自転車競技徹底解説~リオ五輪への道~
2013-14シーズンからUCIトラックワールドカップ、UCIトラック世界選手権への参加資格を得るための基準が変更されました。日本は、従来と異なるルールの中で、3年後のリオ五輪出場を成し遂げるために世界の舞台で戦える選手をいかに発掘・育成・強化していくのか、出場枠獲得に向けた戦略見直しの必要に迫られています。
リオ五輪出場を目指す競輪選手達の闘いは既に始まっています。今回の記事では、ワールドカップと世界選における参加基準改正の概要と、今度の展望について解説し、日本自転車競技連盟(JCF)副会長の中野浩一氏にお話を伺いました。
制度改正の概要
はじめに改正の要旨を簡単に説明すると、以下のようになります。
【ワールドカップ】
(旧)各国が自由にエントリー可能。
(新)種目ごとに個人単位で過去1年間のUCIポイントを集計。一定以上UCIポイントを獲得した競技者の中から、各種目のポイントランキング順に、種目ごとに定められたチーム参加枠の上限まで出場枠を得られる。出場枠は当該競技者が登録したナショナルチーム又はトレードチームが得ることとなり、誰を出場させるかは各チームの裁量となる。参加枠を獲得すればシーズン中のワールドカップ全戦に出場可能となる。
【世界選手権】
(旧)過去1年間に各選手が獲得したUCIポイント(ワールドカップ含む)を国ごとに集計し、出場枠を争う。
(新)ワールドカップへの全ラウンド参加、直近のアジア選手権への当該種目参加を条件として、種目ごとにワールドカップでの獲得ポイントを個人単位で集計し、各種目のポイントランキング順に、種目ごとに定められた国参加枠の上限まで世界選手権への出場枠を争う。
従来、ワールドカップについては、各国が種目ごとの参加枠上限の範囲内で自由にエントリーすることができましたが、今シーズンからは、個人単位でUCIポイントを集計し、選手が種目ごとの最低ポイントをクリアし、かつランキング上位に食い込めるかどうかが焦点となります。また、世界選手権への出場については、昨年までは過去1年間に獲得したUCIポイントを国単位で集計し、種目ごとに参加枠を争うものでしたが、今シーズンからはワールドカップへの出場を果たすことが第一条件となり、そこでの成績によって世界選手権への出場可否が決定されることとなります。
つまり、一段ずつ階段を登っていくが如く、アジア選手権や日本選手権でのポイント積み上げ⇒ワールドカップ出場⇒ワールドカップでのポイント獲得⇒世界選手権出場といった段階を踏んでいくことが要求されるのです。
【新基準図解】
ワールドカップ出場に向けて
それではまず、ワールドカップ出場までの道のりを辿ってみましょう。既に説明したように、世界選手権に出場するためには、まず当該シーズンのワールドカップの出場資格を得なければなりません。そのためには、シーズン初めのワールドカップ開催(今シーズン第1戦は11月1日からマンチェスターで開催される)の2ヶ月前までの1年間に行われるアジア選手権、クラス1、クラス2、クラス3、日本選手権に参加し、UCIポイントを獲得する必要があります(ワールドカップ・世界選手権のポイントは対象とはなりません)。
ただし、今シーズンは集計期間が異なり、9月10日までの1年間に獲得したUCIポイントが対象となります。
各大会のグレードによって、与えられるUCIポイント数は異なります。個人種目優勝者に与えられるポイントで見ていくとアジア選手権で120ポイント、クラス1で80ポイント、クラス2は60ポイント、クラス3で30ポイント、日本選手権30ポイントとなります。アジア選手権が一番高いポイントとなっています。
参加した全ての大会のUCIポイントがカウントされるのではなく、参加した大会のうち獲得ポイント成績上位5大会(スプリント、ケイリン)、獲得ポイント成績上位3大会(オムニアム他)の累計となります。例えばケイリンで集計期間中に7大会参加したとして、その中の獲得ポイント上位5大会が持ちポイントとなり、大会参加に伴うポイント獲得状況に応じて随時更新されていきます。
これらの大会に参加し、ポイントを積み上げていくことになりますが、種目によってワールドカップ参加資格獲得に要する最低ポイントは異なります。例えば、ケイリンとスプリントは90ポイント以上、1㎞TTや個人追い抜き競走は30ポイント以上獲得すればワールドカップ出場に向けた第1条件をクリアしたことになります。
第2の条件は、集計期間終了後のポイントランキングにおいて、種目ごとに定められた参加人数枠内に入らなければ出場はできません。オリンピック個人種目を例に取ると、スプリントは45人、ケイリンは36人、オムニアムは24人以内に入っている必要があります。そして出場枠はランクインした選手が登録するナショナルチーム又はトレードチームが得ることとなります。
