上野真吾 神奈川 93期
復帰2場所目の福井FIでは、初日にまたも落車。今度は右肋骨を骨折した。5月の松阪記念で復帰。「松戸で復帰した時にはギア規制が始まっていて、あまり感触はよくなかった。手応えがあったのはこの松阪(3842着)からでした」。本人が語るように、そこから武雄、立川、千葉と3場所連続で初日予選を1着突破。ケガの影響は消えた―誰もがそう思った。ところが、特選スタートに復帰した7月以降、上野は自分の体に違和感を覚える。「バランスがおかしくなって…。ガタガタで元に戻らないんです。状態はデビューしてから一番悪い」。何とか走り続けていたが、8月の和歌山FI最終日にまた落車。精神的なダメージも決して軽いものではなかった。
大ケガを経験すれば「次は…」の恐怖が否応なく襲う。闘争心は薄れ、"安全走行"を余儀なくされるのも理解できる。だが上野は攻める。どん底だからこそ攻めるのだ。「ケガには負けたくないし、成績をケガのせいにはしたくないんです。本当は休みたい気持ちもあるけど、それではS級から落ちてしまう」。10月の小松島FIは3日間、ラインの先頭で戦った。準決勝は同県の先輩・白戸淳太郎とのタッグ。打鐘でインを切るが、すかさず及川裕奨(岩手)―伏見俊昭(福島)―阿部英光(宮城)が叩き返す。すると上野は3番手の内で引かず、最終ホームではさらに伏見の内まで追い上げたのだ。
結果的には阿竹智史(徳島)のまくりが決まって上野は9着。切り替えた白戸は3着で決勝に進んだのだから、最低限の仕事はできたのかも知れない。「今の状態で真っ向勝負じゃダメなのかな。でも、自力だけにこだわっていたらS級から落ちてしまう。S級で戦っているからこそ、モチベーションが保てる」。落車のリスクが伴うのは承知の上で、泥臭く走り続ける。競輪学校在籍中にはゴールデンキャップも獲得したエリートが、なりふり構わずもがいているのだ。
先日終了した千葉記念の初日、上野はまた内から番手を狙って潜り込み、落車の憂き目に遭った。完全復活の道のりはまだまだ険しいが「これが自分の仕事なんで。頑張らないことには、自分が納得できないじゃないですか」と、小松島でのレースを終えた後に語った言葉を思い出す。試練を乗り越えて輝きを取り戻す日を、ファンも待っている。