自転車競技

2013・2014 UCI トラック ワールドカップ第1戦・マンチェスター大会 レポート
2013-2014のワールドカップシリーズは、今までと参加方法、出場資格が大きく変わり、2013年9月10日までの1年間、クラス3以上の国際大会に参加し、ワールドカップ参加ポイントを獲得しなければ今期のワールドカップに参加出来なくなった。
各国は、これらの大会に積極的に参加、また、クラス3以上の国際大会を開き、ポイントを積み重ね、今シリーズのワールドカップに出場してきた。
我が日本チームも同じくこれらに参加し、ワールドカップの出場権を得てきたのである。
そのワールドカップシリーズは11月1日、マンチェスターから始まった。
大会が開催された場所は、マンチェスターの東側にあるナショナルサイクリングセンター。
3年前にワールドカップが行われた時とは大きく様変わりし、ベロドロームの隣に室内のBMXコースが出来ていた。また、トラム(路面電車)、バスも市内中心部から自転車競技場まで通っていて、アクセスが良くなったのには驚いた。
現在、ここマンチェスターでは色々なトラック競技が行われており、大盛況となっているのもうなずける利便性の良さである。
さて、日本から出場したのは、短距離男子・中川誠一郎、渡邉一成、河端朋之、脇本雄太。短距離女子・石井寛子、前田佳代乃(京都)。中距離男子・窪木一茂(マトリックスパワータグ)。中距離女子・塚越さくら(鹿屋体育大学)である。
取材を開始したのは、大会の前日の10月31日。ナショナルサイクリングセンターに到着した日本チームの様子を伺った。
競輪選手達は、渡航の直前まで競輪競走に参加し、疲れのある選手もおり、コンディションを上手く調整出来ていない選手の姿も見受けられた。
初めてのワールドカップの参加は塚越さくら。国内屈指の中距離と短距離の素質を持ち合わせた選手で、初参加となるこの大会でどのくらい活躍できるか期待したい選手である。
また、窪木も久々の国際トラック大会となる。最近のオムニアムではタイム計測系の種目での順位を上げていかないと勝負にならなくなってきている。どこまでタイム計測系で頑張れるかが今大会での一つの課題だ。
競輪選手達は、クラス1を転戦しワールドカップ出場を勝ち取ってきた。
参戦選手は中川誠一郎、渡邉一成、河端朋之、脇本雄太。
出場に至るまで様々な出来事があり、ワールドカップ出場に向け不安との戦いもあった。それらを乗り切りワールドカップ出場を果たしたのだが、実際問題として、選手強化は行われておらず、どこまで世界と戦えるのかに於いて不安があった事は否めない。この状態でどこまで戦えるか期待と不安が入り乱れる。
女子の短距離陣は前田佳代乃と石井寛子が出場。
石井は直前までガールズケイリンに参加しており、疲労が残っている様に思われた。また、前田に関しては、京都に住居を移し、松本総監督の下でトレーニングに励んできたはずで、中野浩一日本自転車競技連盟副会長は「前田はトラック競技に専念しているから期待する」とインタビューに応えていただいた。非常に期待が掛かる一戦となる。
マンチェスターの街並み
ナショナルサイクリングセンター ベロドローム