ただし、種目別に各ナショナルチーム・各トレードチームが参加できる人数には上限があり、ランキング内において人数オーバーしたチームがある場合は、順次ランキング下位の者から繰り上がっていく仕組みとなります。例えばケイリンにおいて、あるチームの選手が上位36名以内に3人ランクインしている場合、2人分人数超過となるため、37位~38位の者(チーム)が出場権を得ることができます。
種目別の参加人数枠およびチーム単位の最大参加人数(カッコ内)の上限は下記の通りです。
例えば、日本の場合は、ナショナルチームとトレードチームの2チームがありますが、ケイリンの出場人数上限は各チーム1人なので、国としては2人までしか出場できません。
世界選手権出場に向けて
続いて世界選手権出場への道のりを解説します。
世界選手権の出場権を得るには、直近のアジア選手権で当該種目に国として参加し、ワールドカップにも全戦参加しなくてはなりません。また、オリンピック種目であるケイリン、スプリントに出場する選手はワールドカップに2回以上、オムニアムその他の種目は1回以上出場しなくてはなりません。さらに、前年の世界選手権の参加枠数のランキングによって変わりますが、クラス3以上の国際大会を1回以上開催しなければ、国として世界選手権に参加する資格が得られません。(今シーズン日本はクラス1を開催する義務があります)
以上の条件を満たした上で、ワールドカップでの獲得ポイントランキングにおいて、各種目の参加枠内にランクインすれば世界選手権に出場することが出来ます。なお、シード枠として、前年の世界選手権またはアジア選手権において各種目で優勝した選手は、無条件で世界選手権に出場できる資格を持ちます。これは国ではなく、選手個人に与えられます。また、開催国も各種目に出場権を得ます。
また、世界選でもワールドカップと同様に、種目ごとに出場できる最大人数が定められています。
リオ五輪に向けて
リオ五輪への出場条件はまだ示されていません。ロンドン五輪の時と同じ条件で出場枠が争われると仮定すれば、来シーズン(2014年)からのUCIポイントが対象となってきます。つまり、来シーズンの世界選手権(2015年春)に確実な出場を果たし、好成績を狙っていく必要があるということです。そのためにはまず来シーズンのワールドカップに出場し、各種目においてランキング上位に入ることが当面の目標になります。そして、来シーズンのワールドカップの出場枠を得るためのポイント集計期間は今年の9月11日から始まるのです。
ロンドン五輪では、アジアで枠が設けられ、この枠内で各国がオリンピック出場枠を争っていました。この時のUCIポイント対象大会は、アジア選手権、ワールドカップ、世界選手権でした。これらの大会でUCIポイントを獲得し、ロンドン五輪への出場を目指していました。また、チームスプリントで枠を獲得出来れば、ケイリン、スプリントへの出場が確保できました。
今回の制度改正から導き出されるオリンピックへの道のりは、まず各国選手権やクラス1~3の自転車競技大会(コンチネンタルゲーム)、そしてアジア選手権でUCIポイントを積み重ね、ワールドカップへの出場を果たす。更にワールドカップで好成績を収めて世界選に出場していくというものです。
いずれにしろ、ワールドカップ、世界選に出場出来なければ、大きくポイントも獲得できないので、まずはワールドカップ、世界選への出場とメダル獲得を狙いつつ、オリンピック枠を狙って行く事になりそうです。
余談ですが一連の制度改正の目的は、世界規模での自転車競技の普及にあると言われています。現にクラス1〜3にカテゴライズされるコンチネンタルゲームと呼ばれる国際大会が世界各地で今年から頻繁に開催され、ワールドカップの出場権を獲得するために一流選手が数多く出場するようになり、自転車競技が活性化してきています。
昨シーズンまではこの大会はワールドカップの出場には関係ありませんでしたがトップクラスの選手の出場を確保するため、ワールドカップの出場条件に関与させることとなったのです。
9月8日、東京五輪の開催が決定しました。私達日本人にとって、そして全てのアスリートにとって大きな夢の舞台が再び訪れようとしています。競輪界にとっても、競輪選手が日本の代表としてオリンピックに出場し、「ケイリン」をはじめとする自転車競技でメダルを獲得することは積年の夢でした。
まだ、「ケイリン」がまだオリンピック種目でなかった頃、1964年の東京五輪でも河内剛選手(宮城・21期)や班目秀雄選手(福島・24期)など9人の競輪選手が自転車競技トラックに出場し、メダル獲得は成りませんでしたが、大きな話題となりました。それ以降、1984年のロサンゼルス五輪で坂本勉選手(青森・57期)がスプリントで自転車競技界初の銅メダルを獲得、その後競輪選手がオリンピックに出場し、競輪選手が初めて参加した1996年アトランタ五輪での1kmTT銅メダル(十文字貴信選手)、2004年アテネ五輪でのチームスプリント銀メダル(伏見俊昭選手、長塚智広選手、井上昌己選手)、2008年北京五輪でのケイリン銅メダル(永井清史選手)とメダルを獲得しています。
