今回の闘将列伝は、新潟の諸橋愛選手を特集します。シャープな差し脚と決して諦めない走りはファンからの信頼も厚く、S級戦線で常に存在感を見せています。デビューから17年を経過してベテランの領域に入ってきた今、改めてここまでの輪跡と定めている今後の照準についてお聞きしました。
自分の根底にあるのは「諦めない気持ち」です。
-はじめに、選手を目指した経緯から教えてください。
「小さいころから競輪場に連れていかれていまして、まず兄が自転車部に入ったので、自分も続いて入って、そのまま好きになりました」
-子どものころ感じた、競輪の魅力とは何だったのですか?
「昔から外で遊ぶことが好きでしたが、バンクを上から見たときのすごい傾斜、そこが衝撃で面白さを感じました。競輪というよりは自転車に乗ることの楽しさがありましたね。やっぱりスピード感があるし、風を切っている感じが好きなんです。だから、もし競輪を辞めていたとしても、自転車には乗っていたという思いは自分の中にはありますね」
-競輪選手は「天職」ということですね。
「そうですね。楽しいことをやって、お金をもらえるのは最高だと思います。でも、好きだけではなく、やっぱり上手くならないとダメなので、これからも少しでも長く(選手生活が)出来ればいいかなと思っています」
-デビューは1997年4月でした。
「デビュー当時はS級を目標にやっていましたが、順風満帆な上がり方をしているとは思います。骨を折ったりとかいろいろとありましたけど、そういうのも含めても意外にスムーズに上がって来られたなという感覚はありました。あとは特別競輪に出られるかどうかという自分への挑戦が大きかったと思います。やっぱりこの世界にいる以上は、人よりも上にいたいというのは誰しもが思うことだし、実際、特別競輪に届くところまで来たし、あとはもう一歩先の努力と忍耐と運ですかね。そのときまで、どのくらいになるか分からないですが、挑戦し続けていこうかなと思います」
-プロ生活は17年目に入りました。ここまでを振り返ると?
「あっという間でしたね。今年に関しては特に短かったと思いますが、苦しいときは逆に長く感じたりもしました。6カ月で9回落車したときは、苦しかったし、精神的にもきつかったですね」
-そういったことを一つずつ、乗り越えてきたわけですね。
「そうですね。あれ(落車)があったから、ちょっとしたアクシデントでもへこたれなくなったし、精神力はだいぶついたと思います。選手として走らせてもらっている以上は、休んでばかりいるというのは自分の中で無いこと。基本的に(競輪が)好きなので、乗るのが大前提で、走れるならば走ると」
-思い出に残っているレースはありますか?
7月寬仁親王牌最終日8レース、
諸橋は3連勝で締めくくる。
「今年(2014年)の地元・弥彦でのレースが、一番印象的ですね。今年の弥彦は、ものすごい勝率と連対率で走っていますし、弥彦を走るときは大きな声援が力になるんです。20代のころの弥彦と今の弥彦では、間違いなく今の方が感じるところがあるし、FIでも寬仁親王牌でも心に残るレースだったと思います。今年は違いましたね」
-歳を重ねるごとに、お客さんの声援の受け止め方も変わってくるということですね。
「そうですね。20代のころは割と簡単に勝てたりするので、そう難しく感じませんでしたが、いろいろ苦しい思いもしてきましたので、それを含めた1着、優勝の重みを今は感じることができています。親王牌のときも初日以外は全部1着で、すごい大歓声だったので、あれは忘れられないですね。こういうことがあるから、また頑張れるんだと思いました」
-ファンの声援とともに、長らくS級1班で活躍されている秘訣は?
「自分の根底にあるのは『諦めない気持ち』です。競走に対しても、練習に対しても、その気持ちでやっているので、そこは他の人にも負けないところかなと。もちろん負けたくはないけど、負けても次がある、次のチャンスのために頑張ろうと思ってやっています。基本的に小さいころから負けず嫌いなんですよ(笑)。この歳になっても、勝った、負けたとやっていること自体が珍しいことだし、その感覚を楽しみつつ、諦めない気持ちを持ち続けてやっています。みんなにもよく言われるんですよ、『ケガに強いよね』と。でもケガをして痛くないわけではない。休みたいときもあるけど、今回(12月岸和田)の落車でも10針縫いましたが、2日後にはもう自転車に乗っていましたからね。骨が折れているわけではないですし、やれるならやろうと思っています」
最近は24時間では足りないくらい、やりたいことがたくさんあります
-関東を代表する追い込み型として活躍されていますが。
「いえいえ、まだまだです」
-追い込み型として、その戦法を極める難しさはありますか?
「好きこそものの上手なれと言いますが、好きだからこそ上を目指したし、そこに頂点を極める難しさがあります。自分でも試行錯誤しながらやっていますけど、何が正解かは分からないので日々勉強だなと思うし、うまくいけばまたステップアップできる楽しさもあります。今はきついけど、そういう感じですね。追い込みは、前次第という部分もありますが、先行選手が風を切ってくれる展開なら、先行選手を残しつつ確定板に載れればいいというのが仕事だと思いますし、自分の課題だと思います」
-かなり研究もされるのですか?
「家でもスピードチャンネルを録画して、子どもを寝かしつけた後に見ています。イメージトレーニングも大事だし、レース展開も毎回見ていればイメージがわくし、追い込みの上手なレースは何十回もスローにして見たりしていますね。そういうことも大事だと思います。チャンスが来たときのための脚作りも必要で、前が抜けなかったら準優勝で終わりですから。前を抜けるだけの脚はいつも作っていこうと思っています」
-今後の目標も教えてください。
「大きくいえば、頂点を獲りたいという思いがあるし、今の近い目標は特別競輪の特選シードに乗ること。それが結果的に一番優勝に近い位置にいられることだと思うので、まずそこを目指していこうかなと。優勝するために練習をしているし、そのための足場も作らないといけない。来年(2015年)はもっと点数を上げていこうと思います。勝つ確率を上げていくために、逆算して何が足りないか、何が必要かを考えています。レースまでの過程も大事だし、そこが少しずつ出来てきたのが最近なのかな。最近は1日24時間では足りないくらい、いろいろやったり考えたりしていて、趣味の部分で全然遊べないくらい(笑)、やりたいことがいっぱいあります」
-それも、充実しているからこその悩みですね。
「正直、ちょっと疲れますけどね(笑)。でも、どこまで持つのか分からないし、やれる時間もあまりないと思うので、1年1年が勝負。これからの1年は20代のころの1年とは違うと思いますからね」
-読者に今後の意気込みも含めてメッセージをお願いします。
「諦めない気持ちで、最後までどういう風に突っ込んでくるのか。そういう見方をしてくれれば僕もありがたいし、そういうレースを見せられればプロ選手として貢献できているかなと。もちろん結果が全てなので、良い着は当然狙っていきますけど、きつい展開でも諦めずに走る。それが自分のスタイルだし、そこは崩さず貫いていこうと思います」
-確かに諸橋選手のレースは、そういった気持ちが強く伝わってきます。
「記者の方にも『よくあんな狭いコースにいくね』とよく言われるんですよ。そういう諦めない気持ちが根底にあるからだし、そこが自分の魅力であり、武器だと思っています。同じレースの選手は嫌がっていますけどね(苦笑)。後ろから突っ込んでくるから『鉄砲橋』なんて、言われていますから(笑)。でも今後もそういったレースで、お客さんの期待に応えていけたらいいなと思っています」