11月1日 初日

初日の日本人選手の出場種目は、男子チームスプリント、女子チームスプリント、男子オムニアムの3種目。

男子チームスプリントは1走・河端朋之、2走・渡邉一成、3走・中川誠一郎という布陣で臨んだ。しかし、タイムは44秒811と大きく出遅れ、9位で予選落ち。1走の河端はマンチェスターに入ってから1走を任されることになり、準備不足のままでレースに臨みこの結果となった。今のジャパンチームの弱点がストレートに出てしまった。
また女子チームスプリントでは、1走・前田、2走・石井で臨み、35秒627で10位。これもまた予選落ちとなった。
チームスプリントの優勝は、男子がドイツで43秒293、2位ロシア43秒844、3位イギリス43秒972。
女子もドイツで32秒788、2位イギリス33秒635、3位マックスプロサイクリング(中国)33秒372。
男子オムニアムに出場した、窪木一茂はフライングラップ(250mタイムトライアル)14秒104で18位と出遅れてしまった。ポイントレースでは落車した影響もあり10位、エリミネーションでは14位で終了した。
初日行われた他の種目は男子団体追抜き、女子団体追抜き、女子スクラッチレース。
男子団体追抜きの結果は優勝がイギリスで3分58秒654、2位オーストラリア3分59秒293、3位デンマーク4分1秒934。
女子団体追抜きの結果は、優勝がイギリス4分19秒604。2位カナダ4分27秒083、3位オーストラリア4分30秒831。ちなみに今年から女子団体追抜きは4人制4kmでの計測となり、イギリスチームが出した予選、決勝のタイムは世界新記録となった。
女子スクラッチレースの結果は優勝ウォジティラ・マルゴザタ(ポーランド)、2位アーチボルト・ケイト(イギリス)、3位クリチェンコ・タニア(ウクライナ)。
初日
★男子チームスプリント
河端朋之選手コメント
「後ろの2人(渡邉、中川)はすごく強いのに、僕が足を引っ張ってしまいました。悔しいですね。やはり僕のタイムが上がれば後続にも繋がると思うんですけど、今のタイムでは(全体的に)下のほうなので…。最低でも17秒台は欲しいところなので、強化はやっぱり必要ですね」
渡邉一成選手コメント
「体調を整える、調子を上げいく時間が思うように取れませんでした。万全な状態で大会に臨むことが出来なかったのが悔しいところです。チームスプリントは悪くても12秒9、良ければもっとというのが目標だったんですけど、届かなかったので、課題だと思っていた部分が出ました。交代してからの加速がいまいち例年通りにはできなかったんですけど、そこはチーム内で調整を行っていなかったので、交代するタイミングがずれてしまったというのはあります。ただ手応えはあるので、あとは個人の課題として残っている部分を磨いていければ、もっと上を狙えるかと思います」
中川誠一郎選手コメント
「3人で合わせたのは今年2月の世界選以来です。それにしては走れとは思います。僕自身は結構余裕がありましたが、それでもあとコンマ1、2秒はタイムを縮めないと上位には敵わないのですよね。やっぱり13秒1位でないと。とにかく世界のレベルがすごく上がっていると感じます」
★女子チームスプリント
前田佳代乃選手コメント
「チームスプリント自体久しぶりでしたが、石井寛子さんとはもう何度も走っているので、どのくらいのタイムが出せるかというところでしたが自分のタイムが全然良くなかったです。まだまだ課題も多く見つかっているんですけど、どうしても今は個人種目を優先しているので、そういうところが出てしまったレースだったかなと思います。
上位陣は当たり前のように33秒台を出しているので、いつまでも35秒台にいたんじゃ全く話にならないので、まずは34秒台を出せるようにします。世界の順位ももちろんですけど、アジアの中で上位を取れるかというのもこれからすごく大事になってきます」
石井寛子選手コメント
「自分としてはスタートは良かったと思うんですけど、まだまだ日本新記録には遠いですね。目標は34秒台でした。第2戦まではレースを走りながらの調整になると思うんですけど、合宿もありますし、次こそは結果に繋げたいと思います」