もちろん、東京五輪の前には2016年のリオ五輪が控えています。リオに向けた戦いの火ぶたは既に切って落とされました。アテネ、北京に続いて競輪選手がオリンピックの表彰台に登る日を待ち望んでやみません。
日本自転車競技連盟・中野浩一副会長へのインタビュー
―ロンドン五輪では、メダル0個に終わったわけですが、2016年リオ五輪に向けた選手の育成、強化における今後の取り組みや課題を聞かせてください。
「今までは、高校を卒業し競技を続けて行くのであれば、トラック競技なら競輪選手になるか、大学への進学、又は実業団に入るという選択肢があり、ロード競技であれば大学への進学か実業団かという選択肢がありました。
大学ではどうしても各大学の方針に基づいてトレーニングをするという形になり、ジュニアからの一貫したトレーニングシステムが無いことが問題点として指摘されてきました。
いくら光るものを持っている高校生でも、その後の進路によってはその素質を十分に活かせないという面もあり、過去にジュニア世界選手権で何人もメダルを獲得した選手がいる中で、将来に上手く繋げていくことができなかったということは非常に大きな問題だと思っていました。
今後は、高校生からプロまで一貫したトレーニングシステムを構築していきたいと考えています。とはいえ、すぐに何もかも一新するというのは難しいので、短期的には、高校生や、ジュニアの女子選手や、競輪学校の生徒などを強化合宿に頻繁に呼んで能力を高めていくことが必要だと考えています」
―選手発掘のためには色々な大会に足を運ぶことが必要になりますね。
「そうですね。松本整総監督は忙しいですが、各種目のコーチがいるので、大会があれば見に行ってもらって選手を選抜して欲しいですね。私の理想としては、どんな大会でもナショナルチームのコーチが見に来ていると、選手達も気合が入りますよね。それにはナショナルチーム自身のステータスも上げないといけない」
―選手強化におけるエリートとジュニアの連携は。
「今年からJCF(日本自転車競技連盟)の強化委員長が坂井田米治氏になりました。坂井田氏はジュニアのトップ(高体連自転車競技専門部理事長)でもあるし、うまく連携が図られていくと思います。もともと私の考え方としては、強化育成選手に高校生を入れていきたかったのですが、時期的にロンドン五輪が迫っていたことや、強化合宿の費用負担の問題等で実現には至りませんでした。その反省もあり、今年の1月には大学生を強化育成枠に入れたのですが、大学の都合で合宿に来られないということもありました。そうなると大学生の意欲を疑いたくもなりますが、もちろん私達もナショナルチームの活動や目的について選手達にきちんと周知して理解を促していかなければならない。ナショナルチームに呼ばれることが一流であるという、日本代表ということの名誉を自覚してもらえるようにしたいと思います。
今は高体連からも学連からも強化委員になってもらっていますので、高校と大学の情報をきちんと共有していくことができます。どうしても高校生ならインターハイ、大学生ならインカレ重視になるので、それぞれの意向を汲んだ上でスケジュールを立てていくことも可能になります。今までよりも高校生・大学生が合宿に来られるような環境を作れると思います。
あとはお金の問題。合宿をやると言っても、高校生や大学生は自己負担ですよね。お金はこちらで持つから合宿に来なさいって言えるようになればいいんだけどね。イギリスやオーストラリアは、その辺しっかりしていて、15歳くらいから一貫したシステムで育てていくので、ジュニアを卒業してエリートになる頃には世界のトップクラスになっています。身体の作りも若干違うのは、欧米の方が成長は早いのは早いかもしれないですが、それを考えても日本人でも20歳前後では世界で戦えるような身体にしないといけないでしょう。それでも最低5、6年はかかっているということですから。そこを個人に負担がかからない形で、できればJCFで負担してやれるような一貫したシステムを作らないとなかなか5年も6年もついて来られないですよね。ジュニアには金銭的な理由で強化指定になりたくてもなれない選手もいると思います。だから年に1回くらいはトライアウトのようなものを実施して、チャンスを与えるのも選手発掘のためには必要かと。将来に投資していくための経費の問題についても解決していかないといけないですね」
―磨けば光る原石を発掘していくための具体的な方策は?
「まず底辺を広げないといけないですね。女子だと8月に開催したガールズサマーキャンプ中にトライアウトを行いましたが、今後トライアウトを頻繁に行い、そこで意欲のある人の中から資質を見て、選抜したいと考えています。「資質」の測定方法にも改善が必要で、10mおきのタイム測定をやればその人の持っている資質みたいなものがある程度見えてくる。どのような資質をもっている人が速いのかとか、今後伸びていくのかということは1年や2年で分かるものではなく、トライアウトを毎年繰り返していくことによってデータを蓄積し、選手の特性や伸び具合を把握し分析すれば、タイプ別のあるべきトレーニング方法も見えてくる。そうした手法で選手を発掘して行ければと考えています」
―リオ五輪に向けての選手の選抜は。
「方針はまだ決まっていませんが、現時点では出来る限り色々なところに顔を出し、声をかけて、視野を広くして選抜していきたいと思っています。当然合宿をやらなければ分からないことなので、合宿が出来る環境というのを作らなくてはいけないと思っています」
―今シーズンからワールドカップや世界選手権の参加基準が改正されました。
「今回の改正のポイントは選手個人単位でポイントを集計するようになったということ。その中ではまず国として参加資格を取るということが最重要。それから国内の代表を選抜するという流れになります。参加資格は選手みんなで取ってもらって、国内選考を経て代表を選抜するという形にしたいと考えています。枠を取った人が自動的に大会に出られるということではなく、国内の合宿や全日本選手権の内容を選考、公平に選んでいくのが一番自然な形かなと思います」
―来年の世界選手権(コロンビア・カリ)に参加するための展望は?
「まずワールドカップでは、男子はケイリン2人とスプリント2人、女子についてはケイリン1人とスプリント2人のワールドカップ参加資格を取ることができました。また、チーム競技は各チーム参加できますが、男女とも目標タイムを提示して、そのタイムをクリアすれば派遣しますが、クリアできなければ派遣しませんということを明確に選手に示す必要があると思っています。短距離は当然資格を取った選手の中から選考します。また、オリンピック種目であるスプリントとケイリンに関しては、ワールドカップで最低1人2回は出場しなければ世界選手権に出場できないという縛りもありますので、その辺も考慮した上で参加選手を決めていく必要がある。端的にはワールドカップに出場し、好成績を収めることが世界選手権の資格を取る事に繋がっていくわけです」
―アジア選手権の展望はどうでしょうか。
「アジア選手権に出場する選手を選考する際にやはり難しいのは日程的な問題。これが選手の出場するしないに大きな影響を与えているので、JCFとしては出場が選考に関わってくる可能性がある事を明確に選手に伝えた上で、選手ときちんとコミュニケーションを取りながら選手選考をしていくことが必要です。こうした事情はなかなか表に出ないので、周りから見るとなんであの選手が選ばれていないのかというようなこともあると思いますが、それは選手とJCFできちんと話し合って決めていると説明出来るように選考、派遣をしたいと思っています」
―自転車競技の底辺拡大のための課題と、必要な取り組みは?
「少しでも競技者が増えないといけないというのは、これはもうJCFだけの問題でもなく、自転車競技界全体の問題ですから。何と言っても日本には女子も含めて競輪があるわけだから、そこが非常に大きい意味を持つと思います。競輪をもっとPRして、競輪選手を目指したいという選手が増えていけば、当然、自転車競技者も増えていくと思います。基本的にお金が稼げないスポーツでプロになろうとはなかなか思えないのは当然で、野球にしろサッカーにしろ、トップ選手になればたくさん稼げるとか、注目されるということが動機づけになるのだと思います。山が高ければ高いだけ裾野が広がっていくということなので、やっぱり競輪界としてもその山をなるべく高くしなければいけない。そして裾野をどんどん広げていくという流れにして欲しいですね。競輪界と連携してそうしたことを実現していきたいと思っています」
―最後に中野副会長が今注目している選手を教えてください。
「女子の場合はやっぱり前田佳代乃でしょうね。これはもう環境的にも今までにない(競技だけに絞った)環境でやれているわけなので、ある程度の結果を残すのが当たり前ですし、彼女には精一杯頑張ってもらいたいなと思っています。
男子については誰というのは難しいですが、やっぱり競輪選手としても超一流であってほしいし、競輪選手の超一流が世界でも戦えるというところを証明してほしいという思いはありますね。新田祐大がケイリンについては力があると思いますが、スプリントはちょっと難しいのかなと。スプリントは中川誠一郎の方が力的には上ですが、すごく良いレースもする一方で思い切りが悪くなると負けてしまうことがあり、その辺は今後の課題でしょう。潜在的な力を持った選手は他にもたくさんいると思うので、これからどんどんそういう選手が出てきてくれればいいと思います」
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