インタビュー

中村健志 熊本 96期 S級2班
ようやくたどり着いたS級の舞台

中村健志 熊本 96期
 中村雅仁(90期)の弟で、学生時代から自転車競技で活躍してきた"センスマン"は、2009年の7月にデビューすると1年でチャレンジを卒業。さらに昇班後1年でA級1班に昇格と順調にステップアップしてきた。実戦向きの性格とヨコの動きも苦にしないレーススタイルからも、すぐにS級へ上がって活躍すると誰もが思っていたが…。なんとその後、6年半もA級暮らしが続いてしまった。その間には、6期連続で失格をするなど"競走得点以外の問題"でS級点が取れず、「正直、何度も気持ちが切れそうになった」と振り返る。戦法を追い込みに変えたことで「番手で仕事をしないと、前で頑張ってくれる先行選手に申し訳ない。でも、あまり暴れると(相手を落車させて)失格してしまうし…。色々と考えることがあって難しかったですね」と当時は葛藤があったようだ。
 それでも気を入れ直すと2017年の前期に初めてS級点を確保。そして今期、初めてS級の舞台に戦いの場を移した。
 昇級初戦の静岡FI、次の松山FIと2場所連続で予選を突破。そして続く松阪記念の3日目に、ラインの3番手から直線で突き抜けて念願だったS級初勝利を挙げた。展開のアヤもあり大きい着も目に付くが、ここまではおおむねS級でも十分に通用することを証明している。ひとつ勝ったことで「気持ちもだいぶ楽になった」と言い、「思ったより戦えているし、なによりもS級は楽しい。周りのレベルも高いので、今は必死に食らいついていますよ」と声を弾ませる。「スピードをもらう展開が得意」という中村にとっては、A級の流れよりも、出入りの激しいS級戦のペースの方が合っているのかもしれない。
 今年の2月には、地元の熊本競輪場が2020年の秋に再開することが明らかになった。熊本の選手をはじめ関係者全員にとって嬉しいニュースであるが、震災直後に率先してボランティア活動を行ってきた中村の喜びはひとしおだろう。「先に始めていた(服部)克久さんに触発されて、自分も参加した」というボランティア活動では、地域の方や他県からボランティアで来ていた方、物資を届けてくれる人たちなどと多く触れ合い、感謝の気持ちを持ちながら復興を目指してきた。
 だからこそ「熊本記念を走りたい」という思いは誰よりも強く、その言葉にも重みがある。「そのためにはまずS級にいないと。A級だと、また失格してしまう恐れがある(笑)。来期はたぶんA級なので、今期はなんとしてもS級点を取りたい。半年でS級に帰ってきて、そのままS級にずっといられるように頑張ります」。まだ今期は半分以上残っている。鋭いタテ脚を秘めているだけに、巻き返すことは十分可能なはずだ。明確な目標を持っている中村が、地元への想いを力に変えてS級点を掴み取りにいく。