インタビュー

大塚英伸 静岡 82期 A級1班
もう聞きたくない言葉は「優しさ」だ。
 大塚の走りを見ていると、言葉は悪いがイライラしてしまう。何でもっと早く仕掛けなかったのかとか、切り替えるべきだろう、3番手なんて回るんじゃないと何度思ったことだろう。そう思うのは彼に力があるから。実力は誰もが認めるところ。問題はハート。優しすぎる性格のため、それが勝負どころで出てしまう。「それはずっと言われ続けています。自分でももっとシビアにいかないといけないのは分かっているんですが」。

大塚英伸 静岡 82期
 S級最終戦の6月高知で初日と最終日に白星を挙げた。「実はS級ではこの2勝だけなんです」。降級初戦の小田原、続く伊東は決勝に進出したものの6、7着。3、4場所目の青森、武雄に至っては準決で敗退。決勝戦は最低限のこと。それさえできなくなり、大塚は悩んだ。「練習は普段通りしているのに結果がついてこない」。平塚開催前検日の25日にパワースポットと言われる静岡・山宮の「浅間神社」に立ち寄った。あいにくの雨、それでもご神体の「富士山」を眺め今の自分に活を入れた。「ちょうど5年くらい前ですかね、佐藤明さんにここを教えてもらったんです。S級に上がって今より勢いがあるときでした」。そんなこともあり、今回足を運んだ。藁にもすがりたい、そんな気持ちだった。
 迎えた特選は同県の二藤が不発で6着。勝負がかかった準決は二藤に加え徹底先行で売り出し中の佐野もいて強力な静岡ラインを形成した。が、佐野が仕掛けられない。番手の二藤はまだしも、大塚は切り替えるタイミングはあった。それなのに二藤の後ろで5着。レース終了後に「切り替えるべきでした。そこが僕の甘さなんですね。走っているときは切り替えるとか思わなくても、冷静に振り返れば…」。ある選手が「それぞれの役割はある。先行選手、番手の選手。それぞれの役割を果たしていればいいが、それができないのは力量が不足しているから」。先行選手が逃げられなかったら、それは役割を果たせていない。今回の大塚は番手ではなく3番手だったのだから、自由にして良かったはず。結果的に優しさが出て決勝進出を逃してしまった。だが最終日は自らまくって1着。やっと勝利に固執したレースを見せた。確かに追い込みだがまだまだ自力で戦える力は兼ね備えている。最終日のようなレースをすればS級でも十分通用するし、見ているほうもストレスにはならない。
 S級の時は負けても「悔いはないというか、力を出し切れていた。でもA級だとあそこはああすれば良かったとか悔いが残ることばかり」。言い換えればS級の時はポジティブに反省できたが、A級はネガティブな反省。力を出し切れていないことが多いと言う。アマチュアと一緒に練習して刺激をもらったり、プロとして必要なDVDを開催中も持ち込んで観ている。向上心は間違いなくある。「次にS級に戻ったらA級には2度と落ちたくない。そのためには技術的なこともそうだけど、もっと自分に厳しくシビアにいきたい」。もう聞きたくない言葉は「優しさ」。力的にはA級でなくS級。シビアに貪欲に勝負に徹することができれば、まだまだ上のステージで活躍できる。


平塚競輪場より