インタビュー

中井達郎 静岡 74期 A級1班
マーク屋が悲鳴をあげたあの捲り、もう一度見て見たい。
 検車場にいて違和感を覚えてしまった。何のことかと言えば、中井達郎がA級を走っていることだ。「もう1年ですねA級は。でも必ずS級に戻りますから」。現時点での競走得点は87点台。初日は予選。酒井大樹のまくりに乗って余裕の追い込み。一切の力が入らずスムーズに自転車も出ていた。「余裕はありました」と1着にご満悦。準決は渡辺福太郎―植木和広の地元勢の3番手回り。渡辺が早めに踏みだし植木が自力で出ることも予想された。しかし、いったん先行態勢に入った渡辺は流し、あっという間に佐々木孝司に行かれてしまう始末。植木も内に詰まり中井も踏むところなし。消化不良で8着大敗を喫してしまった。悔しさを押し殺して臨んだ最終日。同県の後輩・田中誇士がまくり、直線追い込みシリーズ2勝目。準決の敗退が悔やまれる開催になってしまった。

中井達郎 74期 静岡
 どうして中井がA級を走っているのか。遡ること6年。当時S級で活躍していた。GIオールスターで落車。背骨の圧迫骨折という重傷を負った。「あれからですかね、体が重いと感じるようになったのは」。それでもS級で踏ん張っていたが2013年の向日町記念初日特選で落車。鎖骨、肋骨6本、肩甲骨、肺挫傷のアクシデント。「復帰できるのか不安があるくらいの怪我でした」。そこから体のバランスが崩れ、成績も急降下してしまった。どん底。走れど走れど成績は上がらない。体が言うことをきいてくれない。
 昨年7月、14年ぶりのA級。怪我があったとはいえ、中井の力を考えれば特進、ひと場所でS級復帰は当たり前だろうと思っていた。「そんなに甘くなかったです。正直、A級を甘く見ていた」。加えて毎日、体の調子が違う。「朝起きてちょっと重いとかが頻繁なんです。今回も初日はすごく良かったのに2日目は体が言うことをきいてくれなかった。決して負け惜しみではありませんから」と苦しい胸の内を明かした。
 だが決して諦めたわけではない。「最近はまくりも決まっているし、徐々に状態は上向いてきています。ただ、点数的にどうしてもラインの3番手を回らなければいけない時とかがあって。でもこの7月から性根をすえていきます。来年7月のS級復帰をかけて貪欲に勝ちにいきたい」。S級トップクラスのマーク屋が、中井のダッシュに付いていけなかったレースを何十回見たことだろう。マーク屋が悲鳴をあげたあの捲り、もう一度見て見たい。


川崎競輪場より