インタビュー

黒木誠一 兵庫 60期 S級2班
魅せろ!50代の穴男
 いつもの万年青年ぶりは変わらない。ユーモアを交えながらひょうひょうと話す姿も同じ。そしてレーススタイルも変わらなかった。ライン戦でも単騎の戦いでもレースの流れに乗ってあわてず、騒がず、運ぶ。勝負時がくれば、華麗なフォームから一気にタテ足を繰り出し波乱を演出する。稀代の穴男はそれでも50歳になった。デビューから30年がたっていた。

黒木誠一 兵庫 60期
 冬の寒さも春の訪れも交錯する18年3月15日からの高松FI。黒木は、5、4、6着と連に絡むことはなかった。それでも「まだまだこれからですよ。今は万全ではない体を直してからやね」と軽く笑い飛ばした。18年前期で50歳を越えてS級に在籍するのはわずか14人となった。西川親幸が、1月22日に52歳4カ月のS級最年長Vを達成したが、ごまかしが利かない過酷なプロスポーツで50代の奮闘が厳しいのは間違いない。それでも軽やかにバンクを駆け抜ける黒木の姿をみるとまたやってくれると穴党は信じている。前節の京王閣FI2日目では後輩の角令央奈の番手からまくり追い込んでS級復帰後初の1着で3連単20万円超えの大穴を演出した。「久々にファンは喜んでくれたんじゃないかな」とレースを振り返り、満面の笑みを浮かべた。
 昨年5月の玉野FIでは新鋭・野原雅也の番手を利してS級久々の優勝を完全Vで飾った。49歳の快挙だった。そこから地獄に堕ちた。直後にヘルニアを発症して、成績が急降下した。趣味のゴルフで症状に気付いたのはほかにもスキー、スノボー、ラジコンと全力で遊んできた黒木らしい。「レースの流れに付いていくことができなくなった。さすがに引退も頭によぎりました」と今も体をごまかしての競走は続く。
 「整骨院を開業できる資格も持ってるし、いつでも辞めてしまうのは簡単なんですよ。でもね、壁にぶち当たったり、ケガで苦しんですぐに辞めることを考える後輩たちに、こんな男もいるってところ見せたいですよ」と笑う顔は〝永遠の少年〟のままだった。
 30代後半から「今までやってた趣味以上に競輪が一番面白くなった」と本腰を入れてS級に定着した遅咲きの花はまだ枯れない。またとびっきり美しいフォームでゴールを1着で駆け抜ける姿を熱望するファンのためにも―。


高松競輪場より