レース展望

第54回朝日新聞社杯競輪祭(GI)が小倉競輪場で開催される。武田豊樹と長塚智広の茨城コンビを中心に推すが、渡邉一成が先導役を務める北日本や脇本雄太が先導役の近畿もライン的に強力。また中部を牽引する深谷知広の巻き返しにも注目が集まる。
グランプリの最後の椅子を巡る激闘必至!
 武田と長塚の茨城コンビが再度のワンツーを狙う
武田豊樹 茨城・88期
 昨年の競輪祭決勝は、武田豊樹の超高速捲りを長塚智広が差し切ってGI初優勝を達成した。武田と長塚は今年も高いレベルで安定した成績を残しており、競輪祭でも関東コンビを中心にレースが動いていくのはまず間違いないだろう。

 武田は高松宮記念杯で3度目のGI制覇を達成したあとも、8月の福井記念を完全優勝、サマーナイトフェスティバルを優勝、オールスターで決勝進出と輪界の王者にふさわしい活躍を見せており、今年も小倉の高速バンクで昨年と同様の圧倒的なスピードを見せつけてくれるだろう。
長塚智広 茨城・81期
 また昨年の覇者・長塚智広も青森記念、京都向日町記念を優勝して賞金を上積みするなど好調をキープしており、再度連係となれば、昨年の再現があってもおかしくはない。

 関東では岡田征陽の動向にも注目したい。今年はホームバンクの京王閣でグランプリが開催されるが、岡田は10月13日現在の獲得賞金ランキングが8位と射程圏内につけており、初出場を目指しての連日の激走が期待できる。
深谷知広 愛知・96期
 深谷知広は、西王座戦を完全優勝して好スタートを切ると、日本選手権、高松宮記念杯、寛仁親王牌とGIを連続優出で強さを見せつけてきたが、ファン投票1位に選ばれたオールスターでは準決勝で落車のアクシデントに見舞われてしまった。近況は厳しくなる一方の包囲網の前に、苦戦を強いられるシーンがたびたび見られるようになってきた深谷だが、これも避けては通れない宿命であり、競輪祭では深谷がいかに包囲網を突破して勝ち上がってくるかが見どころの一つとなるだろう。
世界レベルのハイスピードを武器に渡邉一成がグランプリ初出場を狙う
 村上義弘が熱い走りで存在感を見せつける
渡邉一成 福島・88期
 ロンドン五輪で世界と戦ってきた渡邉一成が絶好調だ。8月の富山記念決勝では武田豊樹、村上義弘、浅井康太らの強豪を相手に捲って優勝、続くオールスター決勝でもやはり武田豊樹-木暮安由の関東ライン、脇本雄太-村上義弘の近畿ラインを相手にきっちり主導権を取り切って山崎芳仁の優勝に貢献。さらに10月の岸和田記念では村上義弘の先行を7番手から豪快に捲り切って優勝と、世界レベルのスピードをまざまざと見せつけた。獲得賞金ランキングも9位に浮上してグランプリ初出場も見えてきたが、もちろん狙うは競輪祭を優勝しての出場だ。

 渡邉一成の躍進で俄然、士気が上がるのが伏見俊昭だろう。北日本は日本選手権を優勝した成田和也、寛仁親王牌を優勝した佐藤友和、オールスターを優勝した山崎芳仁の3人がすでにグランプリの出場権を獲得しているが、伏見は10月13日現在の獲得賞金ランキングが15位と6年連続のグランプリ出場に黄信号が灯っている。しかし、オールスターの山崎がそうだったように、今や渡邉の番手がタイトルに最も近い位置といっても過言ではなく、競輪祭でうまく渡邉と連係できれば一発大逆転の可能性は十分だし、しっかりと北日本の番手を死守してチャンスを掴んでくるだろう。
村上義弘 京都・73期
 脇本雄太が先導役を務める近畿ラインも強力だ。脇本はオールスターの決勝では組み立ての甘さも出て、渡邉一成とのもがき合いに敗れ、木暮安由と接触して村上義弘ともども落車のアクシデントに見舞われた。 オールスター後は10月の熊本記念から復帰したが、熊本の走りを見る限りでは体調面での不安は全くない。今年は高松宮記念杯、寛仁親王牌、オールスターのGIで連続優出と大活躍、獲得賞金ランキングは10位とグランプリ初出場が視界に入ってきているが、今回もいつも通りの徹底先行で勝ち上がりを狙ってくるはずだ。

