インタビュー

 今回の闘将列伝は、三重の重鎮・萩原操選手の登場です。今年で51歳となった大ベテランですが、今なおS級1班に在籍しているだけではなく、7月には地元・松阪FIでS級最年長優勝を達成しました。個性派レーサーとしても、ファンの支持を集める萩原選手。これからも数々の記録を更新していくことは間違いなく、まだまだ上位戦で好配当を演出してくれそうです。
「地元優勝は、夢のようで信じられませんでした」
-まずは7月の地元・松阪FIでの優勝おめでとうございます。
「A級B級、記念は松阪で優勝したことがありましたが、準記念(FI)という僕がメインで走っているところでは、30年間地元で1度も優勝したことがなかったんですよ。一度でいいから獲ってみたいなとずっと思っていて、決勝にも何度も乗らせてもらったんですけど、若いときはどうしても先頭で頑張ったし、中盤では中部地区に良い先行選手が出てきてなかなか勝てなくなって、さらに40代になると脚力も衰えてきた部分もあって…。無理かなと思っていたときに、今回展開に恵まれて優勝することができました。現実になったことが夢のようだし、日頃からコツコツやってきたからかなと実感しましたね」
-決勝では目標にした伊藤裕貴選手が積極的なレースを見せてくれました。
「後ろも吉村(和之)君が、点数も脚力も上なのに固めてくれて、心強かったというのは確かです。伊藤君が先行してくれて、僕もできるだけ牽制して、吉村君が後ろを固める、個々の与えられた仕事をしっかりした、その結果だと思います」
-ゴールの瞬間はいかがでしたか?
「もう信じられなかったです。ゴールして1周回ってきたら、お客さんが『良かったな』と言ってくれて、その声で初めて優勝したんだなと分かりました。優勝したかどうか分からなかったなんて、30年も選手をやってきて、あまりなかったことです。情けない話ですが(笑)、それくらい思い込みがあったという感じですね」
-51歳でのS級優勝は、S級最年長優勝記録(今までは伊藤公人選手の49歳8カ月)を更新、さらに50歳台初のS級優勝にもなりました。
「その前の伊藤さんなんて、ずっと上で頑張っていらっしゃった方で、今でも走っていて、ずっと尊敬していました。(記録更新は)嬉しいなとは思っています。若い頃から、上の世代の人が頑張っていると、その人を見て手本にして頑張ってきたので、自分もそういう立場になってきたんだなとも思いますし、これからもきちんとしないといけないなと思います」
「昨日よりも今日、弱くならないように頑張るだけ」
-今年で51歳、キャリアも30年(83年9月デビュー)を突破した今なおバリバリS級で活躍されていますが、その秘訣は?
「ずっと目標を持って、後輩の指導もして、自分も刺激を受けて一緒に成長してきたことですね。気を抜くことなく、毎日しっかりと計画的に練習して、特別なことはあまり考えず、自分がしないといけないことをやろうとしているだけ。それ以上のことはできないですから。後輩の指導でも、自分を信頼して付いてくれるのだから、もっと強くしたいと思うし、自分も負けないように、練習でちょっとでも長く苦しめてやろうとか(笑)、そういう気持ちでやってきました。そうした負けず嫌いがここまできているのかなと思います。僕は超一流ではないし、特別競輪を優勝してもいないし、中途半端なところで真っ直ぐきていることは自分でも分かっています。でもコツコツやって、こうして結果を出せました。自転車に乗って、昨日よりも今日、弱くならないようにする。今はそれしか考えていないですね」
-改めて今、この30年を振り返ると?
「自分でもデビューしたときには想像もしていませんでした。35歳くらいまでS級にいようという目標は立てていたので、40歳くらいで選手を辞めているんじゃないかなと思っていたくらいで(笑)。僕らがデビューしたときには50歳の人に負けることなんかないだろと思っていましたが、今は逆に自分がその立場になってきました。自分で積み上げてここまで来たので、周りの若い子は『すごいですね』と言ってくれるんですが、『お前らが50歳になったら本当の凄さが分かるぞ』と冗談で言ったりしています。51歳になったときに『あの人は本当に凄かったんだな』と言ってくれと(笑)。
あと、高橋健二(愛知・30期・引退)さんも50歳まで選手をやっていたので、僕もそこまで頑張ろうと思っていたら、越えてしまいました(笑)。健二さんに『頑張っているな』と言われたときは嬉しかったですね」
「『好配当を取らせてもらった』と言ってもらえることは嬉しいです」
-あと、萩原選手と言えば「好配当メーカー」としてもファンから親しまれていますよね。
「そうですね。それはどこに行っても言われるんです(笑)。タクシーに乗っても言われるので、嬉しい話ですよ。僕の走るレースを楽しんで見てくれているということですから。その期待に応えようとして、張り切り過ぎたときもあったんですけど、今はみんなが大ギアでなかなか一発まくりは難しくなりましたが、直線の追い込みでまだまだやってやろうという気持ちが自分の中にはあります。1着を取るイメージができなくなってきつつありますが、競輪は走っている以上、何があるか分からないので、イメージをしっかりして走っていこうと思っています。『好配当を取らせてもらった』と言ってもらえることは嬉しいですからね」
-そして、これからも走れば走るほど、記録の更新に期待がかかります。
「S級に連続30年ずっといるのも記録みたいだし、S級1班にいるのも記録みたいですからね。でも、僕の後ろには鈴木誠も控えているし、西川(親幸)もS1で活躍しています。僕がやっていれば、あいつらも辞める気をなくして、もっとやってくれるんじゃないかなと。『まだまだ操さんが頑張っているから』と思ってくれたら嬉しいですし、1日1日をこれからも積み重ねていきたいです」
-ある意味、これからは誰も踏み入れたことのない領域ですからね。
「そうなんですよ。今は自分自身に挑戦しているだけ。それは自分でも走ってみないと分からないこと。今の競輪はスピードも上がってきたし、いろんなことに対応しないといけないので、そこにも挑戦して、日々努力していくだけです。半年後、1年後は何しているかも分からない、想像もつかないので、1日1日、今日と明日を頑張る、それだけでやっています。それを後輩たちが見て、追っかけてくれたらなと思います」
-最後にファンにメッセージをお願いします。
「一戦一戦、今はその時の競走だけを思って走っています。その一戦で力を出し切ることだけです。悪いときの方が多いですが、その中でも10回に1回、100回に1回良いときがあったら、褒めてもらいたいと思います(笑)。どこに行っても最近はすごい声援で、本当に嬉しいです。こういう選手がいて競輪界で頑張れる、こんな良い職業はない、そう思ってもらえるような力に僕もなれたら良いなと思いますね」