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直送!競輪場便り
岩谷拓磨 福岡 115期 A級2班
FI先行の久々の弟子
他の選手が止まっているかのような圧倒的なスピードで数々のタイトルを奪取した。まるで、ターボエンジンを積んでいるかのようなレースぶりを称賛され〝FI〟先行と言われたレジェンドが心血を注いで送り出す久々の弟子が2019年7月にデビュー。じりじりと力を付けていると聞いてワクワクしない競輪ファンはいない。
 新型コロナウイルス感染拡大を受けて政府から最初の緊急事態宣言が出された2020年4月7日の昼に、武雄の検車場に、あの吉岡稔真と同じメーカーのフレームを持って現れた。デビューからチャレンジ卒業までは吉岡が現役時代に使っていた物を譲り受けて使っていたという話はファンにはたまらない。
 近況は9戦8勝とS級の特別昇級も近づき表情も自信にあふれていた。「早くS級に上がって自分の力がどこまで通用するか試したいですね」と話す姿は初々しい。危ぶまれたが次の日のミッドナイト開催は無事に行われた。
 初日、2日目と早めの仕掛けから押し切る姿は好調さを裏付けた。特に準決のホーム手前から一気にカマして圧倒した先行は、他のライバルから警戒された。決勝では前受けから後方に下げさせられると、ずっとマークされ、ホーム過ぎまで出られない。中団にいて九州別線で戦った地元の山口敦也に仕掛けを合わされ優勝をさらわれた。
 「流れに乗れなかった自分が悪い」と悔しさをにじませた。
 師匠との出会いは故郷富山だった。高校卒業時に一度競輪学校(現:日本競輪選手養成所)の受験に失敗して、地元で就職したが諦めきれずにいたところを父のつながりで知った師匠に「本気でやりたいなら福岡に来てみないか」と誘われ単身渡った。
 厳しい指導を受けて115期で合格した。練習は街道練習が中心。午前中は、かつて師匠が血ヘドを吐くほど、もがいて強くなった伝説の平尾台の坂を駆け上がる。「きついですよ。でも坂をもがくことでフォームが、がっちり安定してレースで全然ぶれなくなったんですよ」と効果はてきめんだった。
 夢は師匠と同じS級で活躍すること。でも、まずは練習グループの園田匠、小川勇介ら不動會の兄弟子たちの前で駆けることだ。師匠の全盛期の走りは、ユーチューブでしか見たことはない。
 でも、その走りは心に刻まれている。「現役では体形が似ている太田竜馬さんに憧れています。自分のタイミングで行けるところから行って圧倒する。そんな強い先行選手になりたい」。そのイメージの究極のお手本は、まさにFI先行その人だ。


武雄競輪場より
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