 村上義弘はオールスター後は9月の地元・京都向日町記念に出場、優勝こそならなかったが、初日特選は藤木裕の先行を目標に1着、準決勝は稲垣裕之の先行を目標に1着を取って、地元ファンの声援に応えた。次場所の岸和田記念も優勝こそならなかったが、決勝では地元の南修二と前田拓也の地元勢を連れて打鐘先行に出ており、熱い魂の走りも健在だ。村上は日本選手権決勝が9着、高松宮記念杯決勝が6着、そしてオールスター決勝が落車棄権と、今年は決勝で大きな着が続いているが、脇本雄太、稲垣裕之、藤木裕らの後輩たちと好ダッグを決めて、近畿のエースとしての存在感をたっぷりと見せつけてくれるだろう。
新田康仁 静岡・74期
 新田康仁が大復活を遂げている。6月に持病の右膝を手術してから見違える動きを披露しており、9月の青森記念の準決勝では深谷知広を上がりタイム10秒9の捲りで破った。続くオールスターでは準決勝で惜しくも4着に敗れたが、一次予選では6番手からの捲りで上がりタイム9秒1をマークしており、今回もトップクラスを相手に快速捲りでの一発が十分に期待できる。
積極的な仕掛けが目立つ中川誠一郎に一発の魅力
 調子急上昇の岩津裕介がグランプリ出場を狙う
吉本卓仁 福岡・89期
 地元・九州で好調なのが徹底先行で売り出し中の吉本卓仁だ。長い距離を踏める典型的な地脚タイプだが、組み立てもうまく、捲りでの連絡みも多い。7月の久留米記念決勝では浅井康太に捲られたが、長塚智広、岡田征陽、伏見俊昭らの強豪を相手に先行して3着。オールスターでは一次予選が逃げ切りで園田匠とワンツーを決め、二次予選は佐藤友和の捲りを追走して2着に入り、GIで初の準決進出を果たしている。
中川誠一郎 熊本・85期
 勢いに乗っているのが中川誠一郎だ。ロンドン五輪から帰ってきてからは人が変わったように積極的な仕掛けが目立ち、近況は勝ち星の量産体制に入っている。オールスターは二次予選で敗れたが、一次予選は9番手からの怒濤の捲りで1着、5日目優秀も9番手からのカマシ捲りで後続をぶっちぎって1着。次場所の京都向日町記念は準決勝で惜しくも4着と敗れたが、二次予選と4日目特別優秀で1着を取っている。吉本卓仁との連係相性も良く、10月の地元・熊本記念の初日特選では大本命の武田豊樹を破り、吉本の捲りを差し切って九州ワンツーを決めており、今回も勝ち上がり戦での一発が期待できるだろう。
岩津裕介 岡山・87期
 グランプリ出場権を賭けた賞金争いでの注目選手は岡山の岩津裕介だ。10月13日現在の獲得賞金ランキングでは、9位の渡邉一成、10位の脇本雄太に次いで11位につけており、グランプリ初出場が射程圏内だ。オールスターでGI初優出を決めた岩津は3着で表彰台に上がると、次場所の京都向日町記念決勝では荒井崇博の先行に乗り、長塚智広の捲りに切り替えて準優勝、10月の川崎FIではウクライナのビノクロフの捲りを差し切って完全優勝と、ぐんぐん調子を上げてきている。

 岩津に次いで12位につけているのが浅井康太だ。浅井は今年のビッグレースでの決勝進出は2月の西王座戦のみと、S級S班としてはやや物足りない成績が続いているが、記念では6月の岐阜、7月の久留米、8月の小田原と3連覇を達成。9月の防府記念決勝でも最後は井上昌己の捲りに屈したが、新田祐大とのもがき合いを制して準優勝と、好調時のスピードが完全に戻ってきており、競輪祭での熾烈な賞金争いを制してのグランプリ出場が十分に狙える。
競輪祭の思い出
第51回朝日新聞社杯競輪祭 11月23日(月)決勝
優勝:平原康多(埼玉・87期)
 平原康多-有坂直樹、海老根恵太-斉藤正剛、坂本亮馬、浅井康太-永井清史-加藤慎平-山田裕仁の並びで周回を重ねる。赤板ホーム過ぎから浅井が発進、2コーナーで平原を交わして先頭に立つと、平原は3番手の加藤の内で粘る。両者の競り合いは平原が勝利し、平原が最終ホームで3番手を確保、加藤は4番手に下がる。最終2コーナーから永井が番手捲りを打ち、それに平原が続くが、加藤は踏み遅れ、内をすくった有坂が平原に続く。最終バック7番手から海老根が猛然と捲り、最終4コーナーで平原に並びかけるが、直線に入って永井の番手から抜け出した平原が優勝。捲り届いた海老根が2着、海老根の捲りにうまく切り替えた坂本が3着入線した。
第51回朝日新聞社杯競輪祭 11月23日(月)決勝 優勝:平原康多(埼玉・87期)
第51回朝日新聞社杯競輪祭 11月23日(月)決勝
優勝:平原康多(埼玉・87期)
小倉競輪場 400mバンクの特性を知る
無風でカントのきつい高速バンク
基本は先手ライン有利だが、捲りも決まりやすい
 98年に前橋競輪場に次ぐ2番目のドームバンクとして生まれ変わった小倉競輪場は、全国の400走路の中で最もきついカントを有する高速バンクで、天候に左右されることなく、常にベストに近い状態で走れるのが最大の特徴だ。
 走路も軽くて走りやすく、タイムの出やすい無風の高速バンクなので、先行でスピードのある選手に向いている。打鐘からカマシ気味に仕掛けて一気に出切ってしまえば簡単には捲られないし、スピードに乗ってマイペースに持ち込めれば2着、3着に粘り込める可能性が高いので、先手ライン有利が基本となっている。
 だが、全国からトップレーサーが集結するGI開催ではやはり基本通りとはいかず、毎年の開催によって先手ライン有利の傾向が強い大会もあれば、捲りのライン有利の傾向が強い大会もあるので注意が必要だ。昨年の大会では全47レースのうち、先手ラインの選手が1着になったのは19回で、捲りのラインがやや優勢だった。
 ちなみに昨年の大会の決まり手を見てみると、1着は逃げが6回、捲りが14回、差しが27回、2着は逃げが8回、捲りが12回、差しが10回、マークが18回となっている。
 捲りは早めに1コーナーから仕掛けていくと、1センターがカントの関係で登りになっているのでスピードが鈍り、前にいる先行選手に合わされやすい。捲りは中団をキープして2コーナーから一気に仕掛けていき、2センターの手前までに捲り切っておくのがベストだ。先行が掛かるので7、8番手からの捲りは厳しく、昨年の大会では抑えられた自力型がイン粘りに出るケースが多かった。
小倉競輪場バンク

小倉競輪場バンクデータ
 周長は400m、最大カントは34度01分48秒、見なし直線距離は56.9m。全国の競輪場のデータを参考に「走りやすさ」を追求して設計された高速バンクで、06年7月にスペインのエスクレドが10秒5の最高上がりタイムを叩き出している。直線は外帯線から1、2mのところを、外に膨れないように締めて回って追い込むとよく伸びる。