自転車競技

第17回アジア競技大会レポート
韓国・仁川で開かれたアジア大会2014のトラック自転車競技は男女共に短距離3種目、中距離2種目が行われ、男子が全種目でメダルを獲得となった。
派遣された選手は競輪選手から、中川誠一郎、渡邉一成、河端朋之、脇本雄太、石井貴子(以上短距離)、加瀬加奈子(中距離)の6選手。また競輪選手以外では短距離は女子の前田佳代乃、中距離では男子・橋本英也、一丸尚伍、窪木 一茂、近谷涼、女子・上野みなみ、塚越さくら、小島蓉子、中村妃智である。現状の日本最強布陣でアジア大会に挑んだ。

獲得メダルの内訳は男子スプリント、男子オムニアムで金メダル。男子スプリント、男子ケイリンで銀メダル、男子チームスプリント、男子チームパーシュートで銅メダルである。女子はメダル獲得とはならなかったが、女子チームパーシュート3?4位決定戦で素晴らしいタイムを出し日本新記録となった。
4年に1回行われるアジアのオリンピックと言われるアジア大会の自転車競技は、年々レベルが上がるアジアの強豪国を相手に、日本がアジアの頂上に近づけるのか試される大会と位置づけられる。
また、オリンピック出場の枠取りの目安にもなる。
特にリオデジャネイロ・オリンピック出場の枠取りでは、短距離個人枠(スプリント・ケイリン)を獲ることも重要だが、チームスプリントの枠を獲ればスプリントとケイリンの枠も含まれる。しかし、チームスプリントの枠はアジアには2。アジアのトップ2に入らなければ枠は獲れないのである。今回のアジア大会を振り返ると、日本は男子チームスプリントで3位、女子では4位である。
目まぐるしくアジアの勢力図は変わる。特に韓国の台頭が目覚ましい。男子チームスプリントでは1位、女子では2位となっている。

男子チームスプリント

1位 大韓民国       59秒616
2位 中華人民共和国  59秒960
3位 日本         1分00秒436 ※予選3位(1分00秒106)

チームスプリント3-4位決勝戦を走るジャパン。

メダルを獲得した3選手。左から河端、渡邉、中川。

女子チームスプリント

1位 中華人民共和国     43.774
2位 大韓民国         44.876
3位 チャイニーズタイペイ  45.389
4位 日本            45.926 ※予選3位(45秒873日本新記録)
※仁川International Velodrome 周長333.3m

女子チームスプリント 2走を走るのが石井貴子。
ロンドンオリンピックから強化され始めた日本の女子種目はより一層の強化が求められるだろう。アジアの現状、世界の現状をみればタイム的にもまだまだである事は間違いない。

男子の個人種目をみると、男子スプリントは中川が金メダル、河端が銀メダル獲得となった。特に中川のスプリント予選200mフライングタイムトライアルのタイムが素晴らしかった。オープンエアの平地で9秒942という大会新記録で1位通過。河端も10秒065という好タイムで3位通過したことが、日本の実力を証明している。

男子スプリント1-2位決定戦は
河端VS中川の日本対決となった。

男子スプリント表彰。1位中川、2位河端となった。
男子ケイリンは渡邉一成が銀メダル、脇本雄太が5位という結果となった。
両者とも決勝までは順調に勝ち上がり、決勝では日本2選手、マレーシア2選手、中国1選手、イラン1選手が対戦。特にマレーシアは、日本でもお馴染みのジョサイヤ・ヌグと、世界でもトップレベルのアジズルハシニ・アワン。日本ラインVSマレーシアラインの戦いに中国、イランがどのような作戦で挑んでくるかだ。
決勝の周回は前からアワン、ヌグ、脇本、渡邉、ダネシャヴァラホウラム(イラン)、バオ(中国)。
残り2周でペーサーが退避すると脇本が先行その番手で内アワン、外渡邉が並走。さらに渡邉が番手を取り切るが、残り半周少し前で、アワンが渡邉を強烈に締めながら捲って出ると渡邉も捲って出たが合わせきれず、アワンに若干、前に出られてしまった。ゴール前では差し返しにいったが差し返せず3着到達。1着はアワンの後ろを追走していたダネシャヴァラホウラムだった。2着到達のアワンは降格となり渡邉が繰り上がり2位となり銀メダルを獲得した。
しかし、相当悔しい銀メダルだったに違いない。脇本の先行という絶好の目標を得ての2位は納得のいかないところがあるだろう。だが、レースを見れば、相当難しいレースだった。残り半周の攻防は、スプリンターレーンを外す事も出来ず、内も締められないサンドイッチ状態にマレーシアラインが仕掛けてきた。普通であれば失速もしくは外から思いっきり行かれる展開を凌いでの2位は価値があると思う。漁父の利を得たのがイランだった。

男子ケイリン1-6位決勝。先行する脇本、番手追走の
渡邉。この写真の前後で激しい番手戦となった。

男子ケイリン表彰。2位に渡邉となり銀メダル獲得。
 
 
短距離女子をみると女子チームスプリントで4位、女子スプリントでは石井が6位、前田が7位、女子ケイリンでは石井が7位、前田が8位という成績。女子チームスプリントは333mバンクでは日本新を出したが、他国と比べれば実力の差は一目瞭然である。トップの中国を見れば2秒差。2位の韓国を見ても1秒以上ある。全体的なレベルアップが求められるだろう。石井は本格的に自転車競技を始めて1年。大きく伸びることを期待したい。