11月2日 2日目

2日目のジャパンチームの出場種目は男子ケイリン、男子オムニアム2日目、女子スプリント、女子オムニアム1日目。
男子ケイリンには、ジャパンで脇本雄太、CCT(シクロチャンネルトーキョー)で渡邉一成が出場した。
1回戦は1着勝ち上がり。第4ヒートに渡邉、第6ヒートに脇本が出場し、共に先行するも着外で敗者復活戦に。
敗者復活戦は第4ヒートに脇本、第6ヒートに渡邉が出場したが、脇本は出切れず敗退、渡邉も先行したが残れず敗退となった。
優勝は競輪の短期登録で来日して活躍したフランソワ・ペルビス(フランス)、2位はマクシミリアン・レビー (ドイツ)、3位キャネロン・ハーソリー(ベネズエラ)。
女子スプリントは、石井、前田が出場し、200mFTTを前田が11秒449で15位、予選突破。石井は11秒775、25位で予選敗退となった。しかし、予選を突破した前田は、1/8決勝敗退、1/4決勝B戦も敗退し、16位となった。
この種目の優勝はヴォーゲル・クリスティナ (ドイツ)、2位リー・ワイジー(香港)、3位はガールズ短期登録で日本国内で有名となったスプリント女王ジェームス・レベッカ(イギリス)となった。
窪木の男子オムニアム2日目は、4000m個人追い抜き、スクラッチレース、1000mタイムトライアルが種目。個人追い抜きでは4分40秒721で14位、スクラッチレースでは7位と健闘し、最終種目の1000mTTでは1分7秒028で16位となり最終順位は14位となった。世界選手権出場に向けては良かったが、タイム競技でもう少しパワーアップが欲しいところだ。
優勝はデビジスト・ジャスパー(ベルギー)、2位ヴェルト・ティム(オランダ)、3位デビソン・ルーク(オーストラリア)。
女子オムニアムには、塚越さくらが出場。塚越は初めての大きい国際大会出場となる。そこには緊張と不安が入り乱れていたはずである。初日のフライングラップ、ポイントレース、エリミネーションをどのようにこなすのかに注目した。
フライングラップに関しては、強豪相手に15秒106で11位スタートとなった。こちらの種目にはオムニアムで名だたる選手達が出場。
続くポイントレースでは、事情が呑み込めなかった。本来、塚越は逃げるタイプの選手では無く、集団にいて、ゴール前で差してポイントを稼ぐ脚質である。しかし1回目のポイント周回で後続を引き離しトップで通過し5ポイント獲得した。通常ならば集団に戻る指令を出さなくてはいけないところを、スピードを上げラップアップ狙いに行ったのだ。しかし、ラップする前に2回目のポイント周回が近付くと集団のスピードは一気に上がりラップ出来ず。更に周回遅れとなり、下ろされてしまった。下ろされるとポイントは2倍となり、確実に総合順位は最下位もしくは、最下位に近くなってしまう。世界選の枠取りをしなくてはいけない大会で、下ろされる事は一番行ってはいけない。エリミネーションも動揺した塚越は踏ん張ってはいたが、持ち味のスピードが発揮できず12位に終わった。
他の種目は女子個人追い抜き、男子ポイントレース、男子個人追い抜き。
女子個人追い抜きの優勝はジョアンナ・ローセル、2位ワサック・レベッカ(オーストラリア)、3位アーチボルト・ケイト(イギリス)。
男子ポイントレースの優勝はイヴァン・マルティン(アイルランド)、2位ハンセン・ロセノーマン(デンマーク)、3位ヴィヴィアーニ・エリア(イタリア)となった。
男子個人追い抜きの優勝は、コロダン・マーロー(イタリア)、2位セロフ・アレキサンダー(ロシア)、3位マロベッティ・セバスチャン(スペイン)。
★男子ケイリン
渡邉一成選手コメント
「今回は長い距離をダッシュする、トップスピードを維持するという練習はしてきたんですけど、時間がなくて、ある程度のスピード域から爆発力をつけるというトレーニングがなかなか出来なかったので、完全にその部分を突かれた感はありますね。ある程度ペースで走っていて、最後は相手を引きつけてから合わせる踏み返しの爆発力っていうのが課題だなって思っていたんですけど、1回戦も敗者復活戦もそのタイミングで掛りがよくなかったので、捲られたと思います。
(第2戦は)それ以外の部分では満足いく結果が出てきたので、そこを磨きつつ全体を上げて、疲れをしっかり取って挑みたいです」
脇本雄太選手コメント
「経験不足がもろに出ました。ワールドカップ自体は2009年にコロンビアで1回走ったきりなので、その時と比べるとギアもだいぶ違っていたし、完全に置いていかれた感じです。レースの動かし方としては悪くないかなと思ったんですけど、まあ思い通りにいかないのは仕方ないのかなと。日本の競輪でもこのスタイルですし、とにかく僕には先行しかないと思っているので、競技のほうでもそれを反映させたいというのはあります。第2戦までには競輪祭もあるので、一旦は競輪に集中し、なんとかうまく競技に繋げられるように調整したいですね」
★女子スプリント
前田佳代乃選手コメント
「予選のタイムは周りと比べるともっと欲しかったなというのが正直なところです。でもロンドンオリンピックまでのシーズンでは1回もワールドカップの予選を通過できていなかったので、それを考えると少しは進歩できているのかもしれないですけど、まだまだ物足りないですね。次のアグアスカリエンテスは高地なので、まずはハロンの日本記録を間違いなく出せるようにしたいです」
石井寛子選手コメント
「ガールズケイリンの競走から中0日で来て、疲れもあったのかタイムが出ませんでした」
★男子オムニアム
窪木一茂選手コメント
「目標としていた順位(10位以内)に届かなかったですし、タイムも伸びなかったので悔しいです。フライングラップも練習では13秒台後半は出せているので、13秒8くらいを目指していたんですけど。ポイントレースとエリミネーションで順位を上げることができなかったので、それが大きく結果に影響したと思います。スピードがないことが一番の課題ですし、まずは経験を積むことが必要だと思います。(今季はロードが中心だったので)トラックの準備をしっかり行えれば、もっといい結果になると思いますし、一桁の順位も十分可能だと思います。来年はトラックを中心にと考えていますが、ロードもトラックもどちらも結果が出るようにしたいです」

11月3日 最終日

最終日は男子スプリントに中川誠一郎、河端朋之。女子ケイリンに前田佳代乃。女子オムニアム2日目に塚越さくらが出場した。
男子スプリントは河端が10秒284で予選敗退、中川が10秒046、11位で予選通過。9位までが9秒台とここ最近はタイムが伸びている。
驚愕だったのは、上位クラスのシロー・ケヴィン(フランス)、ケニー・ジェイソン(イギリス)が予選落ちした事だ。まったく精彩を欠いていた。
中川は1/8決勝敗退、1/4B決勝敗退となった。
男子スプリントの優勝はフォルストマン・ロバート(ドイツ)、2位フィリップ・ニコルス(トリニダード・トバコ)、3位パーキンス・シェーン(オーストラリア)。
女子ケイリンの前田は先行するも1回戦、敗者復活戦共に敗退。特に敗者復活戦では確実に勝ち上がらなくてはならないところで敗退してしまった。前田の出場した敗者復活戦は5選手出場で勝ち上がり3選手。特に目立った強い選手はいなかったのだが4位で勝ち上がれず。強化が足りていない印象を受けた。
優勝はフォーゲル・クリスティーナ(ドイツ)、2位ジェームス・レベッカ(イギリス)、3位クリア・サンデル(フランス)。
女子オムニアム2日目の塚越は個人追い抜きを3分55秒170で14位スタート。トップタイムはカナダのカールトンが3分34秒003だった。
次のスクラッチレースでは、13位フィニッシュ。レース運び的には持ち味を活かした形になっていたと思う。本当にポイントレースが悔やまれる。
最終種目の500mタイムトライアルでは36秒686で9位。しかし最終順位は15位となった。
優勝はトロット・ローラ(イギリス)、2位カールトン・ギリアン(カナダ)、3位バートン・ラウレン(フランス)。
他の種目は男子スクラッチレース、女子ポイントレース。
男子スクラッチレースの優勝はミューラー・アンドレアス(オーストリー)、2位ヴィヴィアーニ・エリア(イタリア)、3位モルド・ジョナサン(WAL)。
女子ポイントレースの優勝はブラウン・ローラ(カナダ)、2位ニューエル・エリザベス(アメリカ)、3位ウオン・ワン・ユイ・ジェイミー(香港)。
ワールドカップ総合優勝はイギリス!
最終日
★男子スプリント
中川誠一郎選手コメント
「予選ではもう少しで9秒台だったので、出したかったですね。感触的には来たかなと思ったんですけど。本戦はちょっとキレがなくて、情けないレースをしてしまいました。ワールドカップに出ること自体が難しくなっているし、予選ももう世界選くらいのレベルですね。コンスタントに9秒台を出せるようになれば戦えると思いますが、そこが難しいところではあるんですけどね。もうちょっとの所まで来てると思うので、まだまだ諦めずに頑張りたいです」
河端朋之選手コメント
「今年からのポイント制度変更の関係でランキング上位の選手しか出てこないような大会になりました。予選のボーダーラインは多分10秒1かフラットくらいだろうと予想していた中でタイムを出せずに予選落ちなわけですから、そこはもう情けないだけです。目標は毎回見えているんですけど、それをしっかり強化していく時間と余裕がなかなかなくて。それでもやらなくちゃいけないことですから、頑張りたいと思います」
★女子ケイリン
前田佳代乃選手コメント
「やろうとしていたことは1回戦、敗者復活戦とも出来たんですけど、末脚を欠いたのもあるし、そこはもう本当に自分の実力の無さなんだなと思います。ここに至るまでの間にも色々と試合をしてきて、ちょっとずつ自信じゃないですけど、やれると思えるようになってきた割に、結局いつもと同じ結果になってしまったので残念です。本当にちょっとずつしか前進できませんが、次(第2戦)は意地でも1回戦を通過します」
★女子オムニアム
塚越さくら選手コメント
「最初はもう不安ばかりで、身体も思うように動かなくて、どうしようかと思いましたが、最後のほうのスクラッチ、500mタイムトライアルは気持ちも吹っ切れて、走ることが楽しいと思えました。今回はコーチからも色々とアドバイスや改善点を言われたので、そこはしっかりもう一度見直して、次のレースでは同じ失敗を繰り返さないように走れたらなと思います。またチャンスをもらえるように頑張りたいです」
松本整総監督コメント
「今年度は合宿もほとんど出来ていなかったこともあり、250mバンクでみんな力を出し切れていなかったと感じます。次のメキシコの大会にはなんとか立て直してやっていきたいなと思っています。(枠取りのかかる)オリンピックの前年にいいパフォーマンスを出せるような状態に持っていきたいので、これから徐々にそのレベルには近い成績を取ってもらえるように頑張りたいと思います」