インタビュー

高橋千秋 福岡 106期 A級2班
力を出し切る勇気こそ力
 勝負事は勝つに越したことはない。勝者は多くの場合1人だけで、ほとんどが敗者になる。だが競輪という競技は、その負け方も問われるから厳しい。11月27日からの松山競輪で行われたガールズケイリン。予選1を走り終えた高橋は、悔し涙を流していた。
 ガールズNO1の先行選手・奥井迪(東京)が打鐘で先頭に立つと、その後位を巡って2番手以下は並走に。最後方まで引いた高橋は、ついに動けず7着でゴール。「脚の感じは悪くないんです。練習もしてきたのに、力を出せなくて…」と声を詰まらせた。身長176センチの恵まれた体格を生かし、大学までは陸上競技の投てき種目で何度も全国大会で入賞したアスリート。競輪に転向してからも、すぐにパワフルな走りで注目を浴びる。一時は競走得点も50点を超えていたが、直近は44点台と低迷。もっとやれるはず―の思いとは裏腹に、体が勝負を避けていた。

高橋千秋 福岡 106期
 1月2日の伊東、2日目。落車した選手に前輪を払われ、前へ数メートル飛んだ。左肩からバンクに叩き付けられ、すぐに救急搬送。診断結果は「左肩鎖関節開放脱臼」。直前の向日町で決勝に進み、意気込んで臨んだ今年初戦で、大きなケガを負ってしまった。「いける、と思った矢先のことだったので…。かなり飛んだし、両親や師匠(藤田剣次)も心配して、すぐに競輪場に電話を掛けてきたそうです。すぐに手術したけど、退院は5月。打撲がひどくて、歩けなかった」。練習を再開した当初は、人工靱帯を入れた左肩がすぐに熱を持ってしまい、1本しかモガけなかった。ようやく満足いく練習ができるようになった今回だからこそ、自分の走りが許せなかった。
 ガールズ最強と称される小林優香とは同門同期。ともに他競技から自転車に取り組んだが、みるみる差を付けられた。「一緒に練習していても、タイムも全然違う。陸上時代の自分の"逆バージョン"を食らった感じでした」。豊かな素質で常にトップで戦ってきた高橋にとって、それは初めて味わう小さな挫折だったのかもしれない。それでも必死に食らい付いて、デビューから4場所連続で決勝に進むなど、順調に選手生活をスタートさせた。
 前日の涙から、気持ちを切り替えて臨んだ予選2。コメント通りの自力勝負に打って出る。打鐘ではカマシ気味に先頭に立った。結果は初日と同じ7着でも、この敗戦から得るものはあったはず。「最近はダッシュも付いてきたので、自分が思った以上にかかっていた感じでした」。一般戦に回った最終日も7着。2日目と同様に打鐘から仕掛けて、山本奈知(千葉)と先行争いを演じ、見せ場は作った。
 改めて思う。競輪という競技は、負けても負け方に意味を持たせることができるのだと。「加瀬(加奈子)さんを差して初勝利(14年6月=弥彦)を挙げたときは、涙が出るほどうれしかった。絶対にはい上がります!」。高橋はもう恐れない。アクシデントを乗り越え、ポテンシャルが開花する日はそう遠くないはずだ。


松山競輪場より