女子ケイリンを走る石井。

女子スプリントを走る石井。
中距離では橋本英也が男子オムニアム(スクラッチレース、個人パーシュート、エリミネーション、1kmタイムトライアル、フライングラップ、ポイントレースの6種目の総合ポイントで競う競技)で金メダル、そして男子チームパーシュートで銅メダルを獲得。橋本の男子オムニアムの金メダルは最後のポイントレースで大逆転の金メダルだった。男子チームパーシュートでも日本新記録の4分8秒470を1回戦で出し更に上を目指せる可能性が見えた。
女子はチームパーシュート3-4位決定戦で4分37秒897(日本新記録)を出したが4位となった。女子オムニアムでは塚越さくらが4位となった。

男子オムニアムで金メダルを大逆転で獲得した橋本。

男子チームパーシュートで銅メダル獲得。

女子チームパーシュート。日本が走る。
トラック競技に出場していた選手団が9月26日に帰国したため、短距離トラック自転車競技の渡邉にインタビューをした。
―まず、チームスプリントを振り返っていかがでしたか?
「韓国チームのタイムが脅威的でした。その中、予選で日本チームは良い走りをすることが出来ましたが、タイムがちょっと届かなかったので、銅メダルという結果になってしまいました。今、現時点で自分が課題だと思っていた部分が出た形になってしまいました」
―ケイリンは?
「決勝で脇本(雄太)君に頑張ってもらったんですけど、アワンの加速力に反応しきれなくて、結果、自分が苦しい展開になってしまったので、そこが脇本君の走りを活かすことができなかった自分の弱さだと思います」
―脇本選手の後でアワンと並走でしたが?
「踏み出しのタイミングで一回粘られて、接触して、締め込むわけにもいかないから我慢していたんです。それで、脇本君がめいっぱい踏んで、そこで脚を上手くためることが出来なくて、アワンが仕掛けた瞬間、合わせて出ていったのですが、アワンのギアが軽かったと思うんですよね。一瞬で前に出られてしまって、逆に僕がギアを上げていたので、そこで出られて4コーナーから厳しい戦いになってしまって、もう無我夢中で接触しているのもわからなかったぐらいでした。脚をためていたイランがまさか伸びてくると思わなかったので、自転車に乗って2年くらいの選手に負けるようじゃまだまだ鍛錬しないといけないですね」
―今後の目標は?
「課題が浮き彫りになったので、そこの部分を重点的にやって、次のステップにしたいですね。その次のステップを見つけるためにも重要な課題だと思うので、もっと自分の弱い部分と向き合って、良い部分もしっかり伸ばしていきたいですね」
インタビュー中も悔しさが滲んでいた表情になっていたのが印象的だった。
※以上の写真は「Kenji NAKAMURA/JCF」
また、今回は監督としてアジア大会に参加した坂本勉氏にも今回の感想を聞いた。
―今回のアジア大会の感想をお願いします
「男子は、それぞれ(の選手が)成果を出してくれたと思います。女子は、アジアは世界レベルの中国や香港がいるので、それらの国に少しでもタイム的に追いつけという感じでやっています。(アジア大会参加前の練習について)男子に関しては、中川誠一郎君が競輪のレースが入って合宿が出来なかったんですけど、河端(朋之)君と(渡邉)一成君と個人種目を重点的にやりました。その中で、現地に行ってから、チームスプリント(の1周目のタイム)では河端君が自己新を出してくれたし、スプリントでも1/2決勝でアワン選手に勝って、よくやってくれたのひと言ですね。中川君は安定感が増して、優勝してくれました。
男子ケイリンの脇本(雄太)君は(自転車競技としての)復帰戦で不安もあったんですけど、現地についてから少し時間があったので、調整が上手くいった感じです。行った時は身体が硬いような感じで不安もありましたが、日に日に良い感じになって、ケイリンの前日くらいに乗車フォームがよくなり、いけるって思ったんです。結果的には渡邉君が銀を獲得しましたが、流れ的には金メダルでもおかしくなかったので、そこがちょっと残念だったです。でも、それを今後の教訓として活かしていければいいなと思います。良い感じで河端君らが育っていて、競い合っていく良い感じになったと思います」
―これからワールドカップが始まりますが、どのように選手選考を考えていくのでしょうか?
「オリンピックへの決まり(出場権のポイント)として、チームスプリントが大事なので、チームスプリントのメンバーを第一に考えた選手作りが重要になります。それに向けてやるしかないので、やっていこうと思っています」
―女子の強化はいかがですか?
「同じく女子もチームスプリントが大事だと思っていますし、ちょっと女子の強化が遅れているというか・・・。経験者は前田さんくらいしかいない状態で、とにかく選手にレースを経験させることが大事だと思っています」
男子、女子共にしっかりと強化をしていくと坂本ヘッドコーチは力強く語っている。リオデジャネイロ・オリンピックまであと2年、その後の東京オリンピックまであと6年と時間が区切られている中、日本チームの飛躍と今後の活躍に期待したい。
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