど、九州の上位陣の信頼を勝ち取ったことは、今開催での大きな収穫だろう。それでも本人は「全然ダメですね。(力が)まだ足りていない。それが分かっただけでもよかった。思えば青森の時も、そんなに調子はよくなかったんです。もっと練習しないと」と悔しさをにじませながら、さらなるパワーアップを誓った。

 アクシデントによる足踏みはあったが、まだS級は1期目。「流れに応じて何でもやるのが、自分の今のスタイル。落車するのは仕方ないですよ」と動じることはない。「同県の松岡貴久さんの戦い方が理想。まだ記念も2回しか走っていないし、もっと力を付けていきたい」。くじけず突き進めば、いずれグレードレースが主戦場になる。不屈の闘志と向上心を備えた中本の名前を、覚えておいて損はない。


広島競輪場より