インタビュー

11年7月にデビューした高久保雄介は、今年から初のS級入りを果たした。まだFI戦が中心ではあるが、好走を続けて決勝の常連になるまで成長を遂げている。9月にはオールスター競輪でビッグレース初出場も決まっている。貫き通してきた「先行勝負」で、どこまで登り詰めるか。挑戦は続いていく。
もっともっと強くなりたい気持ちが高まっています
 パワー駆けと呼ぶにふさわしい豪快なレースで、ここまでステージを着実にあげてきた。デビューからの戦歴については「あっという間で順調と言えば順調かもしれないですが、もっと上にいきたいという気持ちもありますので評価しにくいところですね」と振り返る。

 もちろん、一朝一夕で強くなってきたわけではない。競輪学校では、わずか3勝にとどまり在校順位は64位だった。軌道に乗るまでは、「辞めたい」と思うほどの辛い日々を経験してきた。
「適性で入ったんですけど、競輪学校に入ってすぐに『もう自転車を辞めたい』と思っていましたね。あまりに辛すぎて(笑)。周囲はタイムも出していたし、自分は自転車競技を全然知らない状態で入ったので練習にも付いていけない日々が続いていました。『やっていられないな…』という気持ちになりましたけど、僕にもずっと陸上(砲丸投げ)をやってきたプライドがありましたし、我慢して頑張りましたね」

 経験者としての差を埋めるにはどうしたらいいか。やることはひとつだった。
「自転車に乗る時間を増やそうと思って、毎日4時に起きて朝練習をしていました。あれでけっこう気持ちが鍛えられたかもしれないですね。自転車のキャリアで追いつくことはできないけど、乗る距離ならいつか追いつけると思っていたんです。師匠(松村順之・71期・引退)にも『どんどん自転車に乗れ』と言われていましたからね。ずっと一生懸命やってきました。そんなに格好良いものではないですけど(笑)、自分は挑戦するのが昔から好きなんですよ」

「挑戦すること」以上に「挑戦し続けること」は難しい。常に挑戦し続けてきた、これこそが高久保の原動力なのだろう。メキメキと力をつけて、今年1月から初のS級入りも果たした。またここで、考え方に変化があった。
「やっぱりS級は全然違いますね。S級選手はみんな脚がありますし、テクニックもあるので、勝つのが難しいです。でも、その中で戦って勝つことができればもちろん嬉しいし、A級でもいろいろ経験させてもらいましたが、S級では勝っても負けても、どんどん次の課題がでてきます。あれもせな、これもせなと。練習でも今までは、しんどいことだけを求めて何も考えずにやってきたんですけど、それでは勝てないと思ったし、もっともっと強くなりたい気持ちが高まっていっている感じが自分でもします。今はもう時間も体も足りないですよ」
静岡記念で初の決勝を経験するも
周囲の言葉に悔しさを感じた
 ターニングポイントとなった開催がある。それは2月の静岡記念。準決勝3着で、記念初の決勝に勝ち上がった。決勝で武田豊樹の圧倒的なスピードを肌で感じたことも大きな収穫だったが、「奮起」に繋がるこんなエピソードを明かす。
「決勝では今までスピードチャンネルで見ていた選手と一緒に走ることになって、緊張して舞い上がって、訳が分からないレースをしてしまいました(苦笑)。もちろん、それも良い経験になりましたけど、3日目が終わった後に、周囲に『ラッキーボーイ』と言われたんですよ。準決勝は落車もあって展開に恵まれて3着に入線したんですけど、周囲にそう言われたのが、すごく心の中で悔しかったんです。確かに言われたことに間違いはないんです。でも悔しくて、悔しくて『絶対に次は自力で乗ったるねん!』という気持ちになりました。あのあとから成績も上がっていったので、もしかしたらあの気持ちが大きかったのかもしれないですね」

 そして高久保と言えば、強気な先行勝負が代名詞となっている。ここまで貫き通してきた先行へのこだわりをこのように語る。
「『若手は先行しろ』、そういう言葉が競輪界にはあるじゃないですか。自分は何も知らない状態で自転車の世界に入ってきて、師匠にも『とりあえず先行しろ』と言われていましたし、ここまで自分でも『先行したら良いことある』と言い聞かせてきました。先行しているうちに、いろんなことが分かってきましたね。それに近畿の先輩たちを見ていても、先行でやってきたというのが近畿の色だと思うので、まずは先行でいけるところまでいきたいなという気持ちはあります。もちろん僕にとっては先行が一番強みを出せる戦法です。一番長い距離をもがくからしんどいですが、無駄に何も考えずに良いし、一番格好良いですからね。名前を売るには手っ取り早いと思っています」

 近況はFIが主戦場ながら、コンスタントに決勝に進出。直近4カ月(8月18日現在)の3連対率も71.4%と安定した成績を残す。そろそろ「S級初優勝」の声も聞こえてくるが…。
「まだまだ自分の中では、今の位置はたまたまという気持ちが強いです。勝たなくてはいけないときに勝てなかったり、取りこぼしてしまったり。今は予選で人気を背負うことになってきたのでファンの期待に応えなくてはあかんのに、危なかっしいレースをしてしまうし、前回(8月の前橋FI)も予選5着でしたからね…。そういうところがまだ一流ではないところだと思います。
 初優勝については最近、記者さんにもすごく言われるんですよね(笑)。ただ、僕はいつも色気を出すと失敗するタイプなんですよ(笑)。もちろん色気を出すのも必要だとは思いますが、まずは自分のやりたいレースをして、そこに優勝というご褒美が付いてきたらいいかなと」

 9月には初のビッグレースとなるオールスター競輪への出場が決まった。持ち前のチャレンジ精神で、どんな走りを見せてくれるのか。「高久保雄介」の名前を全国区に轟かすチャンスである。
「実は、レースが楽しみだと思ったことは一回もないんです(苦笑)。記録との勝負だった陸上とは違って、競輪は毎日が勝ち上がりだし、1レース9人で走るから、すごく緊張します。(勝ち上がりに)もれたらどうしようとか、先行できなかったらどうしようとか、常に不安ばっかりです。でも、来月のオールスター競輪に記者推薦で出場が決まったことは、すごく嬉しく思っています。やっぱり自分にはチャレンジャーの気持ちが向いているし、その方が力を発揮できるタイプだと思うので頑張りたいと思います」

 まだまだ荒削りな面は否めないが、その分、大きな伸びシロも感じさせる。貫いてきた先行の数だけ、振り返ったとき頑丈な階段が出来あがっている。ビッグレースを沸かし続ける近畿の先輩たちの輪に加わるためにも、今まで同様に一歩ずつ階段を上がっていく。
「最近は予選でも挑まれるレースが増えてきていますが、強い選手はみんな乗り越えてきたところだと思うので、ここで躓いているようではダメ。僕の持ち味は先行なので、これからもダイナミックな大きいレースで、ファンの皆さんを魅了できるように頑張りますので応援よろしくお願いします!」
高久保雄介 (たかくぼ・ゆうすけ)
1987年1月15日生まれ、27歳。身長180㎝、体重100kg。練習は「基本的にはひとりで考えてやって、たまに滋賀の選手と一緒に練習させていただいたり、先輩に連れられて他府県に出稽古にいったり。昔に比べて練習のバリエーションも増えたと